10
トネシンに到着してから数日が経過した。
現在は3人でミリアの屋敷に住んでいる。
そんなある日、暇を持て余していたトウコが1人で街に行こうとしたらミリアとツバキも一緒に行くと言い出したので3人で街に行く事になった。
特に目的も無く街を歩いていたら、チラホラと魔法少女の姿が目に付いた。
「何か今日、やたら魔法少女を見かけるな。この街ってこんなに魔法少女が居たんだ?」
トウコは気になってミリアに聞いてみた。
「いえ、恐らくは近々開催されるミス魔法少女コンテストの為に集まってきているのかと」
「へぇ…そんなのもやってるんだ。そこら中に貼ってるポスター的なアレはその宣伝の為か」
ミス魔法少女コンテストとは…その名の通り魔法少女の美を競うイベント。
当然、出場者は魔法少女限定でトネシンでは年に一度開催されている。
この時期になると出場目的や見学目的で多くの魔法少女達がこのトネシンに訪れる。
街中に貼られているポスターは前回の優勝者がモデルになっている。
トウコは2人に出場経験があるのかと尋ねてみた所、ツバキは今までトネシンに来た事が無いと言い、ミリアは全く興味が無いので出た事は無いと言った。
(ミリアなら優勝できそうな気もするが興味が無いならいいか、俺も興味無いし)
「お姉様、ご安心下さい。お姉様のエントリーはメイドに手配させますので」
ミリアはまた変な事を言い出した。
「えっ! いや、違う違う違う。その発言は全く安心出来ないわっ! 俺、出ないよ? 絶対に出ないよ?」
「分かっておりますお姉様。絶対に出ないと言う事は、逆に出たいと言う事で御座いますねっ!」
ミリアは力強く言い放った。
「芸人かっ! そんな芸人的なアレは求めてないからっ! 純粋に出たくないんだよっ! 仮に俺が出てもすぐ負けるし!」
「ミリア殿、姉上様はこうおっしゃっております。姉上様の気持ちを察するならば自ずと答えが見えてくるはず…」
ツバキはトウコの気持ちを理解したかのような事を言った。
「よし、ツバキ! 俺の気持ちを代弁してくれっ!」
「御意。姉上様は完全勝利をお望みです。ならば出場者の中で優勝候補を始末して…」
「それでしたら、出場者全員を始末したらお姉様の優勝が確実に…」
「ミリア殿、それは早計ですぞ。全員を始末するとコンテスト自体が中止になる可能性が…」
「でしたら関係者もろとも皆殺しにしてコンテスト自体を無い事にしたらお姉様も出場を断念して…」
(2人は何やら物騒な作戦を考えているみたいだけど、何故俺が出たがってる事を前提で話を進めてるんだ…)
「貴様がコンテストの話を振るからじゃろ」
例によってポン太が唐突に口を挟んできた。
「いや、振ってねーし! って言うか何でお前、俺の心の声が分かるんだよっ!」
その後もトウコがコンテスト出場についての議論は続いたが、トウコは何とか2人を説得し、コンテストに出場したく無いと言う事を納得させたのだった。
(ふぅ…やっと俺の気持ちが伝わったか…)
「まぁ、出場した所で俺に何のメリットも無いしな…」
トウコは思っている事をボソっと口に出した。
「お姉様。メリットかどうかは分かりかねますが、優勝賞金は結構な額と聞いております」
賞金と聞いてトウコは一瞬考えてしまった。
「い、いやでも、コンテストと言うからには、何かパフォーマンス的なアレを公衆の面前で披露する必要があるだろうし…」
トウコは賞金が高額なら出場したいと言う気持ちは若干あった。
賞金が手に入れば毎日のように行っているモンスター退治をしなくても良いと考えたからだ。
しかし、何かを披露する事が条件だとするとトウコは何も出来ないので躊躇していた。
「お姉様、詳細は分かりかねますが、この街のコンテストは確か観客の投票のみで、そのような事は無かったかと」
「えっ、そ、そうなの…でも、うーん…」
トウコは転生前のトオルが可愛いと思って作ったキャラクターだ。
転生後はそのキャラクターの姿で転生した。
トウコは自分では可愛いと思っているが、この世界の人間がトウコを可愛いと思っているか不安があった。
「お姉様でしたら優勝間違いなしです!」
「私も姉上様は優勝なさると信じております!」
(この2人の言う事はともかく投票は観客が行うんだよなあ…でも歌やダンスが無いなら出場してみようかな…ひょっとしたら賞金貰えるかもだし…)
「ふ、2人がそう言うなら、出てみようかな…」
トウコが出場する意思を示したらミリアとツバキは妙に喜んでいた。
2人がその話で盛り上がっていたら、背後からか声が聞こえた。
「あなたのような小娘がコンテストに出場ですって?ふふっ、笑わせるわね。私は前回2位のミカリ。今年の優勝は…」
振り向くとトウコと同じくらいの背丈の可愛らしい魔法少女が立っていた。
「いや、お前も小娘じゃん」
ミカリが何かを言い終える前にトウコはミカリの背丈を確認し思った事を口にした。
「なっ、なんですってーっ!! ちょっと皆さん!」
ミカリはトウコの言葉に怒り、自分の取り巻きの人達を呼んだ。
すると、ゾロゾロと魔法少女数人を含む魔法使いっぽい連中が集まって来た。
「そこの世間知らずな小娘に…」
ミカリが取り巻き達に命令を下す前に雷鳴が響き渡り、取り巻き達全員が黒焦げになった。
「「えええええーっ!!!」」
トウコとミカリは驚きの声がシンクロした。
「姉上様の御意向通り死なない程度に加減致しました」
ツバキはミカリが喋るや否や間髪入れずに雷魔法で取り巻き達を攻撃したのだった。
(いや、御意向って…俺何も言ってないけど…)
「それではお姉様、私は残りの1人を始末して参ります」
「いやいやいや! ちょ、ちょっと待てっ!」
トウコは慌ててミリアを止めた。
(何事も無く当たり前の様に始末してくるって…この2人怖すぎるんだけど…)
「お姉様、如何なされましたか?」
「いやいや、如何も何も、あいつ完全に放心状態になっているし、止めてあげて!」
ミリアとツバキは自分達が姉と慕うトウコの事を悪く言われるのが許せなかった。
そんな2人をトウコは何とか説得し、放心状態のミカリを放置してその場を後にした。
(何故変な奴に絡まれる度に俺がフォローせねばならんのだ…)
暇潰しに街に来たものの、このまま街に居たらまた騒動が起こると思ったトウコは屋敷に戻る事にした。
それから数日後、コンテスト当日になった。
今回のコンテストは出場者が30人程で例年と大差は無い。
出場者は名前を呼ばれたらステージに立つ一般的なもの。
トウコは現在、名前を呼ばれステージに立っていた。
(ひっ、人多いっ! ヤバイどうしよう…めっちゃ緊張する…)
「トウコさんの特技は格闘戦との事です。それでは実際に見せて頂きましょう!」
司会者がとんでもない事を言い出した。
(ええええーっ! 確かにアンケート的なアレに書いたけどっ! 実際に披露するとか聞いてないしっ! どやって見せればいいんだよ!)
すると魔法少女数人が魔法拘束されたサイクロプスをステージに連れてきた。
魔法少女達が素早くステージから離れたらステージ全体に結界を張りサイクロプスの拘束が解除された。
結界の中はトウコとサイクロプスの2人だけとなった。
(こいつで格闘戦を披露しろって事か…無駄にデカいし…無茶苦茶だ…)
「なあ、一応確認だが、こいつって前に捕獲したカンガルーより強いのか?」
トウコはポン太に目の前に居るモンスターの強さを確認してみた。
「これはサイクロプスじゃ。以前のモンスターなぞ足元にも及ばぬじゃろ」
(まあ、そうだろうな…さっさと腕輪を外しておくか…)
トウコは身体に負荷をかける腕輪を外し、軽く体を動かし身構えた。
話は変わって数日前の事。
魔法少女エリーザ邸の一室。
「今回、私の優勝を阻みそうな出場者はいるかしら?」
彼女の名はエリーザ。過去3回連続優勝を果たしている魔法少女。今回も優勝を狙っている。
「いえ、お嬢様、そのような者はおりませんが、今年は1人初出場の者がおります。この者に御座います」
彼はミス魔法少女コンテストの運営委員長。
エリーザの父に大恩がありエリーザの一族には頭が上がらない為、言いなり状態になっている。
委員長はトウコのプロフィールカードをエリーザに見せた。
「ふぅーん…ルックスはそこそこですわね。しかし! この程度なら問題ありませんわ!」
「お嬢様、この者は先日、ミカリ殿と問題を起こしておりまして、その時にミリア殿と一緒にいたとの報告があります。恐らくはミリア殿の妹君かと」
「ミリアの妹ですって! 始末してしまいなさいっ!」
エリーザが過去3回連続優勝している裏では優勝候補を脱落させ、自分を優勝する様に仕組んでいたのだった。
「お嬢様、ミリア殿が居ては返り討ちに合ってしまいます。それよりも妙案が御座います」
委員長はコンテストのステージ上で強めのモンスター数体を相手に格闘戦を行わせる事を進言した。
「それはいいわね。そうだわ! モンスターはミリアに使う予定だった奴を使いましょう」
エリーザはミリアを相当恨んでいる。
ミリアの妹を亡き者にして鬱憤を晴らそうとしている。
「ふふふっ。ミリア! 後悔するといいわ!」