英雄の力とはどれほどのものなのだろう?
本日、2話目の投稿です。よろしくお願いします。
城下内を疾走する一人の男がいた。街中は外の帝国の兵士たちの姿にパニックになり逃げ惑う人々がたくさんいた。かつての王国をみているようだなとカイルは思った。道には逃げ惑う住民がたくさんいるので、屋根の上を走り抜ける。城門までは20キロというところだろう。この距離を考えるにこの都市自体主要な位置づけなのだろう。多分ここが王都なのだろうなと考えながら城門にたどり着く。
「さて、まずは城門前の掃除からかな」
城門の上から敵国の兵を見下ろす。そこから高さ20mあろうところから軽々と飛び降り着地す
る。そのまま風魔法の『拡声』を使い帝国兵に淡々と話を始めた。
「さて帝国兵のみなさん、ここから撤退してもらえないでしょうか?ここで撤退しないとあなた達の命は保証できません。いまならまだ間に合います。どうか撤退してはくれないでしょうか」
カイルのそんな言葉に帝国兵たちは笑いながら腰の剣を抜いた。
そんな対応にカイルは亜空間に手を突っ込み一つの弓を取り出した。その弓は大きさはカイルの身長の半分ほどの大きさでキラキラと輝いており所々に宝石が埋め込まれている。『王雷の弓』だ。
カイルはその弓に魔力を込めて弦を引く。それだけでカイルの周りには数多の魔法陣が創造されていく。
「やっぱり話は聞いてくれないか。それじゃあ始めようか。侵略たち」
カイルはそのまま弦を放つ。
「行け!千の雷」
その言葉に魔法陣が発動し弓矢とは言えないような雷が兵士たちを襲う。その威力は矢というよりも電磁砲とでもいってよかった。直径2mはある魔法陣からレーザーのように飛んでいく。
門の入り口に集まっていた兵士たちが一瞬にして黒焦げになりそれはそのまま貫通して後ろの兵士たちを飲み込んでいく。その光景を見ていた兵士たちは恐怖で逃げていくが、カイルは千の雷の魔法陣を維持しながら何度も兵士たちを撃ち抜いていく。
3万はいた兵士たちはあっという間に全滅した。『探知』で兵が残っていないのを確認してカイルはそのまま城へと帰っていった。
城から見ていたアイリスたちは信じらないものを見ていた。
数えられないほどの魔法陣が現れ、そこから信じられない威力の魔法が何発も連続で打ち出される。見えていたのは雷。そんな魔石はこの世界には存在していないと言われているのに。それにこれほどの魔法など今まで一度たりとも見たことがない。魔法の音が鳴りやむと城の外にいた兵士は一人たりとも生きている様子はなかった。アイリスは助かったのだとサラとオリヴィアとともに抱き合った。
「姉さま、助かったのでしょうか?あれだけの兵を倒すなんてどのような英雄なのでしょう」
オリヴィアの言葉にアイリスはハッとする。英雄と言ってもいつの時代のどんな英雄なのかまではきいていない。
そこにカイルが飛び出した窓から戻ってきた
「アイリス様、これで城の外は片付きましたよ。これからどうしますか?」
三人の王女たちはきょとんとした顔でカイルを見る。あれだけの魔法を放ち、着かれている様子を微塵も感じさせないカイルに信じられないという思いでただ感嘆していた。
そんなカイルにアイリスはただただ思ったことを聞いてみた。
「カイル様はあれだけの魔法を使用して何ともないのですか?魔力切れなどないのでしょうか?」
「あれくらいならまだ何発でも大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」
カイルは柔らかな笑みを浮かべてアイリスたちを見る。
「カイル様ありがとうございました。英雄の力というものはすごいのですね。あれだけの力を持っているなんて」
オリヴィアが優しい顔つきでカイルの手を両手で包み込みながら笑顔で答える。
「いえ、僕の力なんてまだまだでしょう。他の英雄と呼ばれる人たちはもっとすごいと思いますよ」
「そこまで謙遜しなくてもいいのですよ?さぁカイル様またそこのソファに座ってください。目の前の脅威は去りましたが大本はまだ残っているのですから。それにカイル様はまだいろいろと聞きたいこともあるでしょう?」
オリヴィアの言葉に頷きカイルはソファに座る。オリヴィアがメイドに何かを一言いうと紅茶を用意してくれた。
「さて、僕から質問してもいいですか?」
カイルはその紅茶を一口飲むとアイリスに向かって問いかける。
「はい。私どもが知っていることならすべて話します」
「それじゃ今は新暦何年ですか?」
「今は新暦1470年です」
「1470年ですか。それでは私のいた時代から大体500年はたったということですね。それでは今の世界情勢はどうなっているのですか?」
アイリスが地図を広げて詳細に教えてくれた。この大陸には5つの国があるあらしい。中央にあるフィナンシェ王国、北側には先ほどのバルト帝国、南にはアインツ皇国、西にはハリス国という国があり東にはヤマト国という国があるらしい。バルト帝国以外とは平和条約を結んでおり問題はないそうだ。帝国は軍事力を毎年強化していて、フィナンシェだけでなくヤマト国やハリス国にも戦争を仕掛けているそうだ。
「ヤマト国やハリス国と協力してバルト帝国を抑えることはできなかったのですか?」
「はい。バルト帝国は強力でヤマト国とハリス国と協力しても難しく……」
カイルはそれなら簡単に解決できるだろうと話を切り出した。
「そうなんですか……。それでは僕が話を付けてきましょうか?」
この話は先ほどの兵たちを見た限り、兵の質は昔より数段落ちている様子を確認したからだ。
「あの、カイル様はそれでよろしいのですか?」
アイリスが恐る恐る訊いてくる。その様子にカイルははそんなに自分は怖そうに見えるのだろうか思案する。
「僕の力は虐げられている民のためにある。そう考えています。今困っている人を助けずに何が英雄でしょうか。周りから偽善者と罵られてもかまいません。僕は僕の信念のために戦うんです。これだけは譲れないのです。僕が僕であるために」
自分の覚悟は決まっているのだという事を伝える。
「それならバルト帝国までの地図をお渡ししましょう。無いよりはましでしょう」
アイリスに言われたメイドは部屋を出ていき一枚の地図を持ってきた。
「バルト帝国の首都に着くまでには何か所かの関所を通過する必要がありますから大変ですよ?それでも行くのですか?」
アイリスは不安げにカイルを見つめるがその視線をまっすぐに受け止める。
「大丈夫ですよ。心配しないでください。それではすみませんが水と食料をある程度頂けますか?」
「それくらいならすぐに準備できますが……すぐに出発されるのですか?」
「そうですね。早めに芽を摘んだ方がよいでしょう?」
「それはそうですが……」
「カイル様はどうやって関所を通るつもりなんですか?」
サラが疑問を投げかけてきた。
「それは空を走るんですよ。飛んでもいい。そうだね。実際に見せようか」
カイルはその場を立ち上がり軽くジャンプする。普通なら重力にしたがってジャンプした後は下がってくるのだがジャンプした最高点で止まっている。足元には魔法陣が浮かんでいるがアイリスたちはこんな魔法は見たことがない。
「これは天駆といって風の中級魔法の一種だよ」
アイリスたちはこれが中級の魔法だというのかと驚いている。
「魔法媒体は何を使っているのですか?」
オリヴィアが驚いたように尋ねてくる。カイルは自分の指にはまっている指輪を一つ外してオリヴィアに見せた。
「これはなんの素材でできているのですか?全く見たことがない色をしているのですが?」
「これはオリハルコンの指輪。風珠の指輪と言って風魔法が使えるようになる指輪だよ。内包されている魔法陣は現代とは違うかもしれないけどね」
この世界の自然魔法は魔石がないと起動することができない。自然魔法とは地水火風などだ。魔法は魔法陣が魔石に内包されているので、魔力を流せばどのような魔法が内包されているのかわかる。魔石に内包されている魔法陣を増やすことはできるがそれは常人では不可能だ。先ほどの弓で使った『千の雷』も雷の魔石が使われている。この魔石は特級魔石とカイルは呼んでいる。世界には存在していない魔石として扱われているからだ。この『千の雷』の魔法自体はカイルのオリジナルだが魔法を発動させるには魔石が必要である。簡単に言えば魔石に魔力を流しその属性を操るということだ。だから魔法使いは必ず魔法媒体をどこかに装備している。例外とされるものは無属性魔法や特殊魔法などだ。無属性魔法はその人の努力次第でどこまでも強力になる。特殊魔法などは伝説と呼ばれており使い手がいない言われるくらいだ。
オリヴィアはオリハルコンと聞いて卒倒しそうだ。アイリスやサラも同じ顔をしている。
「まぁだから関所なんてあってないようなものだよ。だから心配せずに待っていてください」
「わかりました。確かにカイル様の言う通りなら問題はなさそうですね。それでカイル様は帝国に着いてからはどうするつもりですか?」
到着してからのことを考える。なるべく穏便に済ませたいところだ。
「王様を殺してもいいんだけれど、それだと後々禍根を残すだろうからね。とりあえずは脅すくらいにしておこうかと思うよ。フィナンシェ王国に手を出したら容赦しないよってくらいにね」
カイルはいとも簡単にできるかのように答える。
「それを聞いて安心しました。それではそのようにお願いします」
アイリスは安堵の表情をしてソファに座りなおした。
「しかし、バルト帝国はなんでそんなにこの国や他の国を襲うんですか?」
サラが体をグッとこちらに近づけて怒り心頭に口を開いた。
「あの国は自分たちの軍事ばかりに力をいれているので、食料が圧倒的に少ないのです。だから他国から略奪して自分たちの物にしているんですよ!」
自分の国の食料自給力より優先するものはないのだが、バルト帝国はどこで考えが歪んだのだろうとカイルは腕を組む。
「それは確かにダメですね。自分の国の食糧事情くらいちゃんと考えてほしいところです。その辺りもしっかり教育しなくてはいけませんね」
カイルはソファに座らずに話を続ける。
それから何度か質問をしながら今の世界の情勢を聞いた。
「それではそろそろ向かうとしましょうか。水と食料はどちらに?」
水と食料の場所をアイリスの方を向き尋ねる。
「食堂の方に準備してあります。とりあえず1週間は大丈夫だと思います。」
アイリスの隣にいるメイドさんが教えてくれる。
「それじゃあ食堂に向かいましょう。収納してさっさと行って終わらせてきますから」
アイリスが不思議そうに収納について質問してくる。
「収納とはなんですか?」
「あぁ、亜空間収納だよ。さっき見せたプレートと同じだよ。基本的に時間の流れがなくて食べものも腐敗もしないから便利なものだよ」
「そんな伝説級の魔法まで使えるのですね」
「これでも力はあるほうだと思うからね」
カイルは腕をまくって力こぶを作る動作をする。それを見ていた彼女たちは笑顔で笑っていた。
食堂に行き食料と水を確保したカイルは城の前にまで来た。
「それじゃ行ってくるよ。万が一を考えて城の周りに結界を張る魔道具を置いておいたから大丈夫だと思うけどなるべく早く戻ってくるから」
「カイル様それではご武運を」
三人の王女と騎士たちに見送られてカイルは駆けだした。
一瞬で目の前から消えたカイルに驚きながらも彼女たちはカイルの旅の安全を祈るのだった。
「あっ!結局どこの英雄か訊き忘れてしまったわ!」
アイリスはそんなことを思い出すのだった。