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月花堂物語 ~薬と魔物はお任せください~  作者: 水上瑞希
第三章 探しモノ
13/13

13,謎の大木とペンダント

前回の更新から期間が空いてしまってすいません。ようやく少し時間がとれたのでなんとか続きが書けました。

 私達は志津さんの地図の順路通りに山の中を順番に見て回る。捜す相手は変わったものの、やること自体はさっきまでと一緒だ。見落としがないように気をつけながらゆっくりと進んでいくうちにとうとう頂上まで来たが、やっぱり未だに手がかりすらない。生存確率は限りなく低いとはいえ、せめて形見くらいは見つかったらなと思うんだけど…。

 まあまだ半分しか進んでないわけだし下りのルートで見つかる可能性もあるもんね、諦めずに頑張って捜してみよう。

 皆で手分けして捜しながら、私は大輝くんにどうしても言っておきたかったことを話すことにする。

「大輝くん、私も色々あって大輝くんの気持ちわかるから協力したいとは思ってるんだけど、それでもどうしても言っておきたいことがあって……」

 嫌がられないかなと心配しつつおそるおそる声をかけると、大輝くんは返事こそしないものの聞こうとする姿勢を見せてくれる。

「ご両親が心配なのはすごくよくわかるんだけど、大輝くんがご両親のことを心配してるのと同じように、志津さんも大輝くんのことを心配してくれてるんだよ。町で会った志津さんは見てる私の方が心配になるくらいすごい顔色だった。黙っていなくなった大輝くんのことをもの凄く心配してたよ。大切な人を失うつらさは大輝くんが一番よく知ってるんだから、大輝くんがいなくなったら悲しむ人がいることも忘れないようにね」

 ちょっと説教くさいかなとも思うんだけど、これだけはどうしても言っておきたかったんだ。大切な人を失うとついその人のことばかり考えてしまう気持ちもわかるけど、そんな自分のことを心配してくれる人がたくさんいることも今はわかるから。失った人に捕らわれるだけじゃなくて、今側にいてくれる人たちのことも大切にしてほしい……というか、そういう人たちがいることに気づいてほしいんだよね。そして自分を大切にしてほしい。

 ……まあ私が言えた義理じゃないんだけどね。

「……言ったら止められるのわかってるから黙って出てきたけど、ばあちゃんには悪かったと思ってる。今後はもうちょっと考えて行動する」

 思いの外素直に聞いてくれる大輝くん。無理やり連れ帰られなくて済んで、少し気持ちが落ち着いたのかも。

「……あと帰ったらばあちゃんに謝る」

 少し考えてからそう付け足す大輝くん。自分でそこにも気づけたならもう安心かな。

「そうだね、それがいいと思うよ」

 私はそう返すとまた手がかり探しに集中する。大輝くんもそんな私をちらっと見た後、すぐに草むらの中など細かな場所まで念入りに探し始める。



 そうしてしばらく探し続けるも、何も見つけられないまま日没の時間が近づいてきた。皆口には出さないもののそろそろ諦めるしかないかと思い始めていたその時、突然「あっ」と大輝くんが声をもらした。

 その視線の先には他の木より飛び抜けて大きい、見上げる程の大木がある。どうしたんだろうと思いよく見てみると、上の方の枝に何かきらっと光るものが引っかかっている。さらに目を凝らしてみると、あれはたぶん…ペンダント?

「あれ、母さんのだ。家族写真を入れたロケットペンダントをいつも大切そうに身につけてたんだ」

 遠すぎてはっきりとはわからないが、言われてみれば確かにロケットペンダントっぽく見える。

「でも何であんなところに……」

 訝しげに大木とペンダントを見つめる大輝くん。

 帽子などの風で飛ぶような軽いものならともかく、ペンダントがあんな高い木の枝に引っかかる理由がわからない。まさかあんなところに登った訳じゃないだろうし…。

「それにこんな木、この山にあったっけ…?」

 木を見つめたまま首を傾げる大輝くん。

「え、この木見覚えないの?」

「おれ最後にこの山に来たのだいぶ前だからただ記憶にないだけかもしれないけど…」

 大輝くんは必死に記憶をたどるように低く唸る。

 記憶にないだけっていう可能性は確かに否定できないけど、でもこんな巨大な木、見たことあったら普通印象に残ると思うんだよね。

 見覚えのない大木に、掛かるはずのない場所にあるペンダント。そして帰らないご両親。これは何かあるとしか思えない。

「渚、大輝、あの木かなり怪しいよ。たぶん下手に近づかない方がいい」

 今までずっと黙っていた九条も警戒して忠告する。

「わかってるよ。でもせっかく見つけたペンダントを放っておくわけにもいかないしどうしよう…」

 ようやく見つけた形見を諦めろなんて言えないけど、だからといってあの木に登るのはいくらなんでもリスクが高すぎる。

「おれに任せて」

 困っている私と大輝くんを安心させるように少し力強い口調で言うと、九条は魔法で蔦をのばす。

 そうか、九条の蔦の魔法なら直接木に近づかなくてもペンダントを取ることができるもんね。

 九条は警戒しつつ、木に触れないように器用にそっとペンダントに蔦を近づけていく。そしてついに蔦の先がペンダントに触れたその瞬間――グラリと地面が大きく揺れた。

「な、何!?」

 びっくりして辺りの様子に目を向けると、なんとあの大木が動いてる!?

 大木はペンダントに触れかけていた蔦を枝で力強く打ち払うと、根をまるで足のように動かしてこっちにゆっくりと近づいてくる。幹の中心にはいつの間にか真っ赤に光る目と大きく裂けた口が浮かび上がっていた。

「ど、どうなってるんだ…?」

 腰が抜けたようにその場に座り込んでしまった大輝くんが呆然と呟く。

 その横で私は必死に考え続ける。こんな大木のこと、何かで読んだ気がするんだよね。

「……そうだ!思い出した!」

 しばらく記憶を掘り起こし続けていた私は、ふと村で魔物の勉強をしていたときに読んだ記述のことを思い出して叫んだ。

「お、思い出したって何を?」

 突然の大声に驚いた大輝くんが口をパクパクさせつつ尋ねる。

魔樹(まじゅ)――木の形をした魔物にはいろんな種類がいるんだけど、その中に人の思い出を喰べて力を得るものがいるの。人を喰べてそこから直接思い出を吸収したりもするんだけど、特に物に籠もった想いが大好物で、思い出の詰まった物を見つけると持ち主を喰べてそれを奪うの」

 私はそこでいったん言葉を切ると、こちらに向かう魔樹に引っかかったままのペンダントを見上げる。

「あの魔樹はたぶん、たまたまそばを通りかかったお母さんのロケットペンダントに目をつけたんだと思う。いつも大切に身につけていた写真に宿った想いは格別だろうから」

 私の話を聞く大輝くんの顔がどんどん青ざめていく。

「ペンダントが欲しくなった魔樹は持ち主のお母さんと側に居て邪魔だったお父さんを喰べ、手に入れたペンダントから想いを吸い取って急速に力を得た。だからもともとはご両親が他の木との違いに気づけないような普通の大きさだったはずの魔樹が、急にここまで大きくなったんだと思う。最初はご両親は魔物の大量発生に巻き込まれたんだと思ってたけど、むしろ逆なのかも。たぶんご両親の思い出を喰べてあの魔樹が力をつけた影響で、突然魔物が大量発生したんだ……」

 こんな大事なこと、なんでもっと早く気づけなかったんだろう。

 これだけ大きくなってしまった魔樹の力は計り知れない。正直今の私の実力じゃ手に負えないし、植物属性同士じゃ九条も分が悪い。どう見てもパワーは相手の方が上だ。

(これはさすがに撤退すべき…?)

 私はちらっと大輝くんの方を見る。

 彼は血の気の引いた真っ青な顔でガタガタと小刻みに震えている。でもその目は一切そらされることなくただ一点――お母さんのペンダントを見つめ続けている。

 この魔樹の存在が発覚した以上、大輝くんのご両親が生きている可能性はまずない。その現実を突きつけられてしまった大輝くんは今どんな気持ちなんだろう。その上ようやく見つけた形見まで諦めないといけないなんて――。


 ……やっぱり戦いもしないままあっさり諦めたくなんてないよ。

 ご両親はもう間に合わないけど、せめて思い出の詰まったあのペンダントだけは大輝くんに返してあげたい。もう誰かに悲しい思いをしてほしくなくて魔物退治をやることにしたんだもん、まだ目の前にわずかでも希望が残ってるならできるところまで足掻いてみたいよ。

 私がちらっと九条の顔をのぞき見てみると、ずっと私の様子を見守ってくれていたらしい彼は私の目をしっかり見て力強く頷いてくれる。

 頭の良い九条のことだ、私がやろうとしていることがどんなに無謀なのかはわかっていると思う。その上で私の決断を応援してくれるつもりなんだ。

 そう思ったら少し勇気が湧いてきた。

 そうだよね、もう私は一人じゃない。一人一人の力じゃ難しいことでも、二人で力を合わせればなんとかなるかもしれない。

「ありがとう。……行こう、九条」

「うん。ただし命の危険を感じたらすぐに撤退するからね」

 私達は一度頷き合い、そしてもう目の前まで迫った魔樹に向き直った。

今回の話、作者も全く予想だにしていなかった展開になりました。思い出を食べる魔樹って何!?何で急にそんなの出てきた!?なんて思っていたりします。(おい。)なのでこの後の展開は私にも全くわかりません。ちゃんと勝てるのか心配です。まあ渚は突然魔樹の説明を始めると同時に、ちゃんと打開策も作者に提示してくれたのでなんとかなると信じたいです。魔物については作者よりも彼女の方が詳しいので、彼女を信じるしかないですね。

普段からキャラクターたちが勝手に動き回って作者を振り回してくれるのですが、時間がなかった今回は急にスイッチが入ったように好き放題やってくれたので次話がちゃんとまとまるのか不安しかありません。新年度で仕事がバタバタしてて執筆時間もちゃんととれるのか不安しかありません。なので次回の更新も遅くなったらすいません…。


さて、ここで書きながら作者がずっと思っていたことを言わせて頂くと、渚、大輝には心配する人のことを考えろと言っている癖に自分はまた無茶する気満々ですね。渚はそういう子です。そして九条もなんだかんだでそんな渚のことを止める気ゼロですね。九条もそんな子です。あの二人、間違いなく今後も無茶ばっかりします。振り回される作者の身にもなってほしいです。


さて、次回更新ですが、いつになるか正直全くわかりません。すいません…。できるだけ急ぎます。

次回は渚&九条VS魔樹、たぶん3章も大詰めですかね?あの二人は格上の魔物相手にどう戦うのか?お楽しみに!(本当にどう戦うんでしょうね…)

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