【第1話】幻の音楽プレーヤー
ガチの技術系(理数系)作品です。文系の作者が演出として理系をネタに使うのとは異なり、技術的な解説は全て本物です。
ただし専門知識が無いと理解が難しい文章もあるため、「わけわかんねー」という方は、適当に斜め読みしてください。^^;
「さぁ、全員でもう一度!」
部長、木更津の声が飛び、部員全員が声を合わせる。
「コンデンサーは、容量よりも、インピーダンス!」
「よし、今日はここまで。解散!」
横浜北高校、電子工作部。
部員数21名。
全国の高校生技術系コンテストの優勝常連校である。
回路設計、ロジック設計、ソフトウェア開発、システム設計にいたるまで、高校生らしからぬ高度な技術力を誇る。
特に、他校の技術力がデジタル回路に偏っている中、アナログ回路の設計技術にもたけていることを特徴とする。
部長の木更津は、高校生でありながら専門誌での技術解説記事を執筆しており、すでに業界では有名人、大手メーカーから採用のオファーも来ているという。
しかし、本人は企業に就職する気はなく、大学へ進級後、自ら回路設計会社を設立するのが夢らしい。
「木更津君、ちょっといいかな・・・。」
部室を出ようとした木更津に声を掛けたのは、小河エリカ。木更津の同級生である。
「これ・・直せないかな・・・・。」
エリカが差し出したのは、小型の音楽プレーヤーだった。
「落としたのか?」
「ううん、落としたことは無いんだけど、うっかりメモリカードを逆に刺したら、
それっきり鳴らなくなっちゃって・・・。」
「ああ・・コネクタが曲がったかな・・・。」
「直せる?」
「SDカードか・・ うちのパーツケースにはコネクタの在庫が無いな・・・。
この後、マルツ(※)で探してみるよ。直ったら連絡する。」
「ありがとう! お礼するからね!」
電子工作部の部員たちは、修理の達人でもある。
スマフォの割れたタッチパネルの交換、パソコンの修理(大半は中を開けて埃を掃除すれば直るんだが)、誤って消してしまったデータの復旧作業(電子工作部で開発したオリジナルの復旧ソフトを使う)・・などなど。
部活動の一環として受けているため、原則として報酬は受け取らない。
毎年部費を貰っている手前もある。
しかし・・原則は原則。
相手がお礼をするというのであれば、あえて断る理由はないのだが・・。
「あ、ああ・・。 ところでこれ、どこのメーカーだ?」
「えっと・・・GLトーン・・? とか・・」
「え? いや、まさか・・・。」
少し苦笑する木更津。
プレーヤーをひっくり返してみたが、ロゴマークはみあたらない。
底をみると、ようやく小さな刻印を見つけた。
GL-TONE
「!!」
一瞬、声を失った木更津。
まさか!? 本当に!?
いや、そんなはずはない。
GL-TONEは、ポータブル音楽プレーヤーなど、開発していなかった。
中国か韓国あたりの偽物だろう・・
いや・・既に閉鎖となったオーディオメーカー、商標権も消失しているはず。
なら、その名前を別の誰かが使ったところで、非難する筋合いはない・・か・・。
しかし・・・・
「言っては何だが・・、こんなの聴いていたら耳が悪くなるぞ・・・。」
「そんなことない!」
突然、エリカが声を荒げ、帰宅途中の生徒たちが一斉に振り向く。
「これ、ちゃんと楽器の音がするの!」
「ストラバリが・・ ちゃんとストラバリが鳴るんだから!」
「聴きもしないで、変なこと言わないで!!」
思わぬエリカの反応に、たじろぐ木更津。
ようやく口を開く。
「ご・・ごめん。 お・・俺が悪かったよ。」
うつむたままのエリカ。
まさか・・泣いているのか?
「あーらら・・・。」
通り過ぎる生徒が冷やかす。
「おじいちゃんに・・もらったんだ・・・。」
「世界に一つしかないんだって・・・。」
「ストラバリがちゃんと鳴る・・世界に一つだけのプレーヤーなんだって・・・。」
エリカはまだうつむいたままだ。
おじいちゃん? 形見・・だったのだろうか・・。
「ごめん・・本当にごめん・・。」
「必ず直す。約束する・・・。」
「なーーんちゃって!!」
「じゃ、よろしくねーーーー!」
笑顔で廊下を掛けてゆくエリカ。
呆然とする木更津。
いや・・顔を上げた瞬間、彼女のほほに涙の痕があったようにも・・気のせいか・・
木更津は部室に戻ると、引き出しから色付きの緩衝材(※)を取り出し、
プレーヤーをくるんだ。
まずは直してからだ。直さないことには音も聴けない・・・。
木更津はプレーヤーを鞄にしまうと、部室を後にした。
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※注釈
・マルツ:秋葉原に実在する電子部品販売店。
・色付きの緩衝材:静電気防止処理を施した緩衝材。
続く--------