三話 初めての討伐
武器も防具も使い物にならず仲間もいない。そんな状況なのに、柊人はモンスターと出くわすことなく森の奥へ辿り着いてしまった。
普通の冒険者であれば幸運な場面。だが柊人は勇者ですらない。見習い以下がなぜ、という疑問が残る。
大きい岩に座って考えていると
「…………」
何かの気配を感じ取る。こっちに来る。
「どこだ……」
小声で警戒。目をつぶり神経を研ぎ澄ます。そこか……!
「はあっ!」
固い何かに当たり刃がポロポロこぼれた。一旦飛びのき陰から逃げる。十分な距離を取ったところで見上げると――
黄金の像が、柊人を見下ろしていた。
「まじかよ……」
あまりの大きさに驚きを隠せない柊人。二十メートルはあるか。黄金像の巨大な腕の一振りが柊人に迫る。
避けられないと理解した柊人は避けるために逃げる選択を取った。
「うおおおおおおっ! こんなところで死ねるかよおおおおッ!」
叫びながら逃げる。とにかく逃げる。逃げ切った柊人の眼前には深く抉られた地面があった。冷汗を流しながら次の一手を考える。
そうはさせまいとばかりに再び手を振るう黄金像。次は上から左手が襲う。掴む気だ。
「くっ……」
前回り。間に合わず横にも回転。だが
「いって……! くそ……!」
左足をくじいた。悔し紛れに盾を投げる。足に当たりバラバラに砕けた。
どうする? このまま黙って死ねない。みんなが待ってる。それに一応、俺は勇者だ。だが方法がない。考える程まとまらない。
絶体絶命。黄金像のの両手が柊人に迫る。その時――
「…………ッ! なんだ……?」
突然の頭痛。収まると同時に、柊人は自分の役割を理解した。自分が勇者であることの意味に。
「エクスカリバー」
頭に浮かんだ言葉を唱えると短剣が黄金の光を纏う。地面に突き刺すと、黄金像の両手が浮き上がり体制を崩す。左足を庇いながら立ち、人生最大の声を上げる。
「おおおおおおおおおおッ!!」
短剣を横に一線。黄金像がきれいに横半分になった。声を上げず、空気に溶けるように消えた。
柊人は安堵したのか近くの木に寄りかかる。息を切らした柊人は、像が立っていた中心地を見る。そこにあったのは、大量の金だった。
「あ? 勇者専用の装備を作れ?」
「お願いします!」
めんどくさそうな顔をするエイシャに柊人が頼み込む。一気に強くなるなんてことは出来ないけど、勇者としてやる気が沸き上がるかもしれない。
そう思ったのだが……。
「やらねぇよ。っていうか、そういうのはおじいちゃんに頼んでくれ」
つっかえてるからどけと言われた柊人。言われた通りにどく。
椅子に座って考えていると、声が聞こえた。
「柊人!」
「蓮! 起きたのか?」
目が覚めた蓮が駆け寄ってきた。後から帆乃香と大河も姿を見せる。三人とも事情の把握が出来ていないと思ったが――
「ラッカルさんに言われたんだ。冒険者になってみないって」
「あたし達断ったのに勝手にやられた!!」
「蓮は僧侶、帆乃香は魔術師、俺は格闘家だ。……ラッカルさんに決められた職業だけどな」
ちゃんとわかっていた。それどころか、勝手に冒険者にさせられているなんて……。ラッカルに文句を言おうとしたが、本人の姿は消えていた。
「パーティー申請はこちらからどーぞー」
そう高らかに声を上げるカルラの元へ行き、パーティー申請を行う。なんだか、複雑な気分だった。
「今日はどこ行くんだ?」
「今日は……どうするかな」
「早く決めて。こっちは準備出来てるから」
「焦らないでいいよ」
柊人達はパーティーを組んで冒険することになった。もちろん、勇者一行として。今日はエルフの里に行こう。そう決めた一行は早速エルフの里へ行くことにした。
だが、柊人達はまだ知らない。ここから絆の破滅へ向かうことを。今はまだ、知らない。