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月花堂物語 ~薬と魔物はお任せください~  作者: 水上瑞希
第二章 森での出会い
6/13

6,森で出会った少年

ようやく新キャラ登場のところまでたどり着けました。

 リオルの町から30分ほど歩くと目的の森に着いた。この場所は師匠の克己(かつみ)さんに教えてもらった穴場で、修行中に勉強のため何度か連れてきてもらった。気候や土壌が薬草の生育にとても適していて、珍しくて質の良い薬草がたくさん採れる、薬師にとっては楽園のような場所なんだ。食用の木の実や山菜、狩猟なんかが目的の場合はここより町に近い場所にもっと適した森があるから、人が少なく静かなところも私は気に入っている。これから行く王都近辺にもこういう場所があるといいなぁ。

 この森の薬草の分布は克己さんにたたき込まれて頭に入っているから、私は迷うことなく森の奥に進み、目的の薬草をどんどん瓶一杯に採集していく。鞄の中はあっという間に薬草の瓶でパンパンになった。

「これだけ集めれば十分かな」

 しまうところさえあればもっと採集してもいいくらいだが、今集めた量だけでも1か月くらいは売る薬に困らないと思う。あんまり採集しすぎると宿に着いてからやる予定の薬草の処理も時間がかかって大変になるしね。

「あとは泉に寄って水を汲んでこよう」

 薬草の処理は洗浄とかに水も使うんだけど、その薬草が育った場所の水を使った方が薬効が上がるんだよね。別に水道水でもできなくはないんだけど、こういう小さな配慮の積み重ねが良い薬作りには大切だと克己さんには何度も何度も教え込まれた。丁寧に丁寧に接すれば薬草は必ずそれに応えてくれるって。

「泉は確かこっちの方だったよね」

 記憶を頼りに歩き始めた直後、私は何かに躓いた。

「わ!びっくりした…」

 森の中は足場の悪いところもあるから、足元に注意して歩くのは採集の基本中の基本なのにうっかりしてたな。でも一体何に躓いたんだろ?木の根にしては柔らかかったような…。

 そう思って足元を確認した私は驚きのあまり一瞬言葉を失った。

「………え?…ひ、人が倒れてる……!?」

 私が躓いたのはたぶん8~9歳くらいと思われる少年だった。気を失って倒れているその少年は一目で異常さがわかるくらいにガリガリに痩せ細っていて、あちこち破れてろくに修繕もされていないボロボロの衣服を着ている。しかも全身傷や痣だらけでひどい有様だ。

「ちょっ、君だいじょう……って、熱っ!」

 助け起こそうと触れた身体が熱すぎて私はまたまた衝撃を受ける。測っていないから正確な数字はわからないが尋常じゃない高熱だ。下手すれば命に関わるかもしれない。

 命すら危うそうなこの少年を放っておくことができず、私はとりあえずその場で軽く少年の状態を確認してみることにした。

 体温計がないからはっきりとは言えないけれど40度くらいはありそうな熱に、全身の傷はろくに手当てされていない上ずっと身体を洗えていないのか汚れていて一部は化膿してしまっている。骨と皮しかないんじゃないかっていうくらい痩せ細った身体は間違いなく栄養失調だし、これ以上ないくらい衰弱しきった状態なのは言うまでもない。

「いろいろひどすぎてどこから手をつけていいかわからない状態だけど……とりあえず傷口の洗浄かな」

 発熱はたぶん疲労と衰弱しきった身体に傷口から雑菌が入ったせいだろうし、ひとつひとつは大したことはない傷とはいえ化膿したまま放っておくのは相当身体に悪い。まずは傷の手当てが優先だ。ちょうど泉に向かうところだったし、そこで手当てをしよう。



 私は少年を背負って泉まで連れて行く。とりあえずズボンをまくって膝辺りまで足を洗った後、気を失ってる相手の身ぐるみ剥がすのもなぁと躊躇しつつも結局Tシャツを脱がせて上半身も濡れタオルでできるだけ綺麗に汚れを拭き取った。そして手持ちの薬を塗って包帯をぐるぐると巻いていく。服はぶかぶかだけど私のTシャツを貸すことにした。

 あとは解熱剤だけど…今持ってないんだよなぁ。まあ材料はさっき集めたしこの場でつくっちゃうか。


 私は鞄からすり鉢や薬草など必要なものを取り出して素早く調合していく。さすがに即席でつくろうと思うと簡易なものしか作れないけど、まあ何もないよりはいいでしょ。後で改めてちゃんとしたものをつくろう。

 今あるものだと…アギルの実とセーラ草をすり潰して水に溶いて飲ませるくらいが一番効果があるかな。ほんとはもっといろいろな行程を踏んで薬効を引き出さないといけないんだけど、ただすり潰すだけでも一応効果はあるし。

 私は大急ぎで簡易解熱剤をつくってなんとか少年に飲ませる。これで応急処置は済んだし、とりあえずは大丈夫なはず。

 本当はベッドでゆっくり寝かせて、目を覚ましたらおかゆか何かを食べさせてあげたいところだけど、さすがに気を失っているこの子を背負ってリオルの町まで連れて行くのは難しいんだよなぁ。

 私は悩んだ末に地面にシートを敷いて少年を寝かせ、上に私の上着をかける。野宿の予定なんてなかったから何も用意していないし、これくらいが今用意できる精一杯だ。これじゃさすがに病人にはあんまりだけれど仕方がない。熱が下がってある程度落ち着いたら、ちょっと無理させることにはなってしまうけど町に移動してゆっくり休ませてあげよう。

 それまでは私には大したことはできないので、とりあえず火をおこして暖かくした後は、採った薬草の処理をして少年のための薬を調合し直しつつ、彼が目覚めるのを待つことにした。解熱剤を作り直したいし、せっかく質の良い薬草があるんだから少年の怪我に合った薬もつくりたいしね。


 ***


 一応道具は持ってきているんだけど、当然森の中には普段使っているような作業場はない。加熱処理を焚き火でやらないといけないから温度管理が難しいし、そもそも作業に使える台すらない。普段の調合よりも難易度が格段に上がってしまうので、いつも以上に集中して取り組まないといけない。…まあでもまずは薬の種類決めかな。

 一口に解熱剤や傷薬って言ってもいろんな種類がある。解熱剤はさっきのものをもっときちんと処理したやつにするとして、傷薬はどれがいいかな~。化膿してるし、ルシルの花をベースにしたやつがいいかな?あと打撲がひどいからそれ用の薬もいるよね。他の薬との相性もあるし、リリー草あたりを使うやつがいいかな…。

 症状や薬同士の使い合わせのことも考慮しつつ、私はテキパキと使う素材を決めて下処理をしていく。本当は採ってきてすぐに全部の処理を済ませちゃいたいところなんだけど、今回は男の子の薬が優先だ。調合には時間がかかるし効率よく進めていきたいから、同時進行で出来る作業は並行してどんどん進めていく。作業場でないとやっぱりだいぶやりにくさはあるけど、それでも調合ができないほどではない。私は慣れた手付きでどんどん作業を進めていった。



 集中力のいる作業をひたすらこなし、なんとか一段落ついてきた頃、すぐそばで小さな呻き声が聞こえた。

「…………ここは……?」

 見ると少年がゆっくりと身体を起こすところだった。

「気がついた?ここはリオルっていう町の近くにある森の中だよ。薬草採集中にあなたが倒れてるのを見つけて、あまりにひどい怪我と熱だったから軽く手当てさせてもらったんだけど、調子はどう?」

 相手を安心させるようににこやかに状況を説明したけど少年は困惑顔のまま。

「……確かに少し楽になった気はしますけど…………えっと、あなたは…?」

「あっ、そっか、まだ自己紹介してなかったね!私は薬師の渚、よろしくね」

 そりゃ名乗ってすらいない相手にいきなり話しかけられたら余計に混乱するよね、失敗失敗。そしてほんとは薬師だけじゃなくて魔物退治もやるつもりだけど、あっちはまだ本格始動してないしとりあえずいいよね。

「渚…さん……?」

「そうそう。ねえ、あなたはなんていうの?」

「えっと、おれは………」

 少年は名前を訊かれただけなのになぜか口ごもる。

 …あれ?なんでそこで言葉に詰まるの?まさか記憶喪失とかじゃないよね…?

「おれは…その……九条(くじょう)…っていいます…」

 あ、良かった、ちゃんと名前分かるみたい。

「わかった、九条くんだね。……九条くん、手当てのためとはいえ勝手に着替えさせたり同意なく薬を飲ませたりしてごめんね。」

 言いたいこと、やりたいことはいろいろあるけど、やっぱりまず一番は謝罪だよね。気を失ってる人相手に同意も得ずに勝手にいろいろやったわけだから…。

「いや、それくらい全然…。むしろ助けてくださってありがとうございます」

 私に謝られた九条くんは慌てて小さく首を振る。とりあえず許してもらえたみたいで良かった。

「九条くん、とりあえず熱を測ってもいい?さっき40度くらいありそうだったから心配で…。解熱剤は飲んでもらったから多少は下がったと思うけど…」

 体温計はないので、私は手でもう一度体温を確認してみる。一応多少はマシになったような気がするけどまだまだ高熱だ。やっぱりそうすぐには下がってくれないか。

「とりあえず何か食べて栄養を摂った方がいいんだろうけど、今食べ物なんて持ってなかったよなぁ。この森薬草は豊富だけど食用の木の実とかはほぼないし…」

 この森は食用の木の実や山菜はほぼないし、泉にも魚は全くいない。だから当然動物も全くいない。そんなかなり独特な生態系を築いている森なんだよね。だから一般人が来ることはほとんどなくていつも静かで、薬師にとっては穴場な場所なんだけど…。克己さん曰く土壌が特殊で、珍しい薬草がよく育つ代わりに一般的な植物の生育には向かないらしい。

 期待はできないものの鞄の中をガサゴソと確認していた私は、ふとある包みを見つけた。

「そっか、すっかり忘れてたけどこれがあった」

 私が見つけたのは、さっき町でおやつ用に買ったドーナツ。食べるの楽しみにしてたけど、こうなったんじゃ仕方がない。どうしても食べたければまたいつか買いに行けばいいだけだしね。

 でも揚げ物はさすがに重すぎるよなぁ。…とはいえこれくらいしか食べられるものないし……。うーん…何も食べないよりはマシ?…いやでも気分悪くなりそうだな。

「九条くんお腹減ってるよね?一応ドーナツならあるけど食べられそう?」

 私は悩んだ末にとりあえず本人に訊いてみることにした。

「食べようと思えば食べられますけど…なんだか申し訳ないです。嗜好品は高価なのに…。赤の他人のおれのためになんでそこまで……」

「なんでって…困った時はお互い様じゃん。これくらい当たり前だよ。むしろ倒れている人を放置するって、人としてどうかと思う」

 私は迷うことなく断言する。あまりに当たり前すぎて、なんでって改めて訊かれても九条くんを助けたのにそれ以上の理由はない。

 でもここまで衰弱しきっているってことは、九条くんはこういう常識が通じないところにずっといたんだろうなっていう気がする。詮索するつもりはないけど、森の奥で高熱出して倒れてるって普通じゃないしね。きっと何か訳ありなんだろう。

「それよりさ、気が引けるなら半分こするっていうのはどう?それなら私も九条くんも二人とも食べられるよ」

 私は九条くんになんとか食べてもらいたくてそんな提案をする。だって九条くん、あまりに痩せすぎてて見ていられないもん。

「それでも十分申し訳ないですけど……でもそこまで言うなら……」

 九条くんは私の勢いに押されるようにして半分になったドーナツを受け取る。

「いただきます…」

 九条くんはしばらくそのドーナツを見つめた後、躊躇いつつも遠慮がちに口に入れる。

「……おいしい…」

 九条くんはドーナツを味わうようにゆっくりゆっくりと食べた。その表情は相変わらずの無表情ながらも、心なしか綻んでいるように見えた。

 油っこ過ぎないか心配だったけど、喜んでもらえたみたいで良かったな。

「さて、食事……とは言えないかもしれないけど一応胃に食べ物は入れたわけだし、解熱剤用意したからこれ飲んでね」

 私はさっき作り直した解熱剤を鞄から取り出す。今度はちゃんとした処理をして薬効を引き出してあるから、さっきの簡易解熱剤よりはよく効くはず。

「そういえば九条くんって何歳?飲み薬の量の参考にしたいから教えてほしいな」

 年齢や身長体重によって薬の必要量や許容量は変わってくるから、薬を処方する前に患者の情報は正しく把握しておかないといけない。身長は見た感じ、体重はさっき背負った感じでなんとなくわかるけど、年齢は8~9歳くらいだろうとは思ってるものの、それはあくまで私の予想でしかない。適当に処方すると効果が薄まったり、最悪副作用があるかもしれないから、ちゃんとした情報を把握しておきたかったんだ。

「年齢……えっと、一応10歳です…」

「え、10歳!?」

 思いがけない数字に、私はつい素っ頓狂な声をあげてしまう。

 背が低いし軽いからまさか10歳とは思わなかったよ!?正直小柄な8歳くらいっぽく見えるし7歳って言われても信じられるくらいだけど、生育状態悪そうだからもしかしたら9歳の可能性もあるのかなって思っての8~9歳だったのに、まさかそれよりも上だったとは…。栄養失調の期間が長いのかな…。

「あの…驚いちゃってごめんね、失礼だったよね」

 落ち着いて冷静になった私は慌てて謝る。年齢聞いてこんなに驚くのはどう考えてもかなり失礼だよね…。

「いや、それくらい別に…。おれが幼く見えるのは事実ですし…」

 九条くんは特に気にしている様子はない。でもこの子無表情過ぎて感情が読めないんだよなぁ。声も常に淡々としゃべってる感じでほとんど感情がこもってないし…。気分を害してないといいなぁ。

「とにかく、教えてくれてありがとうね。10歳でこの身長と体重なら薬の量はこれくらいかな。……はいどうぞ」

 私はさっと適量を紙にくるむと、水と一緒に九条くんに渡す。

「ドーナツだけでなくわざわざ薬まで…。本当にありがとうございます…」

 薬を受け取った九条くんは深々とお辞儀をする。

「いいよいいよこれくらい。気にしないで。……そうだ、薬といえば塗り薬の方もそろそろ塗り直した方がいいよね」

 さっきは自分用に持ってきていた汎用性の高い薬を塗っただけだし、せっかく九条くん用の薬を調合したんだからそっちを塗った方が傷の治りも早いと思う。それに、濡れタオルで拭くだけじゃ汚れが完全に取り切れてないから、雑菌がこれ以上入らないようにできればもっと綺麗に洗った方がいいんだよね。化膿ひどいし…。

「ねえ九条くん、もし動けそうならその泉で身体洗ってもらってもいいかな?タオル貸すし私は向こうに行ってるから。まだ熱あるし水冷たいから無理にとは言わないけど…」

 無理させちゃうかなと少し迷ったけれど、結局私は薬を飲み終えた九条くんに声をかけてみる。森で倒れていただけあって、汚れがかなりひどいんだもん。

「…動くのは大丈夫です。いつもこの状態で仕事してたし。それにお湯はもう何年も使ってないから冷たいのも慣れてますし…」

 九条くんは何でもないことのようにさらっと言ったけど、だいぶ聞き捨てならない発言だ。

 熱も高いしついさっきまで気を失ってたくらいだし、身体の負担は相当なはずだ。それなのにこの状態で仕事?この子、いったいどういう生活してたの……?

「そっか、じゃあタオルはこれを使ってね。それからこれが傷薬でこっちが打撲の薬だから、しっかり水分を拭き取った後で塗ってね。背中とか自分で塗りにくい場所は後で私が塗るよ。私はあっちで薬草の処理の続きをやってるから終わったら声を掛けてね」

 九条くんの発言が気になりつつもそこに踏み込むことはせず、私は当たり障りのないことを言う。

「……詳しく訊かないの?」

 自分が言ったことが異常なことはわかっているのだろう、九条くんが敬語も忘れて少し驚いたように尋ねる。

「誰にだって言いたくないことくらいあるでしょ?もし九条くんが自分から話したいって思うことがあったら、そのとき教えてくれればいいよ。もちろん一生話してくれなくても大丈夫」

 なんだか複雑な事情がありそうだし、きっと初対面の相手に話したい内容じゃないと思うんだよね。それなのに無理に聞き出そうとするなんて九条くんに失礼だ。気にならないって言ったら嘘になるけど、誰にだって言いたくないことくらいあって当然だし、私は九条くんの気持ちを優先したい。もし私が訊いちゃったら、助けてもらった引け目がある九条くんは話さざるを得なくなりかねないし、そんな変なプレッシャーはかけたくないんだ。

「それより早く身体を洗ってきなよ。汚れを落としたらすっきりするよ」

「………ありがとうございます」

 彼は無表情だから、九条くんが私の言葉をどう思ったのかはわからない。でも私の想いがちゃんと伝わって、ずっと少し怯えの浮かんだ瞳をしている彼が今も纏っているのだろう不安や緊張を、少しでもほぐすことができていたらいいなと思う。


 ***


 残りの処理を全て終えた頃、ちょうど九条くんが戻ってきた。薄汚れて髪もボサボサだったから気づいてなかったけど、こうして綺麗にしてみるとこの子かなり整った顔立ちをしてるなー。目を覚ましてからほとんど表情を変えていないこの無表情っぷりが勿体ないくらいだよ。まあ無表情なのは環境のせいっぽいけど…。

「だいぶさっぱりしたね九条くん。身体冷えただろうし焚き火のところで暖まろうか」

 こっちに来るよう言ったのは私だけど、熱も下がっていないのに冷やしたままじゃだいぶ身体に悪いから、少しでも身体が温まるように焚き火のもとに移動するよう九条くんを促す。

「九条くん、薬塗って包帯巻くからちょっとTシャツ脱いでもらってもいい?」

 私はささっと背中の怪我(まあほぼ全体ですが)に薬を塗って包帯を巻いてしまう。

「はい、これで大丈夫だよ。治るまでまだ時間かかるだろうから、傷薬と打撲用の薬一缶ずつあげるから毎日塗ってね」

 遠慮しかけた九条くんに、私は半ば強引に薬の缶を押しつける。

「あ、ありがとうございます…」

 押し負けて薬の缶を握らされた九条くんは戸惑いつつお礼を言った。それに満足した私は、今度は今日はもうゆっくり寝て休むよう促す。いや、シートと上着じゃあんまりゆっくりは休めなさそうだけど。

「ごめんね、テントも寝袋も何も持ってなくて…」

 これ、どう考えても病人を休ませる環境じゃないんだよなぁ。

「いえ、どうせいつも床で雑魚寝していたので大丈夫です。むしろ布団だとかえって落ち着かなさそうなくらいで…」

 ……ほんとにどんな生活してきたのこの子…?

「それより、おれがシートを使ったら渚さんはどこで寝るんですか…?」

 九条くんが心配そうな顔で尋ねる。

「ああ、私は今日徹夜のつもりだから気にしなくていいよ。夜の森は危険だから見張りが居た方がいいし」

 この森は魔物の目撃情報もないし獣もほぼいないから安全といえば安全なんだけど、念には念を入れておいた方がいい。獣ならまだしも魔物相手だと少しの油断が命取りになることもある。

「徹夜って…。見張りならおれがやります」

「いやいや、体調悪い人に無理はさせられないから。明日には町に戻りたいし、九条くんは今晩はゆっくり休んで明日動き回っても平気なくらい体調を回復させてよ」

 いつまでも森の中にいるわけにはいかないし、できれば明日は九条くんの服とかの買い物もしたい。最初に着てた服はあまりにもボロボロ過ぎるし、私の服は大きすぎるし…。

 まあ無理させるわけにはいかないし、無理そうなら最低限必要なものは私が適当に買ってくるけど…。でも趣味とかサイズとかあるし、できれば本人に選ばせてあげたいなって思って。まあそういう事情抜きにしても早く元気になってほしいんだけど。

 ……っていうわけで、今日はなんとしてもゆっくり休んでもらわないといけないんです。

「ほらほら、病人は変な気なんて遣わないでさっさと寝ちゃってください」

 私は強引に九条くんを横にならせて上着をかける。そして寝る気はありませんよというのをアピールするように、昔お小遣いを必死で貯めて買った薬学大全を開いて勉強を開始する。

 そんな私の様子を見て抵抗しても無駄だと悟った九条くんは大人しく目を閉じた。すると、強がっていてもやはり疲れはかなり溜まっていたようで、1分も経たないうちにあっという間に眠りについてしまった

メインキャラの一人、九条が出てきたわけですが……彼、渚との出会いのシーンを初登場にするとかなり濃いですね。渚が作中で散々言っていますが、ほんとどんな生活してきたんだよっていう話です。まあ彼以外にも、本作はわりと訳ありキャラが多いですが。

でも作者にとっては彼の存在はかなり大きいです。彼がいないと渚は当分一人で行動することになって会話相手もおらず場がもたない…なんていうことになるので。渚が独り言の酷すぎるキャラになりかねないんですよ…。それを避けたくて2章と3章を入れ替えたら、旅に出て数時間後にもう仲間と出会うという展開になってしまいましたが(笑)

今回は渚の薬師らしい一面もちゃんと出せて良かったです。克己さんは『月花堂』で初めて出てきたキャラな上出番も少なかったはずなのに、その場にいなくてもなんだかんだでかなり活躍してくれています。修行シーンは描けていないですが、優しいけど修行に関してはかなり厳しい…そんな師匠です。『月花堂』以前は渚は薬屋の娘だったので、渚に師匠がいるのがなんだか新鮮です。修行時代のことも今後どこかで触れられるといいなと思います。

さて、次話では渚と九条が町へ買い物に行きます。九条についてのもう少し詳しい話も書きたいですが、そこまでたどり着けるかどうか…。今回3日連続投稿なんてやってしまったので次回は遅くなるかもしれません。体力的に休日しか書けない上休日出勤もあるので気長にお待ちください…。

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