第2章 竹子の場合〜夫がいないと何も出来ません〜 2
…ということで、『賢者の塔』の隣、『ウメノコ保育園』のさらに隣のボロい廃屋を、『タケノコ学校』として生まれ変わらせた。
竹子は、まことに残念な女で、小学校の免許を持っていなかった。無免許教員のまま、学校が始まった。
しかし、聖女スキル『板書』を上手く使い、子どもたちに字を教え、簡単な計算を教えた。詩を教え、故事を教えた。
ちなみに、ノスタルジアの字は、日本語だった。不思議。ノスタルジア国の歴史を、教科書として編さんすることにも取り掛かっていて、竹子は、結構働いている。
よくよく調べてみると、竹子の聖女スキルは異常にたくさんあった。
『病弱』…すぐ倒れる。
『虚弱』…すぐ弱る。
『介護』…世話を焼いてもらえる。(竹子が。)
『丸暗記』…有無を言わさず、生徒に丸暗記させる。
『音読』…有無を言わさず、生徒に音読させる。
『健忘』…大事なことを忘れる。
『早歩き』…早く歩ける。
『ファッション』…日本の自室のクローゼットから好きな服を取り出せるし、しまえる。
『楽天』…スマホからオンラインショッピングができる。一瞬で竹子の元に空から降ってくる。決済は、チンさんに請求されている。
竹子が『楽天』で手に入れた本を、私が土に埋める。翌朝には、本の木が出来ていた。活版印刷できなくても、本、手に入るじゃん…!
私は、ノスタルジアの新たな商売品として、本を大量輸出した。もう、ジジイの手作り絵本は用無しだ。著作権を無視して、転売ヤーとして暗躍した。
他にも、竹子のスキルはめちゃくちゃあった。たとえば、聖女スキル、『炊飯器』。炊飯器で煮物が作れる。だが、肝心の炊飯器が、ノスタルジアには無い。
「ん〜。炊飯器はさすがに作れないなあ〜。」とぼやきながら、竹子が、私のじゃがりこをヒョイッと一本取った。これが、聖女スキル、『盗っ人』である。相手の食べ物を一瞬で取れるという、むかつくスキルである。私は、竹子の足を蹴り飛ばした。
でも、炊飯器が無い以上に、またもや問題が起こっていた…。竹子の激しい衰弱である。
二度目だが、竹子は夫のチンさんがいないと、どんどん、痩せ細っていくのである。まあ、いちにちに、ピザポテト一袋しか食べないのだから、痩せていくよな。近頃は、咳も止まらない。
その上、ホームシックがすごい。一度泣き始めると、ずっと泣いている。毎晩、チンさんとラインはしているらしいが…
「チンさんに会いたいよ〜。(泣)ゴホゴホッ…!ウエーン!(泣)」
こうなると、もうダメなのだ。チンさんに、ビデオ通話で励ましてもらっても、ダメ。ひどい時は、休講だ。
お医者さんは、どこかにいないか…。心も診てくれる、優秀なお医者さんは…。ん?お医者さん…?!
私は折り紙で人型を作り、胴体に『松子』と書いた。一番上の姉の名前だ…!パアアアアッ…。いける…!
「ま、またじゃ〜!」
「また、召喚の光じゃ〜!」
十二人のジジイどもが、走ってきた。お、だんだん、松子になってきた…!よし、いけるぞ!
ポンッ!!
来た!
「松子お姉ちゃん!」
右手に炊飯器、左手にテレビのリモコンを持った、松子お姉ちゃんが召喚された…!その瞬間、天から、BGMが鳴り響いた。
『チャラララ〜ラ〜ララ〜ララ〜ラ〜』
え、こ、この曲は…
『ラララララララ〜ラ〜ラ〜ララ〜』
この曲は…ドラマの、ジンのテーマソング…!!!???
※松子は医者。