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月花堂物語 ~薬と魔物はお任せください~  作者: 水上瑞希
第一章 プロローグ
4/13

4,渚の決意

今回あんまり上手くまとまってない場所があるかもしれません。すいません…。

 気づいたときには、私は克己(かつみ)さんの診療所のベッドの上にいた。

(あれ?私死んでないの……?)

 爪が刺さったかと思ったけど傷もない。あるのといえば佑真に突き飛ばしてもらったときにできた擦り傷くらいだ。

(佑真…そうだ、佑真は!?)

 周りのベッドに佑真の姿はない。先に目を覚まして帰ったのか、それとも……。

「おや、渚ちゃん目を覚ましたのかい?」

 この声…。

「克己さん!」

 物音に気づいて来てくれたのか、さっきまで目を通していたのであろう書類を抱えたまま克己さんがこちらを覗いてくれている。

「たいした外傷はないのになかなか目を覚まさないから心配してたんだけど……良かった、元気そうだね」

 心底安心した様子の克己さん。なんでたいした怪我はしてないのにこんなに心配されてるんだ…?

「え?私ってどれくらい気を失ってたんですか?」

「そうだなぁ…渚ちゃんを発見したのが一昨日の朝だから、丸2日以上気を失ってたことになるね」

「ま、丸2日……」

 ちょっと衝撃的な数字で開いた口が塞がらない。そりゃ心配するわけだ。私てっきり数時間くらいだと思ってたよ?

「じゃあ佑真は私が眠ってる間に治療を終えて帰ったってことですか?」

 2日もあったなら先に帰ってても不思議はないよね。

 でも私の質問を聞いた克己さんは一気に顔をこわばらせる。これから悪い知らせを伝えられることは明白だった。

「……それなんだけど、森で見つかったのは渚ちゃんだけなんだよ。佑真くんは未だ行方不明のままだ」

「え……」

 うそ、どういうこと…?

「君たちがいつまで経っても帰ってこないと聞いたとき、月花草を採りに行ったことにはすぐに気づいた。あの日はちょうど満月の日だったからね」

 さすがに薬の知識が豊富な克己さんはすぐにピンときてしまったらしい。まあすぐに気づかれてしまうだろうことは私達も覚悟していたけど。

「すぐに村の男たちを集めて捜索隊を結成しラルクの森へ向かったけど、二次災害防止のために実際に森に入ったのは朝になり日が昇った後だった。捜索開始から30分、君のお父さんが君を見つけたのは森の入り口からそこまで離れていない場所だった。君は気を失って倒れていて、近くには血の付着した倒木があったよ」

 間違いない、私と佑真がドラゴンに襲われた場所だ。

「その倒木です!佑真は私を庇ってその倒木に足を挟まれていたんです!」

「そうなのかい?でも私達が見たときにはそこには誰もいなかったよ。周りも捜索してみたけど、佑真くんはどこにもいなかった」

 そんな……。

「今日も捜索は続けているけど、何せ魔物の巣窟になっている危険な森だからね、今日も見つからなかったら捜索は打ちきりだそうだ。これ以上捜索隊を危険に晒すわけにはいかないし、あの森でただの子どもがこれだけの期間生存できる可能性は限りなく低いからね」

 それはそうだ。半日もいなかったのにあんなに危険な目にあったんだもんね…。こうして今私がほぼ無傷で生きているのが不思議なくらい。

「渚ちゃん、つらいとは思うけどあの日何があったのか教えてくれないかい?」

 私は小さく頷き、ぽつりぽつりと事情を話し始める。森に着いてからのこと、月花草の花畑のこと、そしてドラゴンに襲われたときのこと…。あまりのつらさに途中で止まったり、泣き出したりする私のへたくそな説明を、克己さんは最後まで黙って聞いてくれた。

「……そっか、大変だったね。渚ちゃんたちの採ってきてくれた月花草はすでに受け取って薬も作ったよ。薬のおかげで恵さんの体調はかなり回復してきている。恵さんはもう大丈夫だよ」

「そっか、良かった…」

 お母さんが助かったのは純粋に嬉しい。でもお母さんの代わりに佑真が……。お母さんももちろん大事だけど、佑真だって代わりに死んじゃったりしていいはずないのに…。

「今の話、佑真くんの両親にも私から伝えるよ。大切な息子の最期のことはあの二人もちゃんと知っておきたいだろうからね」

「お願いします…」

 正直私からあの二人に伝えるのはだいぶきつかったから、克己さんが伝えてくれるなら助かる。本当は私の口から伝えるべきなんだけどね。

「もし今日も見つからなかったら、遺体は見つかっていないものの死亡したものとして処理して明日お葬式を開くことになってるよ。それでいいかい?」

「……はい、大丈夫です」

 私と一緒に見つかっていないなら佑真が生きている可能性は限りなくゼロに近いことはわかっている。認めたくないけど、でもこれは事実だ。受け入れるしかない。

 気を失ってたから本当のところはわからないけど、あの状況で私が生きてるってことは、あの後佑真が何らかの手段で私を助けてくれたんだと思う。でなければ私はドラゴンの爪に貫かれて死んでいたはずだから。

 十中八九佑真は私のために犠牲になったんだ。佑真もドラゴンも跡形もなく消えているっていうのが変ではあるけど、それしか考えられない。

 ほんと私って馬鹿だなぁ。大切な人を救うために、別の大切な人を犠牲にしちゃうなんて…。


 ***


 わかってはいたことだが、その日も佑真は見つからず捜索は打ち切りになった。翌日には予定通りお葬式が行われ、中身のないお墓も用意された。

 その間私は絶望のあまり涙すら出ず、終始この世の終わりのような顔で俯いているものだから周りの人たちにも随分心配された。

 お葬式の後も立ち直ることが出来ず、私はそれから毎日空っぽのお墓の前で蹲って過ごすようになった。前を向かないといけないのはわかっていたけど、どうしても気持ちを切り替えられなかった。


 そんな私を救ってくれたのは克己さんだった。


 ある日いつもみたいに佑真のお墓の前で蹲っていると、不意に克己さんが現れて私にこう言ったんだ。「渚ちゃん、薬学を学んでみる気はないかい」って。

 私はその場ではその申し出を断った。まだ佑真のことをかなり引きずっていて、とてもじゃないけど何かをしようという気分にはなれなかったから。

 でも家に帰ってお母さんの顔を見て、もし私がものすごく腕のいい薬師とか治療師とかだったら、無理に月花草なんか採りにいかなくても他の方法で病気を治せちゃったりしたのかなってふと思ったんだ。今は月花草を使わないと直せないとしても、研究を続けたら他の方法が見つかるかもしれないなって。そうしたら、佑真もお母さんも二人とも死ななくて済んだのかなって……。

 そう思ったら居てもたってもいられなくなって、すでに日が落ちて暗くなっていたのに診療所に駆け込んでいって、克己さんに薬学を教えてくださいってお願いしたんだ。



 それからはお墓の代わりに診療所に毎日通うようになった。

 克己さんの手伝いをしながらいろんな薬草やその扱い方について教えてもらって、家に帰ってからも借りた本で勉強して、着々と薬学の知識を詰め込んでいった。

 前にもちらっと言ったけど私は記憶力はいい方だからね、飲み込みが早いって克己さんにも褒めてもらったよ。



 そうして薬学に打ち込むうちに少しずつ佑真を失ったショックからも立ち直っていって、私はいつしか夢を持つようになった。どんな薬でも揃っている自分のお店を持って、病気や怪我で苦しむ人々を救いたいっていう夢を。そして、佑真や私のように魔物被害で苦しむ人を少しでも減らせるように、薬屋をやる傍らで魔物退治も請け負いたいっていう夢を。


 全然違う二つのことを一人でやりたいっていう夢だからなかなか大変なんだけどね、それでも私は諦めないで努力を続けた。克己さんが知っている知識を一通り教わった後も独学で薬学を学び続け、それプラス魔物の生態についても学んだ。魔法(やっぱりどうしても魔法は使えなかったから、厳密に言うと魔力操作技術の習得。魔力を魔法エネルギーに変換できないだけで、魔力そのものの操作はできる。)や体術の特訓もして戦闘技術も身につけた。さらにアルバイトみたいなこともして開店資金も頑張って貯めた。

 あの日の出来事のような悲劇を少しでも減らすためなら、どんなに大変でも諦めることなく頑張り続けられた。それが佑真へのせめてもの償いにもなると思うから…。それに周りの人たちがかなり協力して応援してくれたしね。


 ***


 そうしてあれから3年が経った今日、13歳になった私は村を出る。ある程度の準備はできたし両親の許可も降りたから、これから王都へ行って夢だったお店を開くんだ。

 わざわざ村を出て王都まで行く理由は簡単、あっちの方が村より遙かに魔物被害が多いからだ。

 私がやりたいのは3年前のような悲劇を防ぐことだからね。だったらそういうことが起こりやすい王都付近まで行かないと意味がない。実際ああいう事件は王都付近では後を絶たないらしいのに、私の村では佑真以外の被害者は一人もいないしね。


 むこうには知り合いもいないし不安がないって言ったら嘘になる。まだ物件探しも何もしてないから本当にお店が開けるかどうかも怪しいし。

 でも本当にやりたいならがむしゃらに突き進むしかないんだ。やってみないことには夢なんて絶対に叶えようがないんだから。

 だから私は決意したの、とにかくやってみるって。

 まだ子どもの私には難しい、もうちょっと大きくなってからでも遅くないはずだって言われたりもしたし、実際その通りなんだけど、準備が整ったからには私はすぐにお店を始めたい。そりゃまだまだ勉強不足ではあるし、魔物退治の実力にも不安はあるし、開店資金もだいぶギリギリなんだけど、なんとかお店をやれなくはない程度にはなったから。だから後は実践経験を積みながら実力をつけていきたいんだよね。それに何より、私は少しでも早く困っている誰かの力になりたい。それが今の私の生きる意味だから。

「渚、気をつけて行ってくるんだよ。くれぐれも無理はしないように」

「ちゃんと連絡もちょうだいね」

 見送りに来た両親が心配そうに声を掛ける。

「うん、わかってるよ。――じゃあ、いってきます」

 振り返ったら名残惜しくなってしまいそうで、私はただただ真っ直ぐ前を見て歩いて行く。これからの日々への期待と不安で胸を一杯にしながら――。

これにてとりあえずプロローグは終了です。次回からは渚がいよいよタイトルにある店――月花堂を開店するために動き出します。プロローグから3年後の話になりますが、2~4章もまだある意味過去編と言えなくもない節があります。5章でようやく渚が『薬師渚』と同じ14歳になってあちらの1章くらいの話にたどり着くので…(ただし内容は結構変えることになりそうですが)。

今回大切な幼馴染みを失った渚ですが、次章では新たな仲間と出会います。メインキャラの一人なので、2章は主に彼にスポットを当てた話になる予定です。最初の方はすでに書けているので次回の更新は明日の21時です。


※更新情報たまに後書きに書けないことがありますが、ツイッター(@Minakamimizuki)で執筆状況たまに流してます。後書きは予約投稿結構使っているので、ツイッター覗いた方が最新の状況がわかるかもです。その他作品に関することひとりで話したり、キャラクターの絵が若干載ってます。薬師渚範囲のネタバレ混ざってた気がするので要注意ですが…。

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