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月花堂物語 ~薬と魔物はお任せください~  作者: 水上瑞希
第三章 探しモノ
12/13

12,叱責と提案

今回時間がなかったため見直しができていません。ミスがあったらすいません…。

 2つ目の採集ポイントは山の中腹あたり、山菜がたくさん採れる場所だ。見たところ、見通しもいいし斜面とかもないし、足を滑らせるなどの事故は起こりにくそう。でも見落としがいいっていうことは、もし魔物が現れたら隠れる場所がないということだ。なので、私たちは何らかの形跡が残されていないか慎重に探して回る。

「うーん、ここも特に何もなさそうかな…」

 しばらく探した後私が呟くと、九条もそれに頷く。

「じゃあもうちょっと奥まで進んで3つ目のポイントに行ってみようか」

 私たちは頷きあって歩きだしたが、すぐに九条がふと足を止める。

「九条どうしたの?」

 私が尋ねながら振り向くと、九条は茂みの一点を見つめていた。

 なんだろうと思って覗いてみると、子供用の靴が片方だけ転がっていた。

「え、これって……」

「たぶん大輝くんのものだと思う。サイズも8歳の少年の平均サイズと一致してる」

 九条が難しい顔で頷く。それを聞いて私は真っ青になった。

「靴が片方だけこんなところに転がってるなんてまさか…」

「間違いなくここで何かあったんだろうね」

 そ、そんな…。まさか間に合わなかったの…?

 私は不安でわなわなと震え出す。

 そんな私を見た九条は、励ますように私の震える手を握る。

「まだ手遅れと決まったわけじゃないよ。きっとそう遠くには行ってない。急いで探そう」

 九条の力強い言葉のおかげで震えが少し落ち着く。

 そうだよね、今から駆けつければまだ間に合う可能性だって十分ある。だったらこんなところでうじうじしてるより、間に合う可能性に賭けて急いで探す方がずっといい。

 この靴は前向きに考えればようやく見つけた手掛かりだ。何もないよりは大輝くんを見つけられる可能性が高まったと考えられなくもないよね。

「そうだね、この周辺を中心に重点的に探してみよう!」

 私と九条は手分けして靴周辺を探し始める。すぐそばにはいなかったので少しずつ範囲を広げながら探し続けていると、15分くらい経った頃遂に倒れている人陰を見つけた。

「九条、いたよ!」

 倒れているのは志津さんから聞いていた特徴と一致する少年。気を失っていて少々怪我もしているようだが、幸い大きな怪我はなさそう。

「大丈夫?」と声を掛けると、小さな呻き声をあげてすぐに目を覚ました。

「……誰?」

 目を覚ました少年は警戒した様子で私たちを睨み付ける。

「私は渚でこっちは九条。あなた大輝くんだよね?私たち志津さんから話を聞いて君のことを探しに来たんだ」

「ばあちゃんが…」

 大輝くんは一瞬痛々しげな表情をする。無我夢中で飛び出したものの、志津さんに心配をかけることは気にしていたのかもしれない。

「ねえ大輝くん、ここは危ないから一緒に帰ろうよ」

 私は警戒を解いてもらえるように優しく声を掛けたつもりなんだけど、私の言葉を聞いた大輝くんはかえって表情を険しくする。

「……嫌だ。まだ帰らない」

 低く呟く大輝くんの敵意剥き出しの目に、私は一瞬怯む。

「まだ父さんと母さんを見つけてない。ばあちゃんには悪いけど……でも二人を見つけるまで帰るつもりはない」

 決意のこもった強い瞳。大輝くんは本気だ。

 でもここは魔物がうろつく危険な山。しかもご両親はすでに亡くなっているからどんなに探しても見つかるはずがない。そんな状況で放っておくわけにはいかないよ。

 でもそれをどう伝えて良いかわからず口ごもっていると、代わりに九条が口を開く。

「……その怪我、おそらく魔物に襲われたんだよね?そのときわかったはずだ、この山は危険だよ。素人が一人でうろつけるような場所じゃない。今度魔物に遭遇したら君、死ぬよ?」

 九条の辛口な正論に、大輝くんはウッと言葉に詰まる。

「襲われた場所とタイミングから、大体何があったのかは予想がつく。……大輝はたぶん狼型の魔物に襲われたんだよね。で、必死に逃げている途中で遠吠えが聞こえてきて、その途端魔物が突然何処かに行ってくれたおかげで助かった。違う?」

 まるで見てきたかのように確信を持って追及する九条。その予想を聞いた大輝くんは目を大きく見開く。

「そ、その通りだけどなんでわかるんだよ?見たわけでもないはずなのに……」

 そう尋ねる大輝くんは驚きのあまり声がうわずっている。話を聞いていた私もびっくりしすぎて声が出ない。

 え、九条ずっと私と一緒にいたし大輝くんが何してたかなんて知ってるはずがないよね?なんでそんなことがわかるの?

「大輝が聞いた遠吠えはおれたちが戦ってた魔物が仲間に助けを求めようとしたものだ。魔物が途中で獲物を放り出すなんて、他に何か優先するものができたとしか考えられないから、戦闘能力のない大輝がなんで魔物に襲われてたいした怪我もせずに生き残れたのかを考えればすぐに予想がつく」

 さも当然のように答える九条。

 確かに言われてみれば納得できるけど、普通の人はそんなのパッと思いつかないよ。やっぱり頭良いんだなぁ。

 ……なんて呑気に考えている私とは裏腹に、九条は怖いくらいの厳しい顔。たぶん静かに怒っている顔。

「……これがどういう意味かわかる?もしおれたちが助けに来てなかったら、大輝はさっき魔物に襲われた時点ですでに死んでるんだよ」

 九条の言葉が重くのしかかる。大輝くんは唇を噛みしめているし、私も大輝くんが助かったのは本当に紙一重のところだったことを改めて実感する。

 大輝くんが助かったのは、たまたま私達が戦った魔物が助けを呼んで、それに大輝くんを襲っていた魔物が反応したから。

 もし私達が魔物と戦っていなかったら。戦った場所が大輝くんから離れた場所だったら。タイミングがずれていたら。私達と大輝くんの出会った魔物のどちらかが群れをなす狼型とは別の種類の魔物だったら……。

 ほんのわずかに条件が違っただけで、大輝くんを襲っていた魔物はその場を離れることなく彼を殺していたはずだ。今彼が生きているのはそれくらい奇跡的なことなんだ……。

 それに気づいた大輝くんは何も言い返せずに、俯いたまま拳を硬く握りしめる。

「これでわかったよね。この山にこれ以上居続けるわけにはいかない。さっさと帰るよ」

 九条はもうこれ以上言うことはないというようにくるりと背を向けて、さっさと山を下りようとする。

 そんな九条を見た大輝くんは、慌てたように九条の服の裾を掴む。

「ま、待って!危険なのはわかったけど……でも、まだ父さんと母さんが見つかってないんだ。二人を見つけるまでは帰りたくない……っ!」

 小さく震えながら必死に懇願する大輝くん。でもそれを聞いた九条は、まだわからないのかというような剣呑な表情で振り返る。

「二人が生きてるならおれだっていくら危険でもちゃんと探す。でも二人がいなくなってから時間が経ってる。生存確率は限りなくゼロに等しいよ。だったら危険を冒して二人を探すより今すぐ帰るべきだ。助かるはずのない相手のために二次災害で命を落とすのは馬鹿のすることだよ」

 冷酷に言い放つ九条。言い方に優しさの欠片もないけど、言ってることは正論以外の何物でもないんだよね。だから大輝くんは何も言い返せずに唇を噛みしめるばかりだ。今にも泣きそうな顔で小刻みに震えてしまっている。

 それを見た私はたまらず大輝くんに歩み寄る。そして目線を合わせて静かに語りかける。

「……どうしても納得いかないならあと少しだけ探してみる?」

 私の提案にびっくりしたように顔を上げる大輝くん。対する九条は不満げに顔を顰める。

「渚までそんなこと言って。我儘を聞くよりも、心を鬼にして連れ帰る方が大輝のためだと思うけど?」

 案の定苦言を呈する九条。でも私はそれに怯むことなく真っ直ぐ彼の目を見つめる。

「九条の言うことはわかるよ。私も九条の意見が一番正しいと思う。……でもさ、私は大輝くんの気持ちもわかるんだ。だから大輝くんの気持ちも尊重したいって思う」

 佑真が行方不明になったとき私が彼を探しに行かなかったのは危険だからじゃない、遠すぎてそもそも行けなかったからだ。ラルクの森へ行ったときに貯めてたお小遣いは使い果たしてしまったし、歩いて行くにはさすがに遠すぎて行くに行けなかった。

 でももしラルクの森がもっと近かったら……私は迷わず佑真を探しに行ったと思う。生きている可能性が限りなくゼロに近くても絶対に死んだと断言できないなら……ほんのわずかの可能性に縋って探さずにはいられなかったと思う。だって、大切な人が死んだなんて信じたくないから。

 ……それを思ったら大輝くんを無理やり連れ帰る権利なんて私にはないと思わない?さすがに一人にはできないけど、納得いくまで付き合うくらいはしてあげたいなって思うんだ。

「ねえ大輝くん、あと少しだけならご両親捜し手伝うよ。ただし条件がある。絶対に私達の側を離れないこと、無茶はしないこと、それから魔物が活発になる日没までには絶対に帰ること。条件を守れないなら問答無用で連れて帰るけど、この3つ守れる?」

 私に尋ねられた大輝くんは小さく頷く。

「……条件守る。だからもう少し捜させて」

「じゃあ決まりだね。急がないと時間がもったいないし、さっそく採集コースの続きに行ってみようか」

 私が立ち上がって先へ進もうとすると、その手を九条がつかんだ。

「渚本気?さっきピンチに陥りかけたの忘れたの?」

 そう言う九条の声色は厳しい。まるで私の心の奥底を探ろうとしてるみたいだ。

「勝手なこと言ってるのはわかってるよ。これがとっても危険なことも。……でもこのまま無理やり帰らせても、大輝くんずっと心にわだかまりが残り続けると思うんだ。だからお願い、ちょっとだけ付き合ってくれる?」

 私は怒られるのを覚悟で頼んでみる。

 でも九条はひとつ大きなため息をつくと、それ以上何も言うことなく歩き始める。

 拍子抜けした私はしばらくポカンと固まっていたが、慌てて九条を追いかける。

「頼んどいてこんなこと訊くのも変だけど……いいの?」

 追いついた私が尋ねると九条はもう一つ大きなため息。

「だって渚、おれが何言っても聞く気ないでしょ。……それに、渚を手伝うって決めたのはおれだから。渚が決めたことなら付き合うよ」

 こちらを見もせずに答える九条。ほんと言い方は冷たいけど、でもなんだかんだで優しい子なんだな。

「……ありがとう九条」

 私のお礼には返事をせず歩みを速める九条。

「日没までには帰らないといけないんだからさっさと行くよ」

 照れ隠しでもするようにどんどん進んで行ってしまう九条を、私と大輝くんは慌てて追いかけた。


ようやく大輝が出てきたと思ったら、思ったよりだいぶ生意気な少年になりました。それから九条がだいぶ辛口…。全部正論なんですけどね。

九条は長い間悪徳商人に搾取される生活を送っていたせいで、感情の機微とかそういうものがだいぶ抜け落ちてるところがあって、優しい言い方をするのは苦手ですぐに正論の暴力みたいな感じになってしまいます。まあコミュ障ですね。でも一応根は優しい……はず。

渚は今回完全に大輝と自分を重ねてしまっています。九条の意見が正しいことを分かった上で、でもどうしても大輝の気持ちを否定できないからこそのあの判断です。気持ちがわかるから寄り添える部分もあるのですが、わりと危うい部分もあるのでこの後どうなるのやらです。まあこのまますんなりと事が済んではくれないことだけは確実ですね。


さて、次はいつになるかわかりませんが、少なくとも次週はお休みになりそうです。仕事関連で忙しくて書く暇がない上続きに詰まり気味なのですいませんが少々お待ちください…。

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