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物ノ怪事情  作者: 負け犬
3/5

3話

3話 銃口

リクニスは子供の頃、むしゃくしゃしたり嫌な事があると道場近くの物置小屋に入って隅に座り込んでじっとしていた。

狭くて薄暗い所で無機質な物に囲まれていると自分も意思を持たない物達と同化した様な気持ちになれた。そうやってしばらくしているといつの間にか心が落ち着いた。


「なっ !一体そこで何してるんだリクニス」

リクニスは武器屋の作業場にきてパーツ籠の間に挟まって座っていた。

店主は呆れたように声をかける。リクニスは目線だけを寄越して応じた。

「何もしたくないからここに来たんだ」

「はぁ?」

店主はやれやれと作業に戻りながらリクニスが虚無っている姿を背にパーツの研磨を始めた。

武器屋は狭くて薄暗く無機質なものが沢山積まれていて、よく逃げ込んだ物置小屋の雰囲気に似ていて心が静まる。


訳ありの兄弟子が顧問になった。

最大の賭けと啖呵をきった選抜には落ちた。

良い奴だと思っていた首席はオオカミだった。


この作業場を出たら少しでも快活明朗なリクニスに戻れるよう考えをまとめて置きたい、そう思った。

顧問はヒメヒオウギという、噂でしか聞いた事のない恩師の兄弟子が選抜前に就任になった。

仕事は凄く出来るし効率もいい。部隊運行にはなんの問題もなかった。

自分が目を付けられている事以外。

顧問は恩師が嫌いなのか、恩師を慕うリクニスを事有る事に隊長から引きづり下ろそうとしてくる。

最悪引きづり下ろされても自分がその程度だったという事で収拾がつく。


次に選抜。ダフニー部隊の選抜に落ちた。尖鋭で名高いダフニー部隊に憧れて番人の研修生時代から目指していたが、普通に落ちた。リクニスも成り行きで部隊持ちだが実績がない以上、対した任務も与えられず解体の危機に瀕していた。

リクニスの思案ではダフニー部隊と今の部隊を掛け持ちし、ダフニー部隊からノウハウを飲み込んだ後脱退し自分の部隊を強化する狙いがあった。

加えてダフニー部隊に所属していた経歴も実績に繋がると踏んでいたのだ。

結果は玉砕。単純に実力不足だ。


最後に首席ミヤマカイドウがオオカミだった事だ。

これに関しては1ミリも思考がまとまらない。

正直首席と出会うまではオオカミが好きでは無かった。

というか憎んでいると言っても過言ではない。

幼少期は皇室にいる遠い存在だなぁとしか考えていなかった。

風の噂でオオカミを男に卸したから災いが続いているとは聞いていた。

先生が邪龍によって没名しオオカミを立て汚名を着せられて以降、オオカミさえいなくなればとずっと考えていた。


多分初めから知っていたら、リクニスは首席に声などかけなかった。

知らなかった。だから声をかけてカイドウという男を知った。

知ってしまった。

実力の割に自己肯定感が低く自分を卑下し過ぎて鼻に着く所や。

頼りにされると嬉しくてつい尽くし過ぎてしまう所。

気を許すとわがままになって絡みのウザさが段々エスカレートする所。


想像していたオオカミは、もっと無機質で機械的な。

言われた事を淡々とこなす様なきっと心など持たない弱さを知らない者なのだと思っていた。


それが教官が怖いから次の講義嫌だぁと喚きながらめそめそ着いてくる奴だと誰が想像出来ただろうか。

昼弁当のピーマンの肉詰めに対して「なんでピーマンにお肉詰めるんですか!?お肉だけでよくないですか!」と猛抗議しながら食い。

挙句の果てに「パプリカとかいうピーマンのパチもんが許せません!カラフルにすればいいという問題ではないんです!!!!!」

と今どき小学生でもしないような稚拙な議題を熱弁するエリート様がミヤマカイドウという男なのだ。


「なぁ、店長」

「んだぁ?食いもんはないぞ」

「……相手が、敵か味方か曖昧になった時。店長ならどーする?」

店長は手を止めてリクニスの方をみた。

「相手に銃口を向ければいい。自分が引き金を弾ける奴なら敵。シンプルだろ」

「物騒だな…」

リクニスは眉間に皺を寄せて店長を見た。

「あのな極限の選択に迫られた時、結局決め手になるのは敵か味方かではなく、相手をどう思っているかどうかだ」

店長は嬉しそうに小型の銃を卸してリクニスの前に置く。

「そんなお客様に手頃なこちらの商品がおすすめですぜ」

「突然の営業」

「お前さんは知らないかもしれないが、ここは休憩所じゃなくて武器屋の一角なんだよ」

リクニスはしらーと店長と銃を交互に見た。

「因みに幾ら」

「300円だ」

「おっかしいだろッ値段設定!!!!!絶対いわく付きの銃だろッッ」

店長は白々しく踊るように応える。

「当店では豊富な品揃えと私の目利きによってお客様にピッタリな最善の武器の提供に尽力しております」

「あんたの目利きでは俺は300円の銃が最善って判断してんのか!」

「お前さん、ここの武器屋で買えるのそれくらいだろ。滞在料だと思えば安かろ」

「ぐぅ…っ」

リクニスはポロポロポロと小銭を作業台に転がした。

「毎度あり~」

「因みにどんないわくがついてるんだ」

「ははぁー対した事ないさ、処分に困ったお客さんがここに持ってきた。何度捨てても手元に戻ってくるってな」

「日本人形みたいだな」

店長は肩をすくめた。

「付喪神供養も責務の一貫だろ」

リクニスはポケットに銃を入れた。

「んじゃ、また来るわ」

「はいはい、次もご贔屓に~」


─────────

ミヤマカイドウに銃口を向けた。

しっかりと実弾も入れて。

正直返り討ちにあうのが関の山だろうと思った。

あんな奴でもオオカミで首席なのだ。

失敗すれば番人の資格剥奪では済まされない。

普通に反逆罪で裁かれ、なんなら天罰喰らってお陀仏だ。寧ろ亡き恩師に会えるかもしれないと思えて悪くないなと感じた。

明らかに「間違っている」と解る。

自分の積み重ねてきた努力を部隊や信頼を諦めて自分の手で終わらせようとしている。


どうせ、廃れていくのなら。

どうせ、終わってしまうなら、

せめて最後に知りたくなった。


もし努力が実った先で俺は、アイツを討てるのか



向けた銃口はカイドウの手を使ってカイドウの頭に定められた。

「痛いのは嫌なので、1発で仕留めて下さいね」

その時何故、恩師が頭を過ぎったのだろう。

リクニスはカイドウの 献身的な程のお人好し所が苦手だった。

その時その理由が解った。恩師を尊敬している理由がそれだからだ。

憧れていた。

自分の身や利益を犠牲しても、神々や土地を護る為に一心に力を尽くす。

優しくて強い姿がかっこよくて大好きだった。

でも、

自分の身や利益を犠牲にして任務を遂行し

ある日、恩師は戻って来こなかった。

リクニスは知った、失ってしまう怖さを

任務を放棄してでも自身の身を案じて、先生には戻って来て欲しかった。


見返りを求めず強くて献身的な人格者がリクニスはこの日以降苦手になっていた。



そんな夜を終え。

翌日

リクニスは反逆罪で連行されるのはいつだろうとガラス戸を開けると見覚えのある狼が首輪をして座っていた。

ガラス戸をおもむろに閉める。

次の瞬間にガシャンガシャンと戸を叩く音と荒く引く音が連続した。

「僕です!ミヤマカイドウです!!!!!決して怪しい狼ではありませんッッ」

「訪問営業は固くお断り申し上げます…!」

戸が古すぎて激しく動かされると鍵が閉まらずリクニスは渾身の力で戸を押さえる。

だがその力を凌駕する程の腕力で隙間を作りカイドウは戸をこじ開ける。

「リクニスさああああああぁん」

まるでターゲットを追い詰めた犯人並に鬼気迫る剛腕ぶりにリクニスは引いた。

引きながら力いっぱい抗議した。

「昨夜裏切った奴相手に何しに気やがった!?」

「僕とリクニスさんは宿敵と書いてトモダチと呼ぶ関係なんですねぇ…!」

「そんな関係あってたまるかッッ」

いつになくハイなカイドウは話が通じず頭が痛くなるリクニス。

勿論カイドウはわざやっている。

「友情の形は千差万別!僕達だけのオンリーわんっを築きましょう…!」

くるりと人型になり、カイドウに巻かれた首輪が変質者っぽさを加速させる中。

持っていたリードをリクニスに差し出した。

「手始めに、共同戦線と洒落込みましょうか?」











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