刹那の一撃 茶華道部 vs 野球部
4月8日
戦いが始まるのは8時55分からであるが、6時には既に茶華道部、将棋部が集まっていた。
皆が茶道室に集まり、重重しい空気の中、茶華道部部長「花澤美保」が口を開いた。
「先日、茶華道部の中一が畳の裏からある物を発見した。」
そうして畳の裏から出てきたのは一つの細長い箱。それを開けると、中から綺麗な長刀が出てきた。
「見ての通り、これは長刀だ。何でも、創立時の部長が私財を投じ購入したそうだ。」
全員が息を呑み、花澤の言葉に聞き入っていた。
「野球部が攻めてくる。必ず。だから、聞いて欲しい。」
そして、ついに始まりのチャイムが鳴った。
花澤は132教室を飛び出し、J2教室から来た生徒と即座に合流。将棋部の大半を茶道室に入れ、鍵を閉めた。
3分経過。時刻は8:58、茶道室の唯一のドアが野球部によって破られた。
三人の高校生で、全員バットを持っている。それによってドアを破ったらしい。
しかし、三人の野球部が見たのは意外な光景であった。
目の前には正座している女子高校生。周りには中学生も正座している。先生も二人、全員着物を着ている。
「こんにちは、どうぞ、お座りください」
中心に座る女子高校生はそう言いながら、野球部にお茶と和菓子を出した。
茶道室の周りでは血なま臭い怒号。とてもこの場の雰囲気には合っていない。野球部は困惑しつつも、茶華道部の前に座り、茶を飲み始める。
まさにそれから1秒後であった。
その横にある掛け軸から長刀を持った花澤が現れ、野球部員を一人切りつけた。
苦しむ野球部員を無視し、残りの二人は茶華道部から脱出しようとする。しかし、もう手遅れであった。
ドアの前にはどこから来たのか、将棋部の面々がスタンガンを持って野球部二人を囲んでいた。
流石将棋部、彼らは互いが互いを守るように立っており、全く攻撃を許さない。
だが、茶華道部は9割が女子で構成されている為、野球部の攻撃に反応出来るほどの反射神経、相手に攻撃をするという勇気はなかった。そのため将棋部に勝てないと見込んだ野球部の素速い攻撃は女子を次々と再起不能にしていき、遂にはそのバットが花澤の所にまで届く距離に来てしまったのである。
さらに勢いに乗った野球部員の重い一撃は花澤の長刀の柄に炸裂し、それを持っていた花澤の両腕を無力化した。これで完全に茶華道部は戦闘不能になったのである。
残っているのは将棋部だ。固まって動きつつ、着実にこちらへ近づいてくる。
将棋部6人の指揮を担うのは将棋部部長「森下弓弦」小学校から将棋を習い、様々な内戦を見てきた。
言わせれば、彼との頭脳戦にはまず勝てない。既に野球部二人は追い詰められているのである。
「三人にここまで崩されるなんて..酷い戦いだ。」ぽつりとつぶやきつつ、スタンガンを構える。
ここで固まっていた6人が一気に左右へ展開した。バットの届かない距離を保ちつつ、確実に防御をする。
一人が攻撃を受けても、左右の人間が反撃に出ることが出来る。
「俺たちを攻撃するのは待ってくれ..もし攻撃したら、お前らの学校生活も終わりだ..今は俺たち三人だけだが、直に応援が来る。もし、今逃がしてくれたなら、部長に掛け合って...攻撃を取り消す...」
野球部員は掠れた声でそう言った。
「わかった。必ず約束しろ。」
驚く部員達とは裏腹に、森下の声は落ち着いていた。
気絶した野球部員を抱えて野球部員二人はドアまで歩いて行った。最後にこちらを振り返った時。
「やっちまえー!!!」
将棋部7人が咆えた。全員がスタンガンを持って。同時に。
「そう来ると思ったよ!!!!!」
失神している野球部員を投げ飛ばし、バットを振りかぶった。
刹那の一撃だった。
人間を投げ飛ばされた将棋部員達は体勢を崩し、その隙を一人、二人とやられていったのだ。
茶華道部と将棋部は全滅し、茶道室は野球部の物となった。
(私立大近畿学園 三階 地図)