表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国王を爆破して勇者をクビになったけど暗殺者ライフを満喫する  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/50

第38話 奇妙な訪問者

 目覚めると俺は宿屋のベッドの上にいた。

 頭を働かせて記憶を遡る。


 宿屋に到着して横たわったところまでは覚えていた。

 そのまま意識を失ってしまったらしい。

 俺にしては珍しい。

 よほど疲れていたのか。


 窓の外は暗い。

 一体、どれだけの時間が経過しているのやら。


 俺はゆっくりと上体を起こした。

 微かな痛みが走る。

 上半身は裸で、下はズボンを穿いているが、スニーカーは脱がされて裸足だった。


 そして肌は包帯で覆い尽くされている。

 かなり念入りで圧迫感が強い。

 まるでミイラ男である。


 包帯を嗅ぐと魔法薬の香りがした。

 回復力を上げるため、丹念に塗り込まれているようだ。

 口の中にも独特の苦みが残っている。

 馬車に保管する分を使って、ニナが処置をしてくれたらしい。


「あ、気が付きましたか! 丸一日ほど眠られていたのですよ」


 駆け寄ってきたニナの言葉に少し驚く。


 そんなに意識を失っていたのか。

 滅多にないことだ。

 重傷には違いないが、これより酷い傷だって何度も負ってきた。

 三時間も寝れば、体力的には問題ないはずなのだが……。


(もしかして、蛇を食ったからか?)


 心当たりと言えば、それくらいしかない。

 死なない確信はあったものの、あれはこの世界の異形なのだ。

 肉体に何らかの影響を及ぼしたのかもしれない。


 ただ、今のところはそういった兆候はない……と思う。

 全身の怪我を除けば、健康そのものであった。

 妙な症状で死にそうな気配もない。


 そこまで確認したところで、俺は部屋のすみに佇む人影に気付く。


 ひっそりと立つのは、黒ずくめの衣服にを包んだ若い女だ。

 藍色の頭髪に赤い瞳。

 人形を彷彿とさせる端正な顔立ちと無表情。

 以前はメイド服を着ていたが、その容姿を見間違えるはずもない。

 女は暗殺者マリィだった。


 マリィは無言で俺を眺めている。

 感情は窺えない。

 ただ、彼女がその気になれば、一瞬で移動して間合いを詰めることができる。


 俺はさりげなく手を動かして武器の有無を確かめた。

 忍ばせたはずの武器が無い。

 看病の間にニナが外したのか。

 ベッドの近くにも置いていない。


(無手で殺せる相手か?)


 俺は思考を巡らせる。

 この身体では少々厳しいかもしれない。

 再びリミッターを外せばどうにかなるだろうが、肉体負荷が無視できないレベルになる。

 完治不能なダメージが残るかもしれない。

 とは言え、殺されるつもりだってなかった。


 内なる殺気を全身に伝播しつつ、俺はマリィに声をかける。


「随分と元気そうじゃないか。怪我はもう大丈夫なのかい?」


「…………」


 軽口に返答はなかった。

 俺とマリィは無言で見つめ合う。


 それに気付いたニナが、慌てて間に立ちはだかってきた。


「あの、違うんです! マリィさんは敵ではありません!」


 ニナの言葉に首を傾げる。

 一体どういうことなのだろう。


 俺が視線で続きを促すと、彼女は早口で事情を話し始めた。


「少し前にマリィさんがササヌエさんを暗殺しに来たのですが、寸前で私が護衛として雇わせてもらいました。教団を壊滅させるまでの契約で、彼女の力はきっと役立つと考えた上での判断です」


 なるほど、眠っている間にそんなことになっていたのか。

 地味にピンチだったようだ。


 ニナの度胸にも感心させられる。

 どういったアプローチだったのかは知らないが、暗殺に来た相手を雇うなんて簡単には思い付かない。

 それを実行して成功させた手腕に関しては評価に値する。


 俺は物置のように動かないマリィに問いを投げた。


「そちらはいいのかな? 報復に来たのに仲間になるなんて、納得できないんじゃないか?」


「…………仕事なら仕方ない。そこの召喚術師とは既に契約を交わした。契約は私情より重い。故に協力する」


 淡々とした口調でマリィは答えた。

 そして彼女は再び動かなくなる。

 必要以上のアクションはしないということだろう。


(確かに仕事は大事だもんなぁ……)


 マリィの言い分を聞いた俺は納得する。


 細かな違いはあるだろうが、基本的には俺も同様のスタンスだからだ。

 そうでなければ、工作員の仕事をこなそうとはしない。

 依頼主は俺を拉致した国の王で、既にこの手で殺しているのだから。

 律儀に仕事に励む必要は皆無である。


 それにも関わらず俺が工作員となったのは、そういう性質だからという他にない。

 マリィも似たようなものだろう。


「ところで、ササヌエさんはそれで問題ないですか? これからマリィさんが同行することになりますが……」


「ああ、もちろんさ。大丈夫だよ」


 ニナの確認に笑顔で頷く。


 本音を言えば、俺だってマリィを殺したくて堪らない。

 しかし、仕事のために我慢することくらいはできる。


 どうせ教団を壊滅させるまでの契約だ。

 協力関係が切れた瞬間に襲いかかればいい。


「短い間だけど、よろしく頼むよ」


「…………こちらこそ」


 マリィに手を振ってみると、彼女はぽつりと言葉を返してきた。

 寡黙気味だが、意思疎通が難しいほどではない。

 戦闘能力の高さも既によく知っているし、存分に役立ってくれそうだ。


 新たな同行者に満足していると、ニナが何とも言えない表情で尋ねてきた。


「ところで、ササヌエさんから魔力を感じるのですが……何か身体の異常はありませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ