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4/5

デートの時間

「明日、デートをしよう」

「うん」

「いや、早いな」


ある日の夕方。

公務員試験の一次試験も終わり、隙間の期間。

バタバタした状況がとりあえず落ち着いた。


試験直前は流石に集中したかったので、

遊んだりだとかを控えていたのだけれども。



「デート、したかった」

肩が密着しているぐらいの距離感で隣にいるすずが応える。


ちなみに、俺は修行を経て強靭なメンタルを手に入れたのでこんなことでは動揺しない。

ありがとう田中住職。畜生良い匂いです。


「さて、どこへ行きたい?」


「ユキとならどこでも」


「よし分かったルーレットだ」

おもむろにスマホを取り出す。


スマホで自由に文書を記入するとランダムで選択してくれるアプリがある。


俺としてもいつもこうだ!って決めるとルーチンのようになってしまうこともある。

なので気まぐれに身をまかせたいときにはこのルーレットを使うことがある。


運命を天に任せるというのもオツだし。


「すずさん、問。なんとなく思いつくデートスポットを挙げよ」


「こうえん」

「はい公園」

「えいが」

「強制的にアクション見ます。はい他は?」

「かいもの」

「クリアランスセールやってたっけ?はい次」


「オータムフェスタ」

「オータムフェスタ?」

「オータムフェスタ。先週から」


ふぅ、と俺はスマホをスリープ状態にする。

そしてすずに改めて問う。


「明日、オータムフェスタ行こうか」

「うん」


前言撤回。運命は自分で掴み取るものだ。




放課後。

いつも通り待ち合わせをして下校をする。


ただいつもと違って駅には向かわない。

歩いて街の中枢に進んでいくと、人混みが見えてくる。



オータムフェスタ。

区画が分かれている広い通りにプレハブが並ぶ。

秋の出店街のようなものだ。


平日ど真ん中だけども、だいぶ賑わっている。


「なんか久々に来たな、こういうの」


近くなるにつれ、肉の焼ける匂いや調味料の香りが漂ってきた。腹が減ってくる。


「おなかすいた」

手を繋いでいるすずも臨戦態勢だ。

流石に混み合っている場所では歩き辛さから腕を組んでいない。

手はしっかりと絡めて繋いでいる。


「よし、じゃあ美味しそうなの選んで食べるか」

「ん」


このオータムフェスタは会場が広い上に、区画ごとでテーマが異なる。


ひたすらに肉の出店がある区画もあれば、ひたすらにおつまみのような盛り合わせばかりの区画、地方からの出店ばかりが集まった区画…


そんな色とりどりの美味しそうなプレハブ屋台で目についたところに並んでは購入をしていく。



しばらくして。




「調子乗ったわ」

「ん」


眼下に広がる皿の海を眺めてつぶやいた。


そもそも待ち時間の間にワンハンドフードを食べながら、立食形式のテーブルに持ってきてくれる注文をしていたものだから結構な量の食べ物のストックが生まれていた。



「よし、とりあえずガッツリ食べよか」

「おす」


テーブルで向かい合って食べ始める。


結構な量はあるが、どれもこれも出来たてで美味しい。

値段を冷静に考えると普通の店に行った方がいいのだけど、この雰囲気で食べるからこその味だ。



「美味い」

「おいしい」


チーズ唐揚げを箸で食べ進める。

どっしりとした肉厚のある唐揚げの塊に、とろっと溶けたチーズが絡んでいる。


ブロック上にして一口パクリと口に入れる。

舌と歯で油と肉汁を楽しむ。同時に、鼻を通り抜けるチーズの香りが強烈なインパクトを残す。

嗚呼、塩気の強いもの同士なのに、どうしてこんなにも魅了するのか。



すずも無表情でモソモソと食べる。

笑うことが多くなったすずだけども、こういうときの表情はあまり変わらない。


たまに思うのだけど、表情からは読めないので本当に楽しんでくれているか不安になることがある。


そんなことをぼんやり考えていると、少し遠くから「ずっちゃんー!!」という言葉が聞こえた。



声の先を見ると、ゴリゴリのギャル軍団がいらっしゃった。いいえ違います、ここはナイトプールではありません。


「マジでウケんだけど、ずっちゃんー!!」


「流羽ちゃん」

すずがそう呟いて、ぴょんぴょんと寄ってきた相手と抱き合う。


「来てたのずっちゃん!連絡してくれたら良かったのに!」

「え、旦那さんと来てたの?マジデートじゃんラブいね!」

「はじめまして!流羽って言いマース!自分ずっちゃんのマブッス先輩!」


新聞部の子といい、最近の若い子はマシンガントークなのだろうか。一気にしゃべられて敬礼されるまで何も喋れなかった。


スカート丈は校則違反、髪の色は黒髪だけども化粧は攻撃力高め、第二ボタンまで外していてキャミソールは着ていない。


Q.高校生のパリピ系ファッションとはなんですか?

A.これです。


そんな模範解答をいただくような方が、すずの友達らしい。


意外なお友達がいらっしゃるようで。


ーけっこんするだけじゃ分からないこともあるんだなぁ  みつを



そんなアホな思考から抜け出して返事をする。


「あ、あぁ…ユキノリです。はじめまして。すずと仲良くしてくれてありがとうございます」


「ユキノリさん?なんでそんなかしこまってんすか!イイっすよ自分後輩なんすからタメ語で良いっすよ!」


ケラケラと彼女は笑う。


『あの人って、校内新聞に出てた旦那さん?』

『すずちゃんと比べたらパッと見普通じゃない?』『ふつー。でも結構腕やばくない?』『ほんとだ。腕フェチ的にはアリよりのアリじゃん』『美女と野獣かよ』『美女と野獣て!やば何その表現ウケんだけど!』


後ろにはおそらく流羽ちゃんと一緒に来ていた友達だろうけど、めちゃ聞こえている。若干凹む。



「じゃあ遠慮なく。流羽ちゃんはすずと同じクラスなの?」

大事なのは負けないメンタル。聞こえないフリをして答える。


「そっすよー、隣の席だったから良く一緒に居たっていうか!ずっちゃんクール系だから怖いぴえんだったけどキョコ話してたらマジ可愛くてそっからずっ友で!」


「そりゃあ、なによりだ」


「ずっちゃん皿凄いねめっちゃ食べてるじゃん!映えんね!あ、インスタあげていい?」


彼女はおもむろに自撮り棒を取り出し、皿と自分とすずと並んで写真を撮る。


その後少しの間にハイテンションに話す流羽ちゃんと無表情でコクコクと頷いているすずを見ながら、皿の海を片付けていく。




「ありがとずっちゃん!また学校で会おうねー!」

話して満足したのか、手を振って流羽ちゃんが友達と合流していった。





「強烈なキャラだった。凄い子だね」


こくりと、すずは頷く。


「高校でできた友だち」

「口下手な私にいっぱい話しかけてくれる」

「おかげでクラスでも友だち増えた」

「お洒落だし、私だけじゃなくてクラス皆とも仲良し」


田中的ポジションってことか。

あれだけ美人でコミュニケーションが上手ならクラスでも中心人物なのだろう。


「そっか。それなら良かったよ」


「うん」





「流羽ちゃんが前に教えてくれたの」

「ん?」


広大な皿の海を片付けて、俺たちは最後に締めパフェを食べて満腹で帰路に着いている。


「あんまり私表情も出ないし、口下手だからつまんないんじゃないかって」


「そしたら流羽ちゃん、『なら、態度に出せばいいんじゃない?や、出なくてもずっちゃん素直に言ってくれるから分かるし』って」


「うん」

なるほど、だからか。


「だから、私はユキにいっぱいくっつく」

駅を降りてからぺっとりと張りついているのは。


「すずにずっとくっついて貰える男になるように頑張るわ」

苦笑して答える。


いつすずがそっぽ向いてしまうかは分からない。結婚をしたとしても彼女が愛想尽かしてしまうことだってあるかもしれない。


だから、俺は俺を高めていかなければ。


「むり、しないでね」

すずは少し笑う。


「ユキがわたしを好きでいてくれるだけで、本当に幸せだから」



彼女は口下手だ。




ーでも素直な、可愛い女の子だ。



二人で俺の家に入る。


「ただいまー」と荷物を置くために一度リビングに入る。


「あら、おかえり。ちょっと遅かったわね。今日は唐揚げよ。手を洗ってきてねー」



あ。

晩飯いらないことを伝え忘れていた。

しかも母さんったらよりにもよって唐揚げかい。しこたま食ったわ。



俺はやっちまったという顔ですずを見る。


無表情で見つめ返す彼女は、自分のお腹をポンポンと叩く。そうですよね、あなたも満腹ですよね。


「むり、してね」

イタズラっぽい顔で俺を見る。

あ、これすずさんは櫛桁家に連絡ちゃんとしてたパターンだ。



「…頑張るわ」

母さん、ご飯作ってくれてありがとう。


でも飯を食う前からこんなに気合が入れなければならないことは今日だけ許して欲しいと思っております。





ちなみに翌日は飯抜きにしました。腹減らんわ。




最後まで読んでくださりありがとうございます。

単純な日常回でした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新、お疲れ様です! 4話一気読みして、ハマりました。 もし次があるなら、楽しみに待ってます! でも、先生も体調にはお気をつけ下さい。
[一言] 幸福感が伝わってくるー とても甘くて美味しいです
[一言] ほのぼのできました〜! 腕フェチって、ユキさんどんな体型
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