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7話


                  7


 最初このアパートに菜穂が来た時には、こんな若い女の人が担当になるなんて、なんとラッキーだろうと思って言いたのだが、最初の家政婦の明子と初めて来た時に 『わたし格闘技してましたから』と菜穂が言ったのを聞いて、彼女の面影に見覚えがあったのだが、人違いだとしたらいけないので、拓海は黙っていた。

 しかし、訪問回数が重なって来て、話をしているうちに、色んな事が分かって来て、あの 青木柔道場に通っていた事が決定的になり、その時の門下生の名前も何人かは知っていたので、これはこれでこの様な逢い方ではあるが、再開だと思っていた。


 後で、妹の見瑠々も言っていたのだが。

『私、その女の子ならしっているよ。 お兄ちゃんが辞めてからも、私暫く習っていたから、しかも女子同士だったし、偶に喋ることもあったしね、うふ』 なんて、最後は ”うふ” と言うオマケまで付いて、明かしたのだ。


「じゃあ、今の今まで、お互いに認識していたのに、黙っていたのか....」

「そうみたいだな」

「....で、どう? 二人とも、コレを知って、前向きになれないかしら」

 

 どうしても、この二人をくっ付けたいと思う莉子ではあるが、当の本人たちが躊躇しているみたいで、何かもどかしい。

 その時、言い難そうに、菜穂が白状めいた事を明かし始めた。



「本当にゴメンなさい拓海さん」

 いきなり謝罪を言われた拓海は 「!?」 でしかない。

「どう言う事?」

 問い返してみると、血流が良くなった面持ちで、話し出した。


「あの....、拓海さん、森田弓子って女の人知ってます?」

 拓海が良く知っている自分の母親の友人と言う風に、聞いている。

「知ってるよ、オレの母親の学生時代の友人だったって」

「その人、私のお母さんの妹なの。 つまり、私の叔母です」


 菜穂がそう言うと、拓海は瞬時に、何かしらの策略のターゲットにされた思いがした。


「もしかして、オレ、嵌められてる?」

「そんな言い方....、でも結果的に、そうなるのかな、だから、ゴメンなさい本当に」

 この一言で、確信した拓海は、菜穂に向かって、強い口調で言う。


「みんなして、オレを嵌めたんだよな。 そう受け取っているんだが」

「本当にごめんなさい」

 何度でも謝って来る菜穂に、聡と莉子が訳の分からない顔を見せる。


「どう言う事なの? 拓海、訳を話してよ」

「そうだぞ、お前たち二人だけが分かっていて、オレ達には全く分からん、最初から説明しろ」

 と、莉子と聡が問い正す。


「わかった、全てを言おう」


 そう言って、拓海と菜穂の事を話しだした。



               □



 拓海の母親の花果はなかと、菜穂の母親の美咲みさきとは、学生時代からの友人で、今でも時々連絡し合っているという関係だ。


 今年の早春の時期、菜穂の母親の美咲が、拓海の母である花果との電話中の会話の中で、美咲の話が出た時の事である。


『ウチの娘、去年会社で不祥事を起こして退社してから、ずうっと家に居るの、家事こそ手伝ってくれるんだけど、何処となく何かふさぎ込んじゃってるのよね』

 と言う話が出て、何処か良い就職先が無いものか、話し合いをしていたのだが、当の菜穂、本人の就職への意思があまりないのを聞いている美咲だけに、何処か身内で雇ってくれるところは無いかと思っていたのだが。


『そういえば美咲の妹さんって、確か、家政婦紹介所してたって聞いたよね、歳より臭い職業かもしれないけども、一応聞いてみたら?』

 そう言う話になり、美咲は菜穂に叔母の事を言ってみたのだが、やはり若いのに、家政婦は........、と言う良い返事が無かったので、諦めていた時に、美咲がある事を思いついた。


『花果、あなたそう言えば、息子の拓海くんのアパートの家政婦を、妹に頼んだって言ってたわね、それなんだけど、最初だけ弓子(美咲の妹)の所の本物の家政婦さんに行ってもらい、ひと月くらい経ってから、菜穂に申し送りをする形で、入れ替わってもらうってのはどうかしら?』

『どう言う事?』

『実はね、ウチの菜穂、在学中に、あなたの息子の拓海くんに、どうやら好意を持っていたらしいの』


『えぇ!!?』


 これには 花果が驚きであった。


 大学3年生までは、彼女が居たのは知っていたが、去年の秋に分かれたと言っていた。 なので、今はフリーだという事は花果は知っていた。

 今の美咲の言葉に花果は驚くが、最近の拓海も破棄が無く、何処かターゲットを見失ったかの様な日常の息子に、少しでもいい話だと思った。


『お互いに面識が無いけど、そんな風に合わせて見るのも、面白いかも』 

 と言って、双方の母親は面白さ半分で、縁結び的な事を仕組んだのだった。


 この時、母親たちは、当人たちが小学校の時の柔道場で知り合っていた事には、気が付いていなかった。



               □


「だから、コレは菜穂さんの気持ちを知った上での、双方の母親たちの計画だったと言う事だと思うんだが、どうかな菜穂さん?」

「....、そ、そうです。 拓海さんの言われたことに、ほぼ間違いないです。本当にごめんなさい」


 また謝って来た。 そんな菜穂の態度に、拓海はだんだんと罪悪感が湧いて来て。

「菜穂さん、そんなに謝らないで。 何かオレ、居たたまれなくなってしまうんで」


 話を元に戻そうとして、莉子が二人に話しかける。


「で、菜穂さんの心の奥の拓海に対する気持ちは分かったから、今度は拓海の側の意見が知りたいな」

「........」

 コレには拓海が言葉も出ない状態だった。

 あまりにも次の言葉が出ないものだから、肯定を受け止めただろうと思って、莉子が続けた。

「どうやら私の見立てでは、両想いという事で、決着ね」

 この言葉に、菜穂が胸をなでおろし、拓海に向かい、確認をした。


「拓海さん、私の事が好きなんですよね」

 少し顔を赤らめ菜穂からの言葉に、拓海は。

「.......」


 言葉が出なかった。


「拓海さん!」

 すると、今度は大き目の声で拓海を呼んでみた。

 すると.......。


「実は....、実は、道場に居た時から好きになってしまっていたんだ」

「小学校の頃からなの?」

「小学校の時は憧れだったのが、本当に好意を持ったのは、お互いが中学になってからだったんだ」

 この告白めいた拓海からの言葉に、菜穂は心の奥に隠しておいた感情が表に出て、嬉しくなってきてしまい、顔を綻ばせながら拓海を見つめてしまい。


「拓海さん。それ本当なの?」

「実は....菜穂さんの事は、大学でも知ってはいたんだ」


 このさらなる衝撃な発言には、菜穂も驚いた。


「本当ですか?拓海さん」

「そうなんだ。でも、それはちゃんと彼女とは別れた後だから」


 段々と、拓海と菜穂の関係が明らかになってきて、聡と莉子は、自分たちが思った以上に、目の前の二人が、心の奥底で両想いだった事に、深い感銘を受けた。


「しっかし、拓海、お前今まで彼女と一緒の部屋で二人きりで、よく我慢出来たな、褒めてやるよ」

「しかも、話を聞いてると、まったく意識もしないみたいだったのは、相当我慢をしていたんだね」

「が、我慢って....そんな言い方....」

「でもそうだろ、好きな女の子が目の前に居る、しかも二人っきりなんだぞ」

「もうそれは良いから」

「でも、これでハッキリしたから、さあさあ、ここで告っちゃいなさい、拓海、さあ」


 このタイミングで今この場で告白を促す莉子。


「言いなさい、拓海」

 さらに言われた。


 ....、言われたので、では無いが、この機会を生かしたい、せっかくこの雰囲気にしてくれた聡と莉子だから、....だから。




「中村 菜穂さん、実は実は、中学から気になっていて、大学で見かけた時から、気になっていたのが、最近になり、さらに好きになってしまいました。 こんなオレで良かったら、オレと付き合って下さい」


 丁寧にお辞儀をして、菜穂に懇願する拓海。 その拓海からの告白の一連を、自分へのモノと確信した時、菜穂は少しづつ拓海に近づき、そっと右手を出して、拓海の手を優しく握り。


「はい、拓海さん、これから末永く、よろしくお願いします」


 拓海の告白が、菜穂に了承された。 その瞬間、手を握られていた拓海も、菜穂の手を握り返した。 そこで、もう一言、菜穂が呟いた。


「拓海さん、もう駄目よ、私だけのものだから、他の女には渡さない、離さないから....」

 菜穂の瞳から雫がこぼれた。

 菜穂の心の奥底にあった、秘められた言葉だった。


「分かった」


 そう拓海が返すと、一部始終を見届けた聡と莉子が。

「おめでとう拓海、菜穂さん。コレでやっと双方の思いが通じたね、これからは幸せになるんだよ」

 もらい泣きする莉子。

 だが、聡の祝福は辛辣だった。


「めんどくせー奴らだ。 とっとと所帯を持ってしまえ」

 だが、その聡も、目は潤んでいた。


 最後に、莉子が言った言葉は、今までの雰囲気をぶち壊すには十分だった。


「あ~あ、終わった終わった。 この面倒くさい告りが。 早くくっつけって言いたかったのに、なによ、二人だけのワールドに入っちゃって、一生やってれば....」


 雰囲気台無しである。

 

 今まで手を握り合っていた二人だが、莉子の言葉で正気(?)に戻った。


「「ゴメン」」


 揃った声が、また莉子を苛立たせる。 

「あ~もう! 声揃って~!もう、やだやだ」

 さらに、莉子が良い雰囲気の拓海と菜穂を見て。


「聡~、もう見てらんないから、早く帰ろ、何かイラつく~」

「は....、そんな事言うなよ、友人が幸せになったんだ、喜んでやってくれよ」


 戒める様に、宥める様に、莉子に対して彼氏の聡が言うと。


「うふふ、拓海、菜穂さん、冗談よ~。 良かったわね拓海、思いが通じて。 菜穂さんもコレで成就が出来て。二人ともやっと叶ったんだから、今度はお互いを大切にしていきなさいよ」

 そう言うと、莉子が聡の手を曳き。


「何やってるの聡。 とっとと帰るわよ」

「もうちょっと....」

「何言ってるの、二人だけにしてあげなさい。さあさあ帰るわよ」


 そう言って、聡の手を曳き、莉子は元気よく聡の手を曳き


「お幸せに~...」

と言って、部屋を出て行った。



        □ □



次話で最終話になります。









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