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国王を爆破して勇者をクビになったけど暗殺者ライフを満喫する  作者: 結城 からく


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第18話 乱入者

「やぁ、よく来てくれました。待っていましたよ。どうぞ、遠慮せずにお入りください」


 侵入と同時に歓迎の声が投げかけられる。


 扉の先に待っていたのは、恰幅のいい金髪オールバックの男だ。

 自信に満ちた笑みに穏やかな雰囲気。

 値の張りそうな衣服を着こなしている。


 広いエントランスには、彼の他にメイド服を着た使用人が一人いるのみだった。

 兵士はいない。

 死角に暗殺者が潜んでいるということもなかった。


(不用心だな。外の騒ぎに気付いていないのか?)


 領主なのだから、先んじて報せくらいは届いていそうなものだが。

 外に警備の人間もいなかったし、ちょっと不自然すぎる。


 俺が色々と怪しんでいると、背後に立つニナがそっと囁いてきた。


「この方が件の領主です……」


 確かに工作員のリストに載っていた特徴とも合致する。

 影武者の可能性もあるが、直感がそれを否定した。

 俺の標的で間違いないようだ。


「いやはや、王都の工作員殿が私の館を訪問してくださるなど、光栄の極みでございます。しかも、貴方様は異界より召喚されたのだとか……」


 領主は慇懃な口調でさらりと述べる。


 俺は表情には出さずに感心した。

 向こうはこちらの事情を把握しているらしい。

 どうやって調べたのだろうか。

 アポなしの訪問なのに待ち構えているのも納得だ。


(いや、それなら尚更ここにいることが謎か……)


 護衛も付けずに俺の前に現れるとはいい度胸をしている。

 殺されるとは思わなかったのか。

 俺の素性を調べ上げているのなら、王都で何が起こったかも理解しているはずだ。


 領主の様子を見るに、恐怖を押し殺している感じでもない。

 何か秘策でもあるのだろうか。

 面白い、乗ってやろう。

 その上で叩き潰す。


 胸中の疼きを抑えつつ、俺は領主に用件を告げた。


「あんたに魔族との癒着の疑いがかかっている。悪いけど、館内を調べさせてもらってもいいかな? 場合によっては処罰する」


「ええ、もちろんですとも。いくらでも調べていただいて結構です。身の潔白を証明できるのなら、喜んで協力致しますとも。私、魔族との癒着など一切覚えがありませんので。私は王国に忠誠を誓っております。きっと私を嫌う者が流した虚言でしょう。ささ、こちらへどうぞ」


 にこやかに応答した領主は、俺たちを室内へと招く。

 なかなか肝が据わっている。

 演技ではない。

 よほど自信があるらしい。


(いいだろう。その化けの皮を引き剥がして捻り殺すのが楽しみだ……)


 仕事への熱意を滾らせながら、俺は領主の後に続く。


 その後、館内の部屋を順に捜索するも、魔族との癒着を示唆する証拠は一向に見つからなかった。

 字の読めない俺の代わりにニナが調べているが、彼女が誤魔化している様子もない。

 出てくるのは無関係な資料ばかりだ。


 領主はどこか勝ち誇った様子で語る。


「お疲れでしょう。少し手を休めて食事などは如何でしょうか。その後にでもまた探していただけたらと思います」


「ササヌエさん、どうしますか?」


 難しい顔をするニナが尋ねてくる。


 確かに少し腹が減っている。

 難航する捜索に思うところはあるけど、成果がないのは仕方ない。

 休憩がてら食事を済ませるか。

 気持ちを切り替えた俺は、領主に返答をする。


「ああ、頼むよ」


「承知いたしました。では、食堂までご案内させていただきます」


 領主に連れられて向かった先は、洒落た食堂の一室だった。

 テーブルには既に豪華な食事が並べられている。

 領主の分に加えて、きっちり俺とニナの食事まで用意されていた。


(やけに準備がいいな。こうなることも予想していたということか)


 出来立ての食事を前に、俺は小さくため息を吐く。


 それから間もなく食事は始まった。

 料理はどれも絶品だった。

 毒も仕込まれていない。


 この間も俺たち以外には一人の使用人しか室内にいなかった。

 先ほど厨房らしきエリアに料理人が見えたので全く誰もいないわけではないようだ。

 俺の手で無闇に殺されないようにしているのかもしれない。


(それにしても、こいつは何を企んでいるんだ?)


 領主の雑談に適当な相槌を打ちつつ、俺は思考に耽る。


 未だに領主の思惑が分からなかった。

 俺たちを害するつもりはないのか。

 彼は入念に情報を集めた上で、逃げたり敵対するどころか歓迎の態度を見せてきた。


 そもそも、なぜ魔族関連の証拠が出てこないのか。

 実は濡れ衣で清廉潔白ということはないと思う。


 俺の来訪を察知していたくらいだ。

 証拠隠滅くらいはしていてもおかしくないな。

 考えてみれば当然のことだ。

 自分の不利な物証は消しておくに決まっている。


 まったく、面倒極まりない。

 掌で踊らされている感覚だった。

 律儀に捜索を試みた俺が馬鹿だったよ。


 こんな無駄なやり取りをするために、ここまで足を運んだわけではないのだ。

 向こうが小癪な真似をするならば、俺は俺のやり方で仕事をこなす。


 相手の事情など知ったことか。

 俺には無茶を通せるだけの暴力があった。


 実に単純明快だろう。

 我ながら素晴らしい理論である。


 ナイフとフォークを置いた俺は椅子から立ち上がった。

 そして晴れやかな気分で拳銃を領主に向ける。


「悪いね。悠長にやってる暇はないんだ。手っ取り早くやらせてもらうよ」


「マリィ!」


 俺の言葉には答えず、領主は誰かの名前を呼んだ。


 気にせず俺は引き金を引こうとする。

 その瞬間、銃身に何か硬いものがぶつかった。


 金属音を鳴らして回転するそれは、食事用の銀のナイフだ。

 何者かが投擲したらしい。

 狙いのずれた銃弾がテーブルに穴を開ける。


(誰だ?)


 正面の領主ではない。

 彼は立ち上がってこそいるものの、それ以上は何もしていなかった。


 俺は視線を横にずらす。

 そこには幾本ものナイフを指に挟み、豪快にテーブルを乗り越えてくる使用人の姿があった。

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