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第3話 戦管と魔管

翌日、春らしい青空が広がる絶好の訓練日和の中、俺は1人薄暗い執務室にこもっていた。


虹色草の群生地までの行程と調査隊の人選に頭を悩ませているのだ。


今回の調査行程であるが、ルール海岸まで最短コースで行くのであれば“コンドイの森”を抜ける必要がある。


この森に生息する魔物は大したレベルではないのだが、道が悪くもちろん馬車などは使えない。


さらに、地元の人々からは迷いの森と呼ばれており、現地のガイドなしでは無事に抜けることさえ難しい。


ならば、現地ガイドを雇えばいいじゃないかと思うかもしれないが、王国直轄調査隊といえど一国のお姫様を抱えての調査隊である。


現地ガイドなどという素性の知れないものが、姫様に近づくなどといったリスクはなるべく避けたい。


仮に現地ガイドが 暗殺者だったとしても、普通にやり合えばまず100%負けることはないだろう。


しかし、迷いの森などと呼ばれる地で戦闘にでもなったら、どこにどんな落とし穴があるかわかったものではない。


その辺を考慮すれば、少し遠回りをしてでも“コンドイの森”を迂回した方が得策であろう。


その場合は、“イレメーヌ川”に架けられた橋を上流と下流で二回横断することとなる。


上流側の橋は最近架け替えられたばかりであり、崩落の危険は少ないものと思われるが、下流側については古いため老朽化している恐れがある。


また、橋自体の安全性とは別にトラップが仕掛けられたり、敵に挟み撃ちにされるなどといった危険があるため、やはり対策が必要となるであろう。


諜報部隊からトラップ対策としても戦力としても頼りになる腕利きを1人。


最近、遠征から戻ってきて恐らく暇であろう奴に心当たりがある。


挟み撃ちに関しては…後方は俺が見張っていれば問題ないとして、できれば前方に物理戦力が2人。


その他にも魔法師が1人くらいは欲しい。


姫様を含めて6人…ぎりぎりか。


これ以上多くても目立つし、それより少ないと何かあったときの戦力に不安を覚える。


誰かを守りながら未知の敵と相対するのは、一筋縄ではいかないものなのだ。


そして万が一、海竜に出くわしたときの対処までを考えると実戦経験があって腕の立つ人材が欲しい。


海竜といっても海や海辺に生息するドラゴンの総称であって、その種類は多岐にわたる。


“青の古竜”や“リヴァイヤサン”など伝説級の化け物もいるが、目撃情報を聞く限りではシーフライドラゴンかブルーアイズドラゴン辺りだと思われる。


シーフライドラゴンは海で見かけるドラゴンとしては一般的で危険度もさほど高くはない。


とはいえ竜種であることに変わりはないため、倒すとなればかなりの戦力が必要となる。


だが、しっかりとメンバーを整えて準備すれば、姫様を守りつつ安全に撤退することは可能であろう。


一方、ブルーアイズドラゴンはその大人しい性格と、高値で取引される青い瞳から乱獲が進み、現在では王国の許可か冒険者ギルドの正式な依頼がない限りは、討伐が禁止されている。


春の日差しに眠気を誘われながらも、様々な状況に思いを駆け巡らせつつ調査計画書の作成に取り掛かる。



――――かなり集中していたようだ。


菜の花の香りを乗せた、温かさの中にまだ冷たさの混じる風が執務室を吹き抜け、はっと我に返る。


「よし、完成だ。」


まずは、作成した調査計画書をルークスのいる国家構想計画室とその隣の危機管理室へ持って行き承認をもらうこととなる。


そのあとは、気が重いが戦力管理局と魔法管理局に行き、優秀な人材を派遣してもらう。


そして最後に諜報部からあいつを引っ張り出す。


酒の一杯でも奢ってやれば文句は言わないだろう。



国家構想計画室に入って馴染みの顔に声を掛ける。


「よう。」


「おお、アルベルか。もう調査計画書ができたのか?早いな。」


机に向かっていたルークスが手を止めて俺が作った計画書に目を通す。


「よくできているが…一部追記させてもらうよ。」


そういって、調査計画書に何やら書き込んでいる。


「よし、これでいいだろ。ここの承認印と危機管理室の方は俺が回しておくから、おまえは戦管と魔管を回って嫌味を言われて来い。」


「サンキュ。戦管、魔管か…。あー、気が重い。」



ここは城の東棟にある戦力管理局のドアの前だ。


戦力管理局とは武器の開発や物理的な攻撃技術の開発など、主に物理攻撃に関する研究機関であるとともに、物理戦力の人材派遣業務も行っている部署である。


人材派遣業務とは簡単に言えば公務を請け負う冒険者ギルドのようなもので、今回のような突発事業や兵士・騎士団等を動かせない場合など、主に人材不足の解消を目的としている。


ただ世間一般の冒険者ギルドと異なるところは、パーティ制を取っておらず個人登録制で有事の際に声がかかる、いわば非常勤の公務員のような点にある。


このため、仕事が常にあるわけではなく不定期となってしまうことから、多くの者は他の仕事や一般の冒険者ギルドと掛け持ちをしており、人材不足解消のために設立された組織なのに、なぜか万年人材不足という状態に陥ってしまっている。



戦管の会議室に副局長の声が響く。


「きみねー。この間のネルト王国とのいざこざのせいで、警備レベルが上がってるの知ってるよね。こんなときに優秀な人材を2人もよこせなんて、本気でできると思ってるの?」


――――やはりそう来たか。


ここの所、隣国のネルト王国との関係がキナ臭いのだ。


貿易が打ち切られたり国交が閉鎖されたりと緊張状態が高まっているのである。


しかも、ただでさえ人材不足なうえに、その中でも優秀な人材などは引く手あまたであり、そう簡単には派遣してもらえるはずがない。


「まあ、そう言わずにお願いしますよ、副局長殿。姫様の護衛なんていう重大な任務を含んでいるんですから。」


「だいたい、なんで調査にクラウベール姫を連れて行かなきゃならないわけ?しかも、全然関係ない君がなんでリーダーなの?」


ごもっとも。


むしろ、それを姫様に直接言ってもらいたい。


「んー。それは一番俺が知りたいところでして…。まあ、いずれにしても計画書だけでも読んでみてくださいよ。」


そういって、調査計画書の副本を副局長へ渡す。


すると、計画書を読んだ副局長の顔がみるみる赤く染まり、その場で1名の派遣証を作成し、よこしてきた。


「うちから出せるのは1人が限界だが、優秀な人材だ。これで文句はあるまい。」


「えっ、あ、ありがとうございます。」


最悪1人も派遣してもらえないかと思っていた俺は、キツネにつままれたような感覚にかられながら派遣証を受け取る。


戦力管理局のドアを閉めると中で「我々が対空戦で魔法戦力に後れを取ることはない!」などと、副局長がぶつくさ言っていたが何のことだろうか。


派遣してもらえなかった1人については後でルークスにでも相談してみよう。



続いて向かったのが西棟にある魔法管理局である。


魔法管理局は戦力管理局の魔法版といった組織であるが、魔法の開発や古代術式の解読など学術的な側面も強い。


もちろん、魔法戦力の派遣業務も行っているが、こちらは学術員との掛け持ちが多く、派遣要請があった場合には研究業務を一時的に停止させて人材を派遣する。


「来年、国際魔術会議があることを知っているよな。王国の権威を示すためにも今は研究を進めなければならない。こんな調査のた…」


魔管の副局長の話を遮るようにして俺がけしかける。


「そういえば、さっき戦管に行ったら快く派遣してくれました。」


副局長が不快そうにつぶやく。


「…あいつら。」


かかった。もうひと押しだ。


「しかもかなり優秀な人材だとか。」


副局長は少し考えるそぶりを見せながらも、苦い顔をしつつ俺の要請に応じる。


「…わかった。うちは戦管よりも優秀な人材を派遣しよう。」


作戦成功だ。


なぜか戦管と魔管は仲が悪いのである。


戦管に言わせれば「あいつらはいつでも部屋にこもってる単なる根暗」だそうで。


一方の魔管は「あいつらは何も考えない筋肉バカ」だとか…。


どちらにしても変人であることに変わりないと思うのは俺だけであろうか?


まだ昼食すら食べていないのに、なんだかどっと疲れてしまった。


次話はアルベルが諜報部の”奴”を誘い出しに行きます。

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