召喚!
はじめまして。ヤマトといいます。これから長期連載で頑張って行こうと思います。ストックが続く限りは1日2回の投稿していきます。よろしくお願いします。
時は夕暮れ。生い茂る森の中1組の男女がいた。
年は10代後半であろうか。腰まである金髪の髪に煌びやかなドレスを着ている少女。しかしそのドレスは今では所々に血がついている。そしてその心臓には刃が刺さっていた。
少女の目の前には白髪で青い目をした青年が険しそうな表情で剣を少女に突き刺していた。
少女は口から血を吐きながらも目の前にいる青年に微笑みかける。青年の頬に手を当てながら少女は微笑みかけた
「カイル、最後まであなたには苦労をかけました。私の最後の命令です。生きなさい。あなたにはつらい選択をさせてしまいましたがあなただけなら生きることができるはずです」
カイルと呼ばれた青年は涙を流しながらも少女の言葉に耳を傾ける。
「もしも、平和な世界であなたに出会えていたなら……」
少女の瞳から一筋の涙が流れる。そして、その言葉を最後にカイルの手を握っていた少女の手から力がぬけた。少女が息を引き取ったのだ。
今まで何人者人たちの最後を看取ったが決してなれるものでない。いつも自分の無力さが情けなかった。
カイルは少女の最後を看取った。突き刺さっている剣に魔力を流す。剣にはめ込まれている紅玉が光り紅蓮の炎が噴き出した。少女の亡骸を消し去るのだ。少女からの願いだったからだ。
「なんで、こんなことになったんだろう」
主君を自らの手で殺したという自責の念を飲み込みカイルは両手に持つ剣を見る。両手には黒と白のコントラストをした二振りの剣。剣には金色の模様が美しく施されていた。片方には赤の、もう片方には緑の宝玉がはめ込まれた剣だ。そして、刀身には星の聖刻が刻まれている。魔剣と呼ばれる数少ない剣である。数多の戦場をこの剣で駆け抜け、人を助け、また人を殺した。
「姫様、僕はなんのためにこの世界に生まれたんでしょうね。こんなことをするために僕は強くなったわけではないのに……」
静寂な森の中にいるカイルは守るべきものを亡くしながらも涙を拭う。
この戦はもう王国軍の負けだ。それでも最後まで戦うしかないのだろう。
しばらくするとガチャガチャと鎧の擦れる音が近づいてくる。カイルの周りには沢山の兵士が集まってきていた。襲って来た帝国の兵士たちだろう。カイルの服装を確認すると兵士の一人が口を開く。
「お前は王国のものだな。容赦はしない。ここで死ぬがよい」
一人の兵士が剣をこちらに向けて突進してくる。カイルはその剣を避けると兵士の首を一振りで飛ばす。その早業に兵士たちは戸惑う。兵士たちから声が上がった。
「おいおい、こんな奴が残っているなんて聞いていないぞ」
兵士たちは驚きながらも一斉にカイルを取り囲み、剣を突き刺してくる。カイルは剣に魔力を込め周囲に風の刃を飛ばして兵士たちの首を一刀両断する。剣に付着した血を掃うとカイルは剣を鞘にしまい、ため息をつく。
「結局最後まで僕は戦わなくちゃいけないのかな」
カイルはそう言うと森を駆けだした。森の木々を勢いよく走り抜けていく。
森を抜けるとそこには地獄絵図だった。かつて栄華を誇った王国から火が上がっていた。
入り口と思われる門の前には住民たちの死骸が山のように積まれている。カイルはその様子を見て覚悟を決めた。一人でなら、生き延びることはできるだろう。姫様から頂いたこの命を無駄に散らすわけにはいかない。だが自分の国の国民の死骸をみて自分だけ逃げるにはいかないと。カイルは剣を抜き王国を蹂躙する帝国軍へと突き進む。
「姫様、僕はやはりあなたの敵を討ちたい。すみません」
今はいない少女に向けて言いながら魔力を足に溜め勢いよく飛び出していく。
敵は数万にも及ぶ軍勢。それでもカイルは敵軍に突っ込み敵をなぎ倒していく。まさにその様子は一騎当千である。二振りの剣からは炎と風が吹き荒れて敵をなぎ倒していく。数多の武具を使いこなし戦場を駆け巡る。ある時はすべてを切り裂く二振りの剣を、そして、ある時は森羅万象を引き起こす弓を、ある時は何者も寄せ付けない盾を。
「おいおい、何してくれちゃってるの?お前はアルゼのあれか?」
軽薄そうな男は右手に黒と白のコントラストをした大剣を持っている。その剣には茶色の大きな魔石がはめ込まれていた。そしてこの剣にも刀身に星の聖刻が刻まれている。
その男は帝国最強と呼ばれる剣士だった。
「僕たちが戦えば周囲の仲間が巻き込まれるぞ。それでも戦うのか?」
男はギラギラとした視線でカイルを見ている。その視線はとても同じ人間を見る目とは思えない。
「それはそうだろう。俺はそのためにこの戦争を始めたのだからな。お前の首が勝利の印だ。大人しく俺に殺されろ」
男の持つ剣の魔石が光を放つ。カイルも仕方がないと二振りの剣に魔力を流す。
僕たちは互いに声を張り上げる
「君の(お前の)の星は輝いているか!!!!!!」
男との戦いは何日にもおよんだ。地面は焦土とかし、いくつもの不自然な地形になっていた。
「これでお終いだ。言う事はあるか?」
男はカイルの方向へ唾を吐きかけると地面に倒れ込む。
「はぁ、俺の負けか。あれだけいろいろと手を回してもダメとかお前の強さはおかしいよな。この作戦は旨くいったと思ったのに、結局大好きな女は手に入らず戦死か」
「お前の作戦は途中まではうまくいっていたさ。僕の性格を知らなかったからの結果だな」
男は舌打ちして目を閉じる。カイルは男も胸に剣を突き刺して男の最期を看取る。男の持つ剣を何もない空間に回収するとカイルは辺りを眺める。本当に何もなかった。
「国の均衡を保つためとはいえ星の女神も大層なものを僕たちに託したものだ。この剣たちは僕たちの身には不釣り合いだというのに」
どれくらいの時が立ったかもわからないままカイルは一人でそこに佇む。
彼は自身に纏わりつく血を拭いながらかつてはあった自分の住んだ国の跡を見る。
「終わった……これでこの戦争は終わりだな。王国はなくなってしまったし、これからどうしようかな。旅にでも出ようか。困っている人を助ける旅にでも」
そう言ってカイルは立ち上がり歩き出す。英雄と呼ばれる者の旅の始まりであった。
それから500年後の物語
ここはフィナンシェ王国と呼ばれる城の地下にある召喚の間。その部屋には白いドレスを着た13歳から16歳前後の3人の少女と6人の騎士が立っていた。地面には魔法陣が描かれており中心には何かが置いてある。これからこの魔法陣を使って何かをしようとしているようだ。少女や騎士には緊張した面持ちがうかがえる。
少女たちはお互いに顔を見合い頷きあうと、手を床にあてて魔力を魔法陣に流しだす。少女たちの体からおびただしい魔力が抜けていく。その時間は1分にもみたないだろうが少女たちにとっては長い時間魔力を放出したような感覚だった。少女たちの顔は疲れ切っており騎士たちに支えられている。魔力を纏った魔法陣から徐々に光が放出される。
「まだ詠唱が必要です。二人とも気を抜かないように」
声をかけられた少女たちは頷くと背筋を伸ばして詠唱を始める。
「「「紡ぐ、紡ぐ、紡ぐ、我は世界を紡ぎ、強きものを呼び出す者、星の巡りを幾千も見届けかの者に願う。繋ぐ、繋ぐ、繋ぐ、世界の理からはずれし勇ましき者に希う。英霊の座に眠りし一柱よ、星の女神に見染められし者よ。我らの願いを聞きその体を纏い顕現せよ。我らの名はアイリス、サラ、オリヴィア。我らの希望を受けとりし星の女神に捧げる剣よ。その姿を眼前に示せ」」」
そのまばゆい光から大量の魔力が溢れてくる。それを見ていた彼女らは成功したのだろうかと緊張な面持ちだ。そして、魔法陣の中心を見ると一人の青年が立っていた。白髪に青い目をし、身長は180cmくらいでその表情はとても柔らかな感じだ。赤色のコートに黒色の軍服を着ていて目を瞑っている。
その魔法陣から現れた青年を見ている少女や騎士は落胆の表情をしているようにも見えた。この変哲もない人間が我らの希望なのかと。
ドレスを着た一人の少女が決心したのか騎士と共に青年に近づく。そしてその少女が青年に声をかける。
「あの、私はこのフィナンシェ王国の第一王女のアイリス・フォン・フィナンシェと申します。良ければあなた様の名前を教えていただけませんか?」
青年は驚いた表情をしながら自分の体を確認していたが、アイリスの言葉を聞き、口を開いた。
「僕の名前はカイル=シュバルツ。それよりどうなっているのかな?」
カイルは目の前の少女に事情を聞く。
「カイル様、この度は私どもが英傑召喚をしたのです。そしてカイル様が呼び出されたのです」
「英傑召喚ですか?なんですかそれは?」
「そうですね。英傑召喚とはおとぎ話などに出てくる英雄と呼ばれる人たちを現世に召喚する儀式です。今、この国は他国から戦争を仕掛けられています。もう後がないのです。どうかこのフィナンシェ王国を助けてくれませんか?」
カイルはアイリスの真剣な表情を見て少し悩んだ。そもそもカイルは英雄という器ではないと思っているのだ。大切な一人の女性を助けることができなかった、そんな男だと。カイルは目の前の少女を見つめる。
「アイリス様、僕はね。そんな大それた人間ではなかったんだよ。大切な人も守れなかった。弱い人間なんだよ」
「カイル様は英雄譚に残るような偉業を成し遂げた方ではないのでしょう。それでも、あなたの力が必要なのです。ここではなんですので部屋を替えてじっくり話しませんか?」
カイルは頷きアイリスの後ろをついて行く。カイルの後を二人の少女がついてくる。
城の中は慌ただしく怒号が飛び交っていた。この状況は一体どういう状況なのかとカイルは考える。
しばらく歩いて行くと豪華な入り口をした応接室に着く。
そのままアイリスに促されてカイルは応接室に入りソファに座る。
「それでは改めまして、私はアイリスと申します。こちらの左側の子が第二王女のサラ、右側の子が第三王女のオリヴィアと申します」
紹介された二人は深々とカイルに頭を下げる。
カイルも左側の金髪ツインテールの子と右側の金髪ポニーテールの子を見て頭を下げた。
「それでは私も。カイル・シュバルツと申します。よろしくお願いします。それで僕にこの国を助けてほしいとのことですがどういう状況ですか?」
王女たちは顔を合わせて話をしだした。
今この国は隣国のバルト帝国という国から侵略されているらしい。もうすでに帝国軍は城の前にまで来ていて、いつ城下に攻め入ってくるかもわからない状況みたいだ。アイリスの表情を見ている限りそれは本当のことみたいだ。戦争の道具として呼ばれたのかと思うとひどく憂鬱な気分になる。
カイルは自分のことも聞いてみた。まずは自分のこの肉体のこと。一度死んだ自分がなぜ現世に肉体を保持できるのかを聞いてみた。
「カイル様の肉体は英傑召喚によって復元されています。詳しいことはわかりませんがその肉体は生前の物と変わらないと伝えられています」
カイルはそんな都合のいい魔法があるのだろうかと考えた。本当に自分の肉体なのならばあれが使えるだろうと思い右手を突き出し「オープン」と唱え黒い亜空間を作り出す。その様子を三人の王女たちは酷く怯えた表情で見ている。これから何かされるのかと思っているのだろうか?何もしないのにと思いながら、その亜空間から一つの白いプレートを取り出し、カイルはそのプレートを見つめ魔力を込める。そうするとプレートの色が白銀に輝きだす。そのまばゆい光に彼女たちはただ呆然とする。
「カイル様、そのプレートは何なんでしょうか?」
アイリスが目を輝かせながら聞いてきた。
「これは魔力測定用のプレートだよ。僕の魔力が以前と変わっていないかを確かめたくてね。この様子だと僕が死ぬ直前の魔力量というところかな。だとするとこの肉体は18歳の時か」
プレートを亜空間にしまい話を続ける。
そこで第二王女であるサラが口を開く。彼女はアイリスに比べると少しキツメの目をしておりヤンチャそうだなとカイルは感じた。
「それでカイル様は私どもに手をかしてくれるのですか?」
サラの言葉にカイルは悩む。確かに困っている人たちを助けるために力を付けた。一人の女性を助けることができずに後悔した自分を追い込み、困っている人たちのためにひたすらに手を血で汚した。そして最後は魔窟にいた邪龍と戦い相打ちとなり死んだ。その一生は幸せだったのだろうか。目を瞑り自分の一生を振り返る。助けた人たちから感謝された。「ありがとう」と涙を流しながら言われることも多々あった。そう言われたときの心の充足感はとても言葉では言い表せない。助けた人たちの笑顔が何よりも自分の生きる糧になったのは言うまでもない。
今、目の前にいる彼女たちの心境を過去の少女と重ねてしまう。
やれやれ、自分はどうも、とんだ甘ちゃんのようだ。カイルは自分のことをそう思う。
「わかりました。僕もあなた方に第二の人生をもらったのです。戦であれ手を貸しましょう。とりあえず城門の前の敵兵を殲滅しましょう」
その言葉に少女達は驚きの声を出す。
「あの数の兵を相手に大丈夫なのですか?敵兵は3万はいますよ?」
アイリスは驚いたようにカイルに尋ねる。
「無謀ではないですか」
「大丈夫ですよ。僕はこれでも強い方だと思っていますから。一応は世界を救ったとも呼ばれていたのですから大丈夫ですよ。それにあなたたちも自分たちの呼んだ英雄の力くらいは見ておきたいでしょう?」
そう言ってカイルはさっと窓から飛び出していく。その様子を見ていた王女たちや騎士は驚いた。ここは王城の3階だ。それなりの高さがある。いくら魔法があるといっても英雄であろうとも人だ。そんな所から飛び出して無事なのかとアイリスはカイルを目で追った。カイルは地面に着地するとその場から消えたのだ。アイリスには訳が分からなかった。目をこすりながら今目の前で起こった一瞬を信じられないという表情で見つめる。英雄と呼ばれる者たちはそこまで非現実的な者なのだろうか?自分たちが呼び出した英雄は一体何者なのか?歴史に刻まれなかったであろう英雄にアイリスは静かに願いを託す。
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