番外編 チンさんの場合 〜嫁が異世界に召喚されました〜 2
嫁は、異世界で、学校の先生をやることになったらしい。こっちでも高校の先生なのに、あっちでも先生やるのか。療養中なのに、働いて大丈夫なのか…。
「五教科全部教えるの、しんどい。中島敦じゃあるまいし。」
…いや、中島敦わからんし。
「ほら、国語と英語と社会も教えて、『山月記』まで書いちゃった人。」
…誰?
「あと、魔王いたよ。」
「え?!どんなんだった?!」
「いや、それが、普通に私の授業受けてる生徒だった。」
「…?!」
「一応、小学校なんだけど、身長一九〇センチで背中から黒い羽根生えてる生徒。」
「めっちゃ魔王じゃん…!」
「いや、私のクラスに悪い子はいないと思ってたから、わかんなかった。」
「魔王、悪い子なの?」
「ううん、すごい良い子。黒板消し係。授業の後、絶対黒板綺麗に消してくれる。走るの超速い。
あと、給食のおかわりハンパない。」
「健康!」
「仕方ないから、聖女スキル『炊飯器』で煮物作って、魔王に与えてる。」
「餌付け!?」
「で、『山月記』読ませたら気に入ったって。」
「魔王、文系男子?!」
「うん。明日から夏目漱石の『こころ』読ませる。」
その後も、魔王は純文学の沼にどハマりしたらしい。三島由紀夫、川端康成、太宰治、芥川龍之介、坂口安吾、伊藤左千夫…。俺のクレジットカードは、火を噴いた。
だが、魔王が最も好んだのは、新美南吉だったようだ。中でも『ごんぎつね』は授業でも取り扱い、生徒たちみんなで、最後は号泣したらしい。魔王も泣いてたらしい。
…え、魔王も…!?
帰宅すると、嫁が久しぶりに家にいた。
「あれ?今日はどうしたの?」
「うん、今日、球技大会で。」
「異世界で球技大会…!?」
「うん。でも、私、球技とか、無理だから。
クローゼットに、友だちの体育の教員、突っ込んだ。」
「体育の教員、突っ込んだ…!?」
「いま、向こうでサッカーやってる。」
「その人、肋骨折った人…!?」
嫁には友だちは多くないし、体育の教員と言ったら、思い当たるのは全治2ヶ月の怪我をしたベテランの男性教員だ。
「うん。松子お姉ちゃんの聖女スキル『ペニシリン』で、痛みだけ止めた。」
「痛みだけ…!?骨、くっつけてくれなかったの…!?」
「うん、松子お姉ちゃん、内科だから、骨折とか、外科は自信ないって。
あと、肋骨、放っておけばくっつくって。だから、手っ取り早く、痛覚麻痺させた。」
「鬼畜…!」
そして、嫁はそのまま、スラムダンク完全版を読み、うまい棒を食べ、ダラダラ過ごした。異世界は、今日も平和なようである。
めでたしめでたし!
お読みいただき、ありがとうございました!
※チンさんは、夫の呼び名をそのままもらったので、エッセイでまた出て来るかも名前かもしれません。