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第17話 魔剣作り

声の方へ振り返ると、そこには大きめのポンチョを羽織った黒に近い青色の髪をした青年が立っていた。


眼は細く人は良さそうだが、いくつもの修羅場をくぐり抜けた者が持つ、どこか計り知れない独特の雰囲気。


馬車に同乗していた旅人の一人である。


俺達の不審そうな視線に気づき、青年は慌てて自己紹介を始めた。


「あ、おっと、これは失礼。先ほど馬車の中で会話を聞かせてもらったもので。僕は冒険者がてら旅をしているケルノって言います。僕達はその月夜の街道に出るっていう魔物の討伐隊に参加しようと思って来たんですよ。さっきは加勢しようかと思ったけど全く必要なかったですね。」


青年はにこりと笑ってみせる。


「俺はアルベル、こっちがルークスにユーズネルだ。よろしく。さっき言ってた月夜の街道を行く定期馬車が、運休しているって話はやっぱり本当なのか?」


「はい。なんでも砂漠地帯のど真ん中に巨大なサンドワーム種が出現したとか。あなた方も道をお急ぎの様子だから、討伐隊に参加してみてはいかがですか?今の戦闘を拝見させてもらった限りでは、実力的には十分だと思いますし。それに魔物を倒した後もなんだかんだ調査とかで、しばらくは道が閉鎖されちゃうんじゃないですかね。討伐したら閉鎖される前に、そのまま次の街まで進んじゃえばいいんですよ。」


俺達は顔を見合わせた。


「んー。なるべく危険は冒したくないんだがな…。まあ、行けるところまで行ってみて、そこで考えるよ。」


そう言って、ジャイアントグリーンシックルの両腕の大鎌を回収して馬車へと戻る。


すると、先程の戦いの様子を伺っていた御者が戻った俺達に声を掛けてきた。


「ありがとうございました。みなさんのおかげで助かりました。」


「いや、全員無事でよかったよ。それにしても、この辺りって俺の記憶だと魔物は生息していないはずなんだが…。」


「かれこれこのルートの御者を10数年してますが、私もここで魔物に遭遇するなんて初めての経験ですよ。魔物の分布も徐々に変わり始めてるってことなんですかね。」


頭を捻りつつ席へ戻り、ダウンしているテルファの様子を伺う。


「うー、なんで魔物まで緑色なんですか…?」


やはりテルファはダメなようである。


その後は魔物に遭遇することもなく、陽が傾き始める前にファーディエールへ(ただ一人を除いて)無事に到着することが出来た。



ファーディエールは東西と南北を走る街道の合流地点を切り開いて作られた街で、各地からの物産が集まることで知られている。


そのため旅人だけでなく商人も多く訪れ、日々様々な商談が行われているようである。


そしてファーディエールで最も特徴的なのが、街全体が色で溢れていることだ。


外の青と緑に対抗してか、建物の壁は家ごとに好き勝手な色で塗られ、全く統一感というものがない。


それでも妙な調和のようなものを感じる辺りは不思議である。


「では、僕らはこれで。ガーネラの街でお会いしましょう。共闘出来ることを楽しみにしてますよ。」


そう言って、ケルノ達3人が馬車から降り街の中へと消えていった。


ケルノは槍を、その他の2人はダガー使いと魔導師であろう。


そんな3人の後ろ姿を見送り俺達も馬車を後にする。


「わぁー、やっと青と緑以外の景色が見られました!」


ようやく様々な色が見られて、酔いから解放されたテルファが大きく伸びをしている。


ククルも俺の肩からひょっこり顔を出して、キョロキョロと周りを伺っていた。


「それにしても見た目といい、匂いといい、雑多な街ですねー。」


ユーズネルが周囲を見回して物珍しそうに呟く。


辺りには地方から集まった名前も知らない食べ物の屋台が立ち並び、食欲をそそる様々な匂いが入り混じり漂っている。


「この街は東西南北の文化が一堂に集まるからな。まずは宿を見つけてから、明日の馬車の手配をして、さっき素材を売りに行こう。観光と食べ歩きはその後だ。」



俺達は中通り沿いにある外壁一面が黄色で彩られた宿を取り、街へと繰り出した。


外へ出ると様々な色で溢れていたはずの街中は、すでに西日が差し込み真っ赤に染まりつつある。


月夜の街道というだけあり、これからの時間帯が書き入れどきなのだろう。


道端で各地の土産物を広げる行商達は、この時間になり店を畳むどころかさらに声を張り上げ、売り込みにも熱が入り始めていた。


定期馬車のターミナルでもこれから出発する旅人達で辺りはごった返し、時折道行く人々の怒号が飛び交っている。


そんな中、人ごみを掻き分け切符を販売する小屋までたどり着き、受付の中年女性へと声を掛けた。


「すみませーん。グランネラまでの行きたいんですが。」


「あっ、はいはい。えっと、いつの便で何人?」


「明日で4人と1匹で。」


「あらあら、可愛い旅人さんも一緒なのね。」


受付の女性はククルの頭を軽く撫でてから帳簿をめくる。


「あー、明日は夕方の便は満席だねぇ。ちょっと割高だけど、深夜の特急便なら乗れるわよ。」


「だってさ、大臣。どうする?」


俺はわざとらしくテルファの顔を伺う。


「大臣て何ですか!?私だって外交に遅れてまでお金を節約しようとは思ってませんよ!…ん、もう!」


薄っすら顔を赤らめたテルファがぷくーっと頬を膨らませていた。


「はは、じゃあ大臣の許しも得たってことで4人と1匹分の席を頼む。あっ、もちろん領収書も。」


「あいよー。」


そうして料金を払い、5席分の切符と領収書を受け取る。



「さて、じゃあ冒険者ギルドに魔物の素材を売りに行こう。」


俺が冒険者ギルドの方へ歩き出そうとすると、すぐにルークスから声が掛かった。


「あっ、ちょっといいか?」


「ん、どうした?ルークス。」


「いやな、どうせ明日の深夜便で行くなら、せっかくだから素材は売らずに短剣でも仕立ててもらわないか?もしかするとガーネラで例の魔物と戦うことになるかも知れないし、いざという時に持ってて悪いことはないと思うんだよ。」


「私も賛成です。ジャイアントグリーンシックルの鎌って軽くて頑丈で、加工も簡単なのに切れ味もかなり良いものになるって、魔物学の本に書いてありました。」


「確かに自分で手に入れた素材でオーダーメイドの武器を作る機会なんてないもんな。ちょっと奮発して魔石でも埋め込んで魔剣にでもしちゃうか!」


「あっ、魔剣、良いですね!自分達で狩った魔物を武器にするなんて冒険者みたいじゃないですか!」


ユーズネルが目を輝かせ、珍しく身を乗り出して話す。


その後も魔剣作製について大いに盛り上がり、そのままの勢いで外壁が真っ赤に塗られた、加工も請け負う武器屋へと駆け込んだ。


「こ、これはなかなかお目にかかれない希少素材じゃないですか!!」


「ああ、そうだろ。これで短剣を2本仕立ててもらいたいんだが、明日の夜までには可能か?無理なら1本だけでも、途中出来るところまででも構わないんだが。」


「明日ですか…。正直厳しいですが、刃こぼれしてないし長さも厚さも充分。ここまでの素材を見せられちゃ断れませんね。職人のプライドにかけても、明日の夜までに最高のものを作りましょう!」


そうして短剣の性能やデザインなどの詳細、価格等を簡単に打ち合わせると、武器屋の店主は早々に看板を下ろし始めた。


貴重な素材を目にして職人魂をくすぐられたようである。


俺達が中にいるにも関わらず、待ちきれないといった様子で作業場にこもってしまった店主に苦笑いしながら、俺達は武器屋を出た。


「んーで、俺は短剣は扱えないけど、ルークスは使えるのか?」


「………いや。」


「お前ら2人は?」


「「…。」」


((((話に盛り上がりすぎて誰が使うかなんて全く考えて無かった…。))))


「ま、まあ剣が扱えられれば、少しは短剣も使えるんじゃないですか…ねぇ?アルベルさん。」


冷え切った空気をユーズネルがなんとか戻そうと話を取り繕う。


「…そ、そうだな。」


「わ、私もほら、魔法科の研修で、いっ、一応短剣の扱いは習いましたし…ねぇ。ルークス先輩。…はは。」


「お、おう。」


「くるるーぅ」


ククルまでこの空気に耐えきれなくなって気を使っている…のだろうか?


俺達の周りをぐるりと飛んで「早く行こう!」と俺の袖を引っ張る。


できるドラゴンである。


「ま、まあ。それじゃあ、せっかく魔剣をオーダーしたんだから、ユーズネルとテルファが持っていてくれるか?」


「「…は、はい。分かりました。」」


久々に声がハモり、バツが悪そうになんとも言えない表情で2人は顔を見合わせた。

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