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第十二章 王弟グラント

 翌日、私はゼオの迎えでカルネリアン帝国に向かった。

 驚く事に、ゼオはたった一晩で自分の部屋の隣に私の部屋を整えてくれていた。


 何そのサプライズ。好き。


「気に入ったか?」


 ちょっと部屋が暗黒色強めだけど、魔王の妻の部屋だと思えばそれさえも良く思えてくる。

 何なら無駄に明るくて煌びやかな部屋より落ち着く。


「うん! ありがとう、ゼオ」


 語尾にハートマークが付くような言い方は我ながら気持ち悪いが、ゼオは満足そうに頷いてくれた。


「良かった。部屋の奥の扉は、俺の部屋に通じている。いつでも入って来て良いぞ」


 何と、私の部屋からゼオの部屋に直通しているとは。

 

「本当? 嬉しい!」


 思わず満面の笑顔で答えると彼は私をその場で強く抱き締めた。

 

 ああ、この力強さ、厚い胸板、逞しい上腕二頭筋、全部好き。


「エレス」


 名前を呼んでくれる低くて甘い声。ああ、好き。


 蕩けそうになっていると、優しく頬に手が触れて、軽く上を向かされた。

 直後、唇を優しく塞がれる。


 こんな強そうな見た目で俺様キャラなのに、こんなに優しいキスをするなんて。

 意外だけどギャップが素敵。好き。

 ああ駄目、好きが溢れて止まらない。


 唇を離して私を見つめる熱っぽい眼差し。これだけで白米食べられるわ。この世界はパンが主食だけど。

 そんな事よりも、これからここでゼオと二人幸せな毎日を送れるなんて幸せ過ぎる。


 そんな事を考えた、その時だった。


 部屋の外からドタドタと慌ただしい足音が響いて来た。


「魔王様! ルベウス王国の王太子が、魔王様に謁見したいと言っています!」


 ケイロンの声だ。

 その言葉に、ゼオが不審そうに眉を寄せる。


「ルベウスの王太子が何の用だ?」


 その横で、私は冷や汗を掻く。


 ヴァルダン、一体何しに来たのよ。

 昨日の夜に私を攫おうとした事、黙っていてあげてるんだから、余計な事を言わないでよ。


 内心毒づきながらゼオを見る。

 

「エレス、ちょっと行ってくる。お前はここにいろ」

「でも、相手がどういうつもりかわからないし……」

「だからこそ、お前を会わせたくない。この居室には、幾重にも防御陣が敷いてある。安心してここで待っていてくれ」


 ゼオはぎゅっと私の手を握って、ぱっと離すと身を翻して部屋を出て行ってしまった。


 そんな去り際まで格好いい。好き。


「ほぉ、あの魔族皇帝が、随分と入れ込んでいるようだな」


 握られた手の温もりを噛み締めて悦に浸っていたところに急に声を掛けられ、私は文字通り飛び上がった。

 勢いよく振り返り、窓辺に立っていた人物を見てぎょっとする。


「あ、貴方は……!」

「やぁ、レディ。久しぶりだね」


 私を見てにっこりと笑う淡い金髪と碧眼のその人は、グラント・コーラル。

 二十七歳にしてルベウス王国の筆頭公爵であり、現国王陛下の実弟でもある人物だ。


 ギャレスが十八歳になったのを機に、王位継承権を放棄して臣籍降下したと聞いている。

 社交界で何度か顔を合わせた事はあるが、そういえばこの男もゲームの攻略対象だった。


 性格は、女好きのチャラ男。

 ゲームではヒロインへの好感度が上がる事で一途になっていくという設定だが、今のこの世界ではヒロインがギャレスルートに入っている状態なので、彼のチャラさは変わっていないはずだ。


 ちなみに私も、ギャレス殿下の婚約者だった時に、影で何度か口説かれた事がある。


「……どうしてここに?」


 何故とどうやって、そのどちらの意味も込めて尋ねると、彼は不敵に笑った。


「僕はこう見えてそれなりの魔術師なんだよ」

「……魔王の敷いた防御陣を掻い潜ってここまで来たと?」

「ああ、僕の遮蔽魔術は完璧だからね。僕に潜入できないところはないのさ」


 遮蔽魔術とは、相手から認識されなくなる魔術だ。

 その術師の実力次第では、魔術による防御陣さえも発動させずに通過する事ができてしまう。


 こんな女好きのチャラ男には、一番あってはいけない能力である。


「私に何か用ですか?」

「うん、ヴァルダンに頼まれてね。君を攫って来て欲しいって」


 まぁ、そんな事だろうと思った。

 昨日のヴァルダンの様子では、そのくらいの事はしかねない。


 とはいえ、あまりに浅はかな手段に私は思わず溜め息を吐いた。


「昨日不可侵条約が結ばれたばかりだと言うのに、そんな事をすればどうなるかくらいわかりませんか?」

「君がルベウスの人間に攫われたとなったら、カルネリアン帝国はルベウス王国に攻め入るだろうね……だがもし、君が誰に攫われたのかがわからなかったら?」


 グラントの瞳に、怪しげな光が宿る。


「その場合、最も可能性の高いルベウスを疑って探しに来るでしょうね。そして国のどこかに私の気配を確認した瞬間、攻撃を開始するわ」

「ルベウス王国のどこにも、君の気配がなければ良いとは思わない?」

「……何をするつもりですか?」


 警戒して尋ねた私に、グラントはにやりと笑った。


「言っただろう? 僕の遮蔽魔術は完璧だって」


 彼の右手が光を浴びる。

 

 まずい、そう思った時には遅かった。

 私の視界は黒く塗り潰され、そのまま意識を失ってしまった。


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