プロローグ
眼前に広がるのは雪、血の海、戦車の残骸、そして死体、死体、死体。敵も味方も死に尽くし、壊れ果てた地獄に残るのは、もはや一人と一つのみ。
一人は優秀な兵士である。守るべきものを守るために敵陣へ飛び込み、完成された肉体と技術、そして勇気によって敵を退けた。
一つは動く要塞、装甲列車である。その重厚な装甲で兵士を守り、強力な装備で迫り来る敵を撃滅した。
しかしながら彼らも一つの終わりを迎えようとしていた。兵士の体からは血が止まらず、徐々に体温が失われていった。列車も彼が死ねば、最後の兵員を失うことになる。
その後のことを兵士は考えた。考えた結果、列車にある全ての火薬と燃料でそれを吹き飛ばすことにした。愛したものを敵に踏み荒らされ、使われることに我慢ならなかったのである。それほどに彼はその兵器を愛していた。
火薬庫の壁にもたれ掛かりながら、彼は装甲列車と共に戦った日々を思い出していた。
「これまでご苦労だった」
壁に手を触れ、語りかける。
「お前にはいつも助けられた」
戦車の大隊と戦った、最後の戦い。この列車がなければ、それらの全てを撃滅することは叶わなかっただろう。
外には頼れる同輩、上官、部下が血の海に沈んでいる。
「みんな死んでしまったな」
喧騒も戦いも、もはや全てが過去のものとなった。
「お前を破壊しなければならない私を許してくれ」
そして全てが閃光に包まれた。
────ある時代、ある国、ある戦場にて
目が覚めると、そこには豪華絢爛そのものがあった。
大理石で出来た巨大な建造物、透き通った水の溢れる噴水、黄金期に耀く調度品
──黒煙も雪もない美しく晴れた空、美味い空気。
兵士の居た場所とは全く違う、神話の世界のようだ。
しばしその空間を堪能したい所だったが、突如彼の眼前に雷光が落ちる。
眩さに眼を閉じると、次の瞬間、そこには神話の神のような服装をした老人が立っていた。
「よく来た。至高の戦士よ」
「は?」
──何が起きた?
「ここは優秀な戦士のみが来訪を許される、言わば戦士の楽園である。私はここの管理者、まあ戦の神といったものだ」
「???」
──理解が追いつかない。
ここが戦士の楽園?この老人が戦の神?
神と名乗った老人が続ける。
「突然だが貴殿には、ある別世界に飛び、戦ってもらう」
「待て!一体どういうことだ!何が目的だ!」
「その世界は悪魔共によって侵略されようとしている。貴殿にはそれらを撃退してもらうことになる」
「悪魔だと?」
──なんだこれは?俺はどうなったのだ?
「まあ落ちつきたまえ。君は神の軍勢、その一員になれるのだ」
「それよりもあいつらは、俺の仲間はどうなった!」
「仲間とは君と共に最期を戦った者達か?彼らは残念ながらここには来られなかったようだな。もはや魂も消滅しただろう。所詮取るに足らない人材だったという事だ」
──取るに足らない人材
その言葉が彼を激昂させる。
「フザケるな」
「あいつらは、紛れもなく俺の仲間だった!戦友だった!貴様に俺たちの何がわかる!」
衝動的に殴り掛かる。神だろうが知ったことではない。
しかし、放った拳が届くことはなかった。全身に激痛が走り、動けなくなった。それはまるで、老人を殴ることを本能的に拒否したようだった。
「勘違いしてもらっては困る。別に貴様も、私にとってはノミのような存在だ。貴様はただ単に、あの兵器の力との親和性が高かっただけ。思い上がるなよ人の子」
──あの兵器の力?親和性?
何もわからない。
しかしそのまま、世界は暗転する。
最後、彼が聞いたのは
──力を行使し、大義を果たせ
忌々しい老人の声だった。