プロローグ はじまり
「おめでとうございますー!貴方は総人口70億の中から選ばれました〜!」
突然ファンファーレと共に、パラパラと騒がしい音が響く。
住み慣れた我が家……ではなく、真っ白な世界。
足元は雲のようにモコモコとした空気が漂っているが、頭上には青空と雲がある。
一体どうなっているのか全く分からない。
「おやおや〜?何やら反応悪いですね〜お姉さん悲しぃー」
吐き気を催す様なぶりっ子スマイル。
片目ウインクと共にキラリン!と何なら音が聞こえた気がした。
「こらこら、そこは美しいお姉さんに質問するとこだゾ~」
こっちがピクリとも動かず、いや動けずにいるというのになんという言葉の嵐。
金髪のお姉さんは口を止めることなく、続ける。
「いやね、もう世界の人口最近増えすぎてるんで、死んじゃった人別の世界に行ってもらってるんですよね〜」
「え、えーと、俺って死んだんですか?」
「はい、もうなんか色々あった後にきゅっ!ってなって死にました!」
「人の死をすんごく嬉しそうに言うのやめてくれません?
その色々あった所も気になるし、他の世界に行ってもらってるって?」
「有り体に言って、転生ってやつですね」
あぁ、最近異世界転移モノが流行りすぎて俺の脳内を侵食し始めたか。こんな夢を見るとは脳みそが壊死し始めてるなこれ。
「あ、夢じゃないですよ〜?」
「な、なんで分かったんですが……」
こっちはほんの少し表情を変えただけと言うのに、何故考えていることが分かったのだろうか。
あ、夢だから何でもありか。
「夢ではありません。ちなみに、貴方の考えていることが分かるのか私が全知全能の女神様だからですよ。えっへん!」
ずん、と胸を張る女神様。
本当にどうしちゃったんだ、この夢。
「まぁ、細かい説明は置いといてですね。今地球は人口がとんでもなく増えてるじゃないですか?あれはですね、生まれ変わる人が多すぎて人口が飽和状態になりかけてるんですよ」
「え?医学の発達とかじゃ……?」
「それもあるんですが生まれてくる人、正確には生まれ変わる予定の人が大量に待機してる状態でして、それももう数が満員になりつつあるんですよねー。なので、これからは別の世界へお引越ししてもらおうってことになってるんですよ。あ、もちろんそれなりに優遇させてもらいますよ?」
「は、はぁ……」
これが夢じゃないとしたら、とんでもなくぶっ飛んだ話だし、夢でないのであれば一刻も早く目を覚ましたい。
試しに右の頬を抓ってみると、かなり痛い。
何ともベタな方法であるが、確かめるには痛みだと思い抓ってみたが、痛い。
「なので、貴方には転生してもらいたいんですよ~」
「い、いや〜突然そんな事言われても」
「えー、ダメですか?」
「いや、転生とか生まれ変わるとか以前に死んだなら天国で楽して暮らしたいって言うか……」
「どうしてもダメですか?」
「ダメです」
どうせ俺には死んでも悲しんでくれる人はいない。
だったら、死んだあとぐらい楽しく暮らしたい。
別にこれと言っていい事した訳でもないが、別段悪いことした訳では無いからそれぐらい許されるだろう。
「あ、ちなみに断ると地獄行きなんですけどどうしますか?」
「転生させて下さいお願いします」
半ば脅しの交渉に首を縦に振るしか方法がないと思い、即OKした。さもなくば、命の危険すら感じたし。
「はい、ありがとうございます~」
「いえいえ、どういたしましてー」
「えーとお名前は、村田皐月さんですね。
あらやだ、男の子なのに女の子みたいな名前ですね~」
あからさまに棒読みしたが、アッサリとスルーされた。
「人が皐月って名前女の子っぽいって気にしてるんだなら傷ほじくらないで下さい」
「あ、失礼しました。それではそろそろ転生の支度をしてもらえますか?」
「準備って何かあるんですか?」
「特に無いですけど心の準備とか。あと、折角なんで転生特典ってやつを選べるんですよ」
「転生、特典」
これはあれだ。何か知らんけど何でも斬っちゃう剣とか、かめはめ○みたいなの撃てるようになったりするあれだ。
どうせなら選ばせていただきますよえぇ。
「あ、すみません。今品切れでして……」
「品切れ!?あれって品切れとかあるの!?」
初めは何だか余裕あるお姉さんという感じだったが、素が出てきたのか段々と尻すぼみになり、自信も無くなってきたように見える。
「え、えぇ、一応神造物なので神の職人達が作るんです。
ココ最近転生される方が多くて、ちょうど無くなってしまいまして……」
「んじゃ、作ってもらってくださいよ」
「そうしたいのは山々何ですが職人達も現在過酷な労働環境で、皆様大変疲れておりまして……。どうしてもと言うのなら申し出はしてみますが……」
「い、いいですいいです!結構ですから贅沢言ってごめんなさい!」
なんかもう日本のブラック企業の話を聞く度に心を痛めていた身として、やれよと言えない。
「じゃあ、なんか他のお願い……出来ますか?」
「はい、喜んで!では、勇者としての資格を与えすね!」
「ありがとうございます……」
いや、普通にいいんじゃないだろうか。
無敵の剣とか、そんなモノが無くてもやっていけそうな感じのやつじゃないか。
「それでは、準備はいいですか?」
「いつでも大丈夫です」
「では、行ってらっしゃいませ!」
その言葉を皮切りに、目の前が真っ白となり、意識も次第に薄れていった。すごく、すごく不思議な感覚で……。
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「あぁっ!勇者の資格もこの前の方に差し上げてしまったの忘れていました!あぁ、あの方何も特典を持たずに行かせてしまいました……!」