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国王を爆破して勇者をクビになったけど暗殺者ライフを満喫する  作者: 結城 からく


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第43話 激突

 黒い靄から人影が現れた。

 音もなく地面に着地したのは、漆黒の全身鎧。

 揺れる蒼い長髪。

 細身の長身で、顔は髑髏の仮面で覆われている。

 仮面の奥に見えるのは、荒涼とした輝きを宿す双眸。


 肌がピリピリと微かな痛みを訴える。

 対峙するだけで凄まじい威圧感を覚えた。

 心臓を掴まれたような錯覚に陥る。


 目の前の存在が、人外であることを本能的に悟った。

 それも魔族などとは比較にもならない。

 正真正銘、人間を凌駕する怪物である。


 俺は知らず知らずのうちに震えていた。

 ただし、恐怖が由来ではない。

 極上の獲物に出会えたことに対する歓喜だ。


 ともすれば走りだしそうになるのを耐える。

 急速に張り詰める衝動。

 口端が自然と吊り上がっていくのを感じた。


(最高じゃないか……素晴らしい)


 前方に立つ髑髏面を殺したくて堪らなかった。

 原型が無くなるまで血みどろに引き裂いてやったら、どれだけ楽しいことか。

 想像するだけで気分が上がってくる。


 一方、髑髏面は周りを見回していた。

 やがてその顔がこちらを向く。

 髑髏面は少し離れた位置から問いかけてくる。


「我を呼び出したのは、そなたか」


 男女が同時に喋っているかのように、声が重なって聞こえる。

 平坦な声音に感情は窺えないも、独特の覇気のようなものがあった。

 カリスマ性というやつだろうか。

 俺とは無縁のものである。


「いや、違うよ。そこらへんに転がる肉片たちが呼び出した。あんたが魔王かい?」


 俺の問いに髑髏面は頷く。


「望まぬ形での現界となったがな。蘇生のために封印した魂の一部が、あろうことか人間の儀式魔術に用いられるとは。しかも魔術が中途半端で、我の力が大きく削がれている。未熟な魔術師しかいなかったのか……」


 魔王は静かに嘆く。


 魔術が中途半端なのは、たぶん俺のせいだろう。

 結晶を撃ってしまったからね。

 あれが儀式に何らかの悪影響を及ぼしたのだと思う。


 正直、ちゃんと魔王が現れたことに驚いていた。

 魔術はもっと繊細なものというイメージがあったのだが、意外とトラブルが起きても発動するものなんだね。

 それとも今回は、様々な要因と偶然が重なった結果なのか。

 真相を訊こうにも、術を行使した黒ローブたちは死んでいる。


 まあ、この辺りをあえて説明することもあるまい。

 これからの展開には必要のない話だ。

 俺も大して興味が無かった。


 今度は魔王が問いかけてくる。


「そなたは勇者か」


「いや、違うよ」


 俺が首を横に振ると、魔王は少し語気を強めて反論する。


「……つまらぬ嘘をつくな。我を騙せると思うか。その黒髪。人間にしては多大な魔力量。尋常ならざる殺気。そして、我を倒さんとする強い意志。どれも異界の勇者に相応しいものだ。勇者でなければ、こうしてたった一人で我と対峙するはずもない」


「え?」


 魔王の言葉を聞いた俺は後ろを見る。


 いつの間にか、ニナとマリィがいなくなっていた。

 上の階に退避したのか。

 護衛に専念すると言っていたもんな。

 この場に留まるのは危険すぎると判断したらしい。


 それにしても、また勇者と断定されてしまった。

 なぜこうも勘違いされるのか。

 かつてニナには散々確認されたし、魔族討伐によって街の人々も俺を勇者と呼ぶ。


 自分で言うのもなんだが、勇者っぽさは無いと思うんだけどね。

 こんな勇者がいたら大問題だろう。

 聖剣だって持っていないし。


 もっとも、向こうからどう思われようが、俺のやることは変わらない。

 ただ全力で殺すのみだ。

 シンプルで分かりやすいね。


 俺は指をずらして鉈を掴み直す。

 高鳴る鼓動。

 殺人衝動の疼きが止められなくなってきた。

 理性という枷が外れかかっている。

 いいさ、思う存分やってやろう。


 魔王が人型でよかった。

 それでこそ殺し甲斐がある。

 異形でも構わないが、やはり人型の方がいい。


「ほう。凄まじい鬼気だ。それでこそ勇者。魔王の最たる宿敵よ」


 感心する魔王が手を伸ばした。

 何かを掴む動作を取る。

 その手には柄が握られていた。

 魔王が腕を動かすと、それに従って刀身が現れる。


 虚空より抜き放たれたのは、艶のない漆黒の剣であった。

 刃渡りは一メートル半といったところか。

 両刃のロングソードだ。

 魔王はそれを斜めに下ろして構える。


 慣れた佇まい。

 その姿だけで相当な達人だと分かる。

 技巧を凝らすタイプだ。

 一筋縄ではいかないと感じさせるに足る姿である。


 魔王は落ち着き払った様子で言う。


「――勇者よ。来るがいい。この魔王が直々に相手をしよう」


「勇者じゃないけど、遠慮なく行かせてもらうよ」


 細かい事情など、もはや些事に過ぎない。

 互いに殺したがっている。

 それだけで戦う理由など十分だろう。


(素晴らしい、両想いじゃないか)


 湧き上がる殺意に任せて、俺は魔王に襲いかかった。

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