第1章 梅子の場合〜異世界で保育園始めました〜 1
愛すべき友人へ。
気が付いたら、異世界にいた。スーパーで国産レモンを手に取った瞬間だった。カゴの中には、ジャガイモ、人参、大根…。え、万引きじゃない?これ…。
魔法陣の上で、私は辺りを見回した。
「せ…聖女様じゃ〜!」
「は?」
ヨボヨボの魔法使いたちが、わらわらと私に群がってきた。私は、空手は黒帯である。一瞬でジジイどもを全員のした。自称『十二人の賢者』たち。彼らを横一列に正座させ、私は事情を聞いた。魔王を倒すために、聖女として、私を召喚したと言う。
「はあ?!なんで私なんだよォォォ!!」
私は…私は…ただの保育士だよォォォ!!!
ここは、異世界ノスタルジア国。剣と魔法の国である。魔王のかけた呪いのせいで、雨が降らず、作物が育たたない。飢えた国民は、困窮していると言う。
そして、私の名前は梅子。二十九歳、エンジェル保育園で働いていた。ジジイどもに拉致られた後、まず私がしたことは、買い物カゴの中の野菜たちを全て、土に埋めることだった。だって、万引きしたことが知れたら、園をクビになるかもしれないでしょ…。海に沈めることが出来ないなら、土に埋めるしかないじゃない…!
しかし、一晩経つと、なんと、埋めた場所一帯が見事な畑になっていた。しかも、めちゃくちゃ綺麗に区画整備されていて、もう、あとは収穫するだけ。レモンの木なんて、ピシーッと庭園のごとく並び、実がたわわになっている。ジジイどもは大喜びだ。
私は、ハッと気づいて、その場で「ステータス、オープン!」と言ってみた。おー。本当に画面が出てきた。ふむふむ。なるほどね。聖女スキルとして、『育成』、『整列』が確かに備わっている。一晩で畑が出来たのは、これらの力か。じゃあ、私が何かをジャンジャン埋めさえすれば、飢餓問題は解決できるんじゃないの?でも、これらのスキルの名前、なんか、保育士っぽい…。
とにかく、私は、この世界特有の野菜や果物も、ジャンジャン埋めた。保存がきき、主食になる芋類は、特にたくさん埋めた。種芋は、一つを三等分くらいに切る。こうして私は、「聖女ウメコ」から、「バラシのウメコ」と呼ばれるようになっていった。