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国王を爆破して勇者をクビになったけど暗殺者ライフを満喫する  作者: 結城 からく


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第39話 本題へ

「魔力? 俺から感じるのかい?」


「はい……しかも、魔族に酷似した性質です。とても人間の魔力とは思えません。魔力量も一般的な魔術師の四倍程度でしょうか。とにかく、通常はありえないことです」


 ニナの追加情報を信じるならば、何かとんでもないことが俺の体内で起きているらしい。

 心当たりと言えば、あの蛇を食ったことくらいしかない。

 妙に深い眠りだと思ったが、身体が変異していたのだろうか。

 魔族の肉で魔力を得られるというのは、迷信ではなかったようだ。


「おそらくは魔族の毒に打ち勝って、その特性を獲得したのでしょう。本当に信じられないことですが……」


 ニナは慎重に言葉を選びながら推察する。

 彼女自身、信じ切れていない節がある口調だった。


 俺は意識を集中させる。

 なんとなく体内に異物感を覚えた。

 心臓の付近が仄かに熱を帯びている感じがする。


 未知のエネルギーだ。

 これが魔力なのか。

 悪いものでないのは分かった。

 具体的にどんなものかと訊かれると……よく分からないな。

 これを使うことで魔術を扱えるようになるのだろうか。

 多少の努力で使いこなせるとは思えない。


 そうして魔力を探っているうちに、俺は新たな発見をした。


(怪我が、治っている……?)


 折れた骨や千切れた筋肉が繋がっている感覚があった。

 魔法薬が効いているにしても、異様な回復速度だ。


 手足を回す俺を見て、ニナが説明をしてくれる。


「体内の魔力が身体の治癒力に作用しているのでしょう。その感じですと、身体能力も向上しているかもしれません」


「そんな効果もあるんだ。便利だね」


「ただし、魔力の性質からして精密操作が不可能に近いかと思います。今まで魔力を持たなかったササヌエさんからすれば尚更に困難ですし、通常の魔術行使は諦めた方がよさそうです……」


 ニナは申し訳なさそうに言うが、俺は特に気にならなかった。


 魔術なんて元から使えなかった技能だ。

 それが使用不能と言われても何ら不便は感じない。

 むしろ治癒力と身体能力が上がるだけでも大きな収穫だった。


(やはりファンタジーの力は侮れないな)


 既に身体が治りかけているのは僥倖だ。

 じっと安静にするのは性に合わないからね。

 退屈すぎて暴れてしまうかもしれない。


 俺はベッドから立ち上がった。

 もう傾いたりはしない。

 自力で歩ける。


 椅子にかけてあった新品の衣服を着込む。

 身体が微妙に痛むも、十分に許容範囲だった。

 明日には包帯も取れるのではないだろうか。

 これなら存分に動ける。


 机に並べられた武器も順に装備していく。

 鉈と斧もあった。

 魔族を殺した魔術武器。

 これも持っていかなくては。


 基本的には銃火器さえあれば事足りるし、近接武器が欲しい時も適当に拝借すれば解決するが、魔族クラスの怪物と遭遇するとそうもいかない。

 特殊効果を付与された上質な武器があると役に立つ。

 魔族の殺害は工作員の管轄外な気もするが、突発的に出会うこともあるからね。

 備えはあるべきだろう。

 どちらも腰の左右に括りつけておく。


 俺が武装を整えていると、ニナが躊躇いがちに尋ねてきた。


「あの、どこへ行くのですか?」


「教団のアジトさ。今から潰しに行くんだよ」




 ◆




 準備を整えた俺たちは宿屋を出た。

 奴隷商の館で入手した資料のおかげで、教団のアジトは詳細な場所まで判明している。

 あの騒動の中でも、ニナがしっかりと回収してくれたらしい。

 地味に優秀だよね。

 おまけに追加の銃火器と弾丸もしっかりと召喚して補充を済ませていた。

 サポート係にも慣れてきたようだ。


 マリィは数歩後ろを静かについてくる。

 気配が希薄で、意識的に隠密状態になっているようだ。

 暗殺者としての癖だろうか。


 彼女に背中を晒すのは不用心に思えるが、互いに仕事に注力する性質だ。

 少なくとも教団を潰すまでは攻撃してこないと思われる。

 万が一、いきなり攻撃されたところで対処するだけの自信もあった。

 その時は遠慮なく嬲り殺しにしてやろう。


 街の通りは復興作業の最中だった。

 どれも魔族の爪痕である。

 戦闘のそれなりの数の建物が破損もしくは崩壊していたからね。

 こういった光景にも納得がいく。


 そんな中を闊歩していると、人々が様々な感情を抱いて俺を見てきた。

 俺を勇者と称える声もあれば、人間に擬態した魔族だという囁きもある。

 生憎とどちらも間違っているわけだが、誰が魔族を仕留めたかは周知されているようだ。


 俺は素知らぬふりをして進む。

 片っ端から殺してやってもいいが、まだ我慢だ。

 仕事が優先だからね。


 しかし、あまりに耳障りだと集中力を欠いてしまう。

 集中力を欠くと、仕事でミスが出てしまうかもしれない。

 それは良くないな、うん。


(うーん、一人、いや二人くらいなら別に殺しても……)


 迷っているうちに、見覚えのある店舗の前を通りかかる。


 そこは一軒の武器屋であった。

 鉈と斧を貰った店だ。

 ここの店主は恩人のようなものだし、礼の一つくらいは言っておこうかな。


 そう思って近づくと、店内には異様な密度の客がいた。

 壁に穴が開いて修繕が必要な状態だというのに大繁盛である。


 奥に控える店主の大男は、通りにも聞こえるような大音量で声を発している。

 その大袈裟なアピールを要約すると"魔族殺しの武器をお得な値段で取り揃えている"といった内容だ。


 ハッとした表情になったニナが武器屋を見つめる。


「もしかして、あれは……」


「うん。あそこで武器を貰ったからね。俺の実績を利用しているようだね。さすが商売人だよ」


 俺は鉈と斧をコツコツと叩いて苦笑した。


 実害があるわけでもないし、放っておこうと思う。

 魔族殺しの武器というのも嘘ではない。

 店主の貢献と善意を考えれば、これくらいは黙認すべきだろう。


 ただ、あの中に飛び込んで礼を言うのも面倒だ。

 声をかけるのは、また機会が巡った時でいい。


 武器屋を素通りした俺たちは、教団のアジトへの道を急いだ。

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