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薔薇の棘にはご用心

作者: ざるうどんs

 私には2つほど年上の彼氏がいる。彼は優しくてかっこよくて背が高い。私の自慢の彼氏だ。


 今まで交際経験がなく腐っていた私は、街ですれ違うカップルに劣等感を覚えていた。でも、今は堂々と道の真ん中を歩ける気がしていた。


 付き合ったきっかけは、彼からの告白であった。その方法がとてもキザなのだ。彼は私に赤い薔薇を手渡した。いわゆる花言葉を用いた告白だ。花言葉は、あなたを愛している。私は少し背伸びして買った花瓶に彼からもらった愛を閉じこめた。


 仕事の帰り道、いつものように車を走らせていると彼を見かけた。声をかけようとした時、彼以外に知らない女性がいることに気がついた。


 彼とその女性は、親しげに夜の街を駆けていた。2人は熱い抱擁を交わし、唇を重ねた。もの惜しげに見つめ合うと、手を振りあってお互いの帰路に着いた。


 ほんの数秒の出来事であったはずであるのに、長編映画を見ていたくらいの時間感覚に苛まれていた。そこで私は初めて『ひく』という感覚を覚えた。


 帰宅後、私は感情に押しつぶされ、眠れない夜が続いた。私の世界だけ彩が失われているかのようであった。私は家に引きこもった。


 1週間ほど経ち、色味のない世界に慣れ始めていた。彼に別れを告げる決心を固め、彼をデートに呼び出した。そして、私達は浮気を目撃した近くの交差点に来ていた。


「あのさ……」


 私は震える唇を噛み締めながら口を開く。


「これ、お前が好きだろうと思って買ったんだ」


 彼の手にはカラフルで大きな花束が握られていた。私の中で嬉しさのような感情が芽吹く。それと同時に涙が零れ落ち、落ちた涙の先から世界に彩が戻る。


「俺はあなたを愛しています」


 彼は、私が世界で1番好きな言葉を添えて花束を差し出す。結局私は別れを切り出すことはなく、さらに彼を好きになっていた。


 彼は、次の日もそのまた次の日も大きな花束をくれた。浮気していても、彼が私のことも見てくれるならそれでいい。そんな風に思うようになっていた。今日もいつものように彼が大きな花束で私を惑わす。


「ありが……」


「すいません。私警察の者なんですけども」


「はい……?」


 私は質問の意図が読めず首を傾げる。不安を覚えた私は彼の方を見る。しかし、そこに彼の姿はなかった。代わりに枯れ果て、見るも無残な赤い薔薇を握る自分の手だけが視界に入った。


──『次のニュースです。轢き逃げ事件の犯人が逮捕されました。事故現場の交差点に来ていた容疑者に警察官が声をかけ逮捕に至りました。容疑者と被害者に深い接点はなく、被害者の勤務していたフラワーショップで1度薔薇を購入していたことが判明しました。また、被害者に手向けられた花束を毎日家に持ち帰っていたことも、捜査関係者の調べによって判明しています。動機は分かっておらず、手に持っていた赤い薔薇に対し、被害者の名前を呼びかけているとのことです……』

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