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月花堂物語 ~薬と魔物はお任せください~  作者: 水上瑞希
第二章 森での出会い
5/13

5,思い出

今回はだいぶおまけっぽい内容です。なくてもいい部分ではあるのですが、私が個人的にどうしても入れておきたかった設定を組み込むために必要なので付け足されただけの閑話みたいなものなので、かなり短めです。

 村を出発して45分くらい経った頃、村から1番近いリオルの町に着いた。王都までは月花草を採りに行った日同様ここから列車に乗って向かう。当時はここまで歩くのに1時間くらいかかっていたが、あれから成長し体力もついたので町がずいぶんと近く感じる。

「そういえばこの近くに、打撲によく効く薬草がたくさん生えてる森があったよなぁ。他の薬に使える薬草も色々あったはず…。王都近辺でどれくらい薬草が採れるかわからないし、先にちょっと寄っていこうかな」

 特に急いではいないし今はまだ午前中、ちょっと森に寄っていく時間くらいは十分にある。薬屋をやるなら薬草はいくらあっても困らないし、採集できる時にたくさん採っておかないとね。

「それならちょっと早いけど昼食食べていこうかな」

 採集に行ったら昼時をすぎるっていうのももちろんある。でもそれ以上に、遠くへ移り住む前にもう一度リオルの町を見て回りたかった。リオルの町は時々両親と一緒に村で手に入らないものの買い出しがてら遊びに来ていたから思い出も色々ある。王都へ行ったらなかなか来れる機会もないだろうから、今のうちにもう一度色々見て回ったり思い出の味を食べたりしたい気持ちが大きかった。



 ここでいつも買い出しをしてたな、ここで時々新しい服を買ってもらえて嬉しかったな、ここのレストラン高くて一度も入ったことはないけどとても美味しそうで前を通る度に羨ましく思ってたっけ…。

 そんなことを考えながら、私は迷うことなくある場所へ向かう。

「あったあった」

 私が行きたかった場所…そこは町に来る度に昼食を買いに立ち寄っていたパン屋だ。店内に入る前からすでにパンの美味しそうな匂いが漂ってきて、私はそれを懐かしく思う。

 私の住んでいた村は山奥の小さな村だから本当に何もない。公園もないから子どもの遊び場といえば森や川だし、スーパーもないので野菜や肉などは村の農家や畜産農家から直接購入する。公共交通機関なんて便利なものはないので、村で手に入らないものはリオルの町まで歩いて買いに行かないといけないし、学校もないので読み書き計算は親から教えてもらうのが基本だ。もっと詳しく学びたい人は町の本屋や図書館に通うか、高いお金を払って遠くの学校に通うしかない。

 そんな具合なので当然村にお洒落なパン屋なんてあるわけがなく、家で焼くシンプルなパンとは全く違う種類豊富なパンを一人一つ選んでイートインスペースで家族皆で少しずつ分け合いながら食べるのは、町へ出かけるときの大きな楽しみの一つだった。

「迷うけど…やっぱりこれかな」

 私は悩んだ末によく買ってもらっていたチョコクリームパンを購入すると、店の端に並べられたテーブルの元へ向かい一口ほおばる。チョコクリームの優しい甘さと香ばしい小麦の香りがとても懐かしかった。



 昼食を終えて森へ向かう途中、私はある店の前でふと足を止める。

「あそこって確か…」

 私が見つけたのはドーナツ屋。かなりの人気店で長い行列ができている。列を避けながら遠巻きに店を覗き込むと、そこに並ぶ商品の一つに見覚えがあった。

「やっぱりあの時のお店だ…!」

 あれはたしか7歳くらいの頃だったかな?友だちが町に行ったときにケーキを買ってもらったっていう話を聞いて、両親におねだりしてみたことがある。誕生日にお母さんが焼いてくれるケーキは毎年食べていたけれど、お店で食べるケーキはそれよりずっと美味しいんだよと友だちがかなり自慢げに話すので羨ましくなってしまったのだ。けれどうちは金銭的にあまり余裕がないので、買い出しで多額の出費をした後ケーキを買えるような余裕はなかった。かといって普段あまり我儘を言わない私のささやかな頼みを否定したくなかったらしい両親は、ケーキよりは安いが同じく村ではあまり食べる機会のないドーナツを買ってくれたんだ。結構ギリギリの生活で、本来特別な日でもないのに嗜好品なんて買っていられないのは知っていたから、それでも買ってくれたということが嬉しくてかなり印象に残っている。

「開店資金ギリギリだしほんとはこんなもの買ってる場合じゃないんだけど…でも一個買っていこうかな」

 私はなんだか無性に懐かしくなってきて、あの時と同じプレーンドーナツを一個買っていくことにする。採集を一通り終えた後におやつに食べるつもりだ。

「さて、今度こそ森へ向かわないと。早くしないと採集する時間がなくなっちゃう」

 思いの外長居してしまったので、いつのまにか時刻は正午をまわっていた。

 私はドーナツの袋を大切に鞄の中にしまい、日が暮れる前にと急いで森へ向かった。

終始渚の思い出語りだけで終わってしまってすいません。本題は次話からとなります。さすがにこのまま来週までストップもどうなのかと思うので明日続きを投稿しますね。

今回さらっとでてきましたが、渚はかなり田舎の出身です。山奥の何もないあたりに住んでいます。なので決して大きくはないリオルの町も、渚にとっては見ているだけでわくわくするようなテーマパークみたいな場所です。渚の家は村の中では特別貧乏なわけではないのですが、それなりに貧富の差が大きい世界なので、村と小さな町と大きな街ではかなり生活水準に差があります。渚にとってはかなり高価なドーナツが町では行列ができるくらい人気店なのはその辺りが影響しています。渚の村では物々交換が基本ですし。

私の中でもまだまとまりきっていない部分があるので粗がありそうですが、以上補足でした。

次回はようやく新キャラが出ます。今回短かった分明日は長めになっています。

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