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第20話 事件の真相

今日は泊まっている宿の一室を借りて、朝から事情聴取に追われていた。


ジルーの幹部立ち合いの下、昨晩の一部始終についてマクイ支部が持つ情報と1つ1つ照合していく。


副支部長の身柄は明け方のうちに拘束され、現在も厳しい取り調べが行われているとのことだ。


まだ全容の解明には至っていないが、“制約の欠片”騒動から始まる一連の事件は俺達が推測した通り、春市が控えたジルーへと警備の目を向かわせ、その隙に盗賊団の幹部を脱獄させるといったものであった。


マクイの副支部長は裏で盗賊団と繋がっており、金銭を受け取った見返りとして収監所の警備団長、副支部長の補佐役2人とともに昨晩この計画を実行に移したのだった。


どうやら奴らは盗賊団幹部の男を脱獄させた後、俺達に犯行の疑いをかけて有無を言わさず処罰する計画まで立てていたようである。



一通りの事情聴取が終わったころにはすっかり昼を回っていた。


「お昼の時間を過ぎてしまったので、こんなものしかお出しできませんが、もしよろしければ。」


そう言って、宿の奥さんがトーストとスープを出してくれた。


トーストは薄く2枚に切ったパンにレタスとトマト、ベーコン、チーズを挟んでトーストにした一般的なものであったが、食べてみるとパンにはバターではなくオリーブオイルが塗られているようである。


また、胡椒がきいたベーコンとみずみずしいトマトに塩気の強いチーズがとろけて、見た目以上にかなりボリュームがあった。


黄金色に澄んだスープは、しっかりと下処理された鶏がらと香味野菜を長時間弱火で煮込んだ濃厚な味わいで、具は特に入っていないものの、そのシンプルさが疲れた体には沁み渡る。


軽食とはいえこんな時間になっても、しっかりとしたものを出してもらえるのはありがたい。


もっとも聴取を受けていない姫様とバインズ、早々に聴取が終わったエスナは元宮廷料理人であるという主人の料理を堪能したらしかったが。



夕方になると、今回の報告を受けジルーから急いで戻って来たという、マクイの支部長が宿を訪ねてきた。


「執行部マクイ支部長のリグレイアです。今回はマクイ支部の失態によりローカディア王国にも多大なご迷惑をお掛けしてしまいました。心より謝罪いたします。また、クラウベール様をはじめとした王国直轄調査隊の皆様や、依頼を受けて下さったアスナ様も事件解決に尽力頂きまして、本当に感謝しております。ザルース領主からも今回の事件への謝罪と解決への感謝、今後も友好関係を望む旨の文書が届いております。どうぞお受け取りください。」


「いえ、我が王国としてもザルース領との仲に水を差そうとする輩は放っておけませんから。もちろん我々も今後とも友好関係を続けたいと考えております。」


クラウベール姫が代表して答える。


その後も会談は和やかなムードで進んだ。


「もし、ジルーやマクイに来られることがあればご連絡下さい。次回はゆっくりと最高のおもてなしでお迎えさせていただきます。それと、何かお困りごとが発生したときには、我々でもお力になれることであれば遠慮なくご相談ください。全力でお手伝いさせていただきます。」


ジルーの幹部が笑顔で話す。


「あら、そしたら…困っているってことではないのだけれど、いいかしら。先日ジルーの鉄器や金属加工品を見て回っていたら、どれもかなりの高品質だったのだけれど…。それらの輸入を解禁してもらうことは出来ないかしら。産業の活性化にも繋がるし、もちろん高い関税をかけてブランドを保つことはお約束いたします。」


長年の間、ジルーの名産である鉄器等は、その高い技術力を維持するため、輸出を禁止し生産量を抑制していたのである。


「なるほど…。私の一存では決められませんが…。我々も産業の衰退を心配して、そろそろ何か新しい対策を講じなければと考えていたところです。実現に至るかは分かりませんが、ザルースの執行本部とジルー支部に上げて検討してみましょう。」


ジルーの幹部が答えた。


「じゃあ、詳しい内容や交渉は戻ってから改めて正式にお話しさせていただくわ。」


このお姫様はどさくさに紛れて、これまで交渉のテーブルにすらつけなかった、ジルーの鉄器、金属加工品の輸入について、あと一歩のところまで漕ぎ着けてしまった。


政治に関してのこの嗅覚と勝負度胸はさすがである。



月が薄い雲の隙間からぼーっと辺りを静かに照らしている。


俺は1人テラスに座り、優しい光でぼんやりと明るい誰もいない庭を眺めていた。


「お疲れー。一杯いかがかにゃ?芋のお酒。」


エスナが正面のテーブルにドンッ!と大きな酒瓶を置いた。


「そうだな、せっかくだから一杯頂こうか。」


「ほい。んじゃ、ちょっと待っててね。グラスとか取ってくるから。」


しばらくすると、体に似合わない大きなお盆をぐらぐらさせたエスナが戻ってきた。


「はは、大丈夫か?おっ、氷もあるのか。」


俺が代わりテーブルの上にお盆を置く。


「さっき水を魔法で冷やして、氷を作っておいたんだ。」


エスナがピースサインを作ってみせた。


魔法が使えない一般人からすれば、わざわざ魔法で水を冷やして作らずに、直接氷を作れば良いと考えるだろうが、一部の例外を除き基本的には魔法も“質量保存則”に従っている。


このため、例え氷を創り出したとしても魔法が切れると跡形も無く消え去ってしまう。


この魔法が切れるまでの時間を魔法継続時間といって、魔力使用量に比例するのだ。


もちろん、空気中の水蒸気を一気に冷やして、水を創出してから氷を創ることは可能ではあるが、魔法の過程が煩雑な上に少量創るために大量の魔力を必要とするためあまり行われることはない。


そのためエスナは予め用意された水を魔法で急冷して氷を創り出したのであった。


こうして創られた氷の入ったグラスへ、とくとくと透明に澄んだ液体が注がれる。


「実はこれ、アスナからのお詫びの品なんだよ。アルベルに怪我させちゃったってさ。」


「そうなのか?あれだけ気にするなって言ったのに。…まあ、今度お礼に飯にでも連れて行くか。」


「あの子、ああ見えて意外と意地っ張りだからね。ぜひごはんに連れて行ってあげてよ。絶対喜ぶから。」


「そうだな。」


芋で作られたという酒は、口に入れた瞬間ピリピリとした独特の味わいがあり、のどを通った後に芋のほんのり甘い香りが鼻から抜ける。


「ほう。これはなかなか癖があって面白い酒だな。これだったら、こってりとした味付けの濃い肴にも合いそうだ。」


「んー、これはすぐに酔っ払っちゃいそうだねぇ。水で割るか、ゆっくり氷を溶かしながら飲むのが正解かにゃ。」


「だな。明日に残さないように気を付けよう。」


ちょうど月が雲の影に隠れて辺りが暗くなる。


「…ところで、エスナ。」


「ん、にゃに?」


「お前につけられた異名って…“飛竜殺し”じゃなくて、もしかして“双薙ぎの槍”か?」


「今さら何を言ってんのかにゃ?アルベルは。もちろん“双薙ぎの槍”に決まってんじゃん。アタシとアスナで合わせて双薙ぎ。」


「ああ、やっぱりか。昨日までお前が槍持ってるところなんて見てなかったから、すっかり“飛竜殺し”かと思ってたよ。お前が双子ってことも知らなかったし。それに飛竜って遠距離攻撃しないと倒せないだろ?普通は弓矢隊か魔法師団で討伐するからな。」


「あはは、そういうことか。アルベルってしっかりしてそうに見えて、意外と抜けてるとこあるよねー。」


「うぐ…。」


――――お前に言われたくないぞ。


その言葉を飲み込んで、グラスに注がれた芋の酒を一気に飲み干した。


次話は再び出発したアルベル達調査隊であったが、またもトラブルに巻き込まれる予感。

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