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第18話 脱獄計画の黒幕

「ずっと騙しながら、今までどんな気持ちでボク達と一緒に旅をして来たんだ!?」


漆黒の怒気を身に纏ったレイリスが叫ぶ。


「あなたは一体何を言っているのですか?」


「しらばっくれるな!覚悟しろ!!」


レイリスが物凄いスピードでエスナへと斬りかかる。


「ファイヤースフィア」


エスナは炎の塊を創り出しレイリスに向かって放つと、そのまま槍を構えた。


するとレイリスは炎の塊を左手のダガーで難なく切り裂くと、構わずそのまま突っ込んで右のダガーを振り翳した。


エスナは槍でなんとかダガーを受け止めたものの、完全に槍を持っていかれバランスを崩している。


レイリスはがら空きになったエスナの腹へと蹴りを叩き込む。


そのままエスナは後ろへ弾き飛ばされた。


「ゲホ、ゲホ。」


エスナの呼吸がままならないうちに、間髪入れずレイリスが間を詰める。


「そっちこそ覚悟しろ、エスナ。」


その瞬間、エスナが僅かに目を見開き驚きを露わにする。


「な…ぜ、その、名前を…?」


声にならない声でエスナが呟いた。


そして、レイリスのダガーが振り下ろした、その瞬間――――


「待って!!!」


後方、玄関口の方から慌てた叫び声が聞こえた。


ダガーの刃先がエスナの首元に触れるかという所でピタリと止まった。


俺達は声のした方へと視線を向けると、そこに立っていたのは…


「「エスナ!?」」


俺とレイリスは声を揃えて驚嘆する。


――――どういう事だ?今戦っているのもエスナ。そして声をかけてきたのもエスナ。


その答えは戦っていたエスナからすぐに明かされた。


「姉さん?」


「ふぅ、危なかった…。アルベル、レイリス、そこにいるのはアタシの妹だよ。アスナ、そっちの2人は敵じゃなくて、お互い勘違いしてるだけ。」


「妹ってどういう事だ?」


困惑した俺がエスナに問いかける。


「双子だよー。そっちはアスナ。」


確かによく見ると赤い瞳を持つエスナとは異なり、アスナの瞳は青い色をしている。


また、目深にかぶった帽子からわずかに見える髪の色も、同じく青い色をしていた。


「…取りあえず、双子ってことはわかった。だが、何でお前がこんな所にいるんだ?姫様の警護はどうした?」


「あー、それそれ。あっ、ちなみに姫様の警護はバインズに任せておいたから大丈夫だよん。実はさー。あの後、宿にジルー支部のお使いが来て。」


どうやら話はこういう事らしい。


数日前に今回の脱獄計画についての情報が入ったマクイの支部長は、黒幕が副支部長であると睨んでいた。


そして、まさに昨日ジルーへ出張した折、ジルーの冒険者ギルドへ秘密裏に依頼を出していたのだった。


その依頼内容とは脱獄計画の阻止と、黒幕の特定。


そして依頼を受けたのが、昨晩俺が酒場でエスナと勘違いしたアスナであったのだ。


その翌日、つまり今日の夕方であるが、マクイの支部長は俺達と入れ替わる形で、ジルーの支部長と面会し、今回の計画について説明をしたのだった。


すでに動いていた俺達と冒険者ギルドへの依頼がバッティングらすることを恐れたジルーの支部長が、慌ててマクイへ使いを出したそうだ。


実際は恐れていた通りのことが起こっていたが、結果として最悪の事態は避けることができた。


「でも…。まだ脱獄計画を阻止できたわけでも、黒幕を特定出来たわけでもありません。」


ようやく動けるようになったアスナがやはり抑揚のない声をかける。


「確かにそうだな。もし、マクイの副支部長が黒幕だとしたら、十中八九、収監所の警備団長も共謀者だろう。急いだ方がいいかも知れない。」



俺達は収監所の4階、即ち最上階に向かい中央階段を駆け上った。


「しかし、おかしいですね。警備の兵士を全く見かけません。」


アスナが呟く。


普通であれば収監所の構造的に各フロアの階段付近には必ず見張りの兵士を立てているはずである。


「さっきの睡眠魔法でまだ全員眠っているんじゃないのか?」


俺が答える。


「いえ、睡眠魔法は1階だけにしかかけていません。縦方向への範囲魔法は魔力消費が非効率なんですよ。」


「そうか…。いずれにせよ、4階へ急ごう。」


結局、4階までは誰とも遭遇することなく上がることが出来た。


中央階段から左右に向かい廊下が延びている。


マクイ収監所はロの字型に造られており、どちらを進んでも4回角を曲がって、元の場所に戻って来ることになる。


「警備団長からは盗賊団の幹部が入っている詳しい場所までは知らされなかった。だから俺とレイリス、エスナとアスナで左右に別れて進もう。いいか?」


「アタシはいいけど…さっきから辛そうだけど、アルベルは大丈夫なの?回復魔法でもかけようか?」


エスナが俺を見て心配する。


「ああ、さっきの戦闘で肋骨を何本かやられたみたいでな。じゃあ、頼めるか?」


腹の辺りをさすりながら俺が答える。


「ごめんなさい。わたしのせいで…。姉さん、回復魔法はわたしがやるから、いい。」


これまであまりはっきりとは感情を顔に出さないアスナが、目に見えて申し訳なさそうな顔をする。


「お互い勘違いしていただけだ。気にしないでいい。だったらアスナ、お願いするよ。」


アスナは俺の腹辺りに手を添え魔法を唱えると、手のひらが淡い光に包まれる。


それと同時に手が添えられた辺りを中心として、じんわりとした温かさが身体中に広がった。


「これで動けるとは思います。でも、もし骨折していたら完全に治ったわけじゃないから無茶はしないで下さい。」


「ありがとう、アスナ。だいぶ楽になったよ。」


そう言うと、アスナはなぜか俺から顔を逸らし「い、いえ。元はと言えばわたしのせいですから。」と言って左側の廊下を1人でズンズンと進んで行ってしまった。


「あっ、ちょ、待ってよ、アスナぁー。じゃ、アルベル、また後でねー。」


エスナがこちらに手を振りなから、先に行ってしまったアスナを追いかける。


天真爛漫な姉と真面目な妹といったところだろうか。


「ああ、気をつけろよ。」


そう声を掛け、俺とレイリスは逆側の廊下を進む。



「なあ、レイリス。」


「ん?なに?」


「さっきの戦闘だが、ギリギリでエスナに止められてなかったら、アスナを本当に殺していたのか?」


「まさかー。いくらボクでもそこまではしないよ。だいたい話が噛み合ってなかったから、何かあるかなと思ったしね。あのとき実はダガーの刃先に麻痺毒を仕込んでたから、首筋に傷をつけて動きを止める作戦。」


「そうか、安心したよ。」


一時的とはいえ、一緒に行動していた(と思っていた)仲間を殺すなど、寝覚めが悪い。


それにしてもあの短時間に毒を仕込むとは、さすがレイリスである。


「とは言っても、完全にアルベルがやられちゃってたら、わからなかったけどね。」


そのまま廊下を進んでいくが、警備兵の姿は全く見当たらない。


一方、監房の囚人たちは全員が眠っているようでこちらに気づく様子は全くなかった。


――――いくら就寝時間が決まっているとはいえ、この静けさはおかしい。


レイリスと無言で顔を見合わせながら、先へ先へと進む。


すると2つ目の角を曲がろうとしたそのとき、角の向こう側からわずかだが話し声が聞こえた。


レイリスが無言のまま俺の方へ“待て”と手で合図し、鏡を使って向こう側の様子を伺う。


角の向こう側では、マクイ収監所の警備団長と、昼間マクイ支部で目にした副支部長の補佐役2人が監房に向かって何やら話をしている。


「へへ、警備団長ともあろうお方がこんなに堂々と逃がす手伝いしちゃっていいのかよ。」


「お前らのトップとうちのボスとの取引だ。金も確認できたからな。」


「け、盗賊団から金を巻き上げようなんて、阿漕な商売しやがる。あんたんとこの副支部長とやらも相当の悪人だな。」


「つべこべ言ってないで出ろ。これは最初にお前が持っていた装備だ。」


がさっと何かを床に放り投げる音がする。


――――やはりマクイ支部の副支部長が黒幕だったか。


「まさか、ここの警備団全員がグルってわけないんだろ?このまま普通に出て行っても大丈夫なのか?すぐに見つかってまたこんなところにぶち込まれるなんて俺はごめんだぜ。」


「問題ない。直前に警備の配置を細工したから、このフロアには誰もいないはずだ。それに他のフロアには魔法耐性のない兵士を配置しておいた。建物全体に睡眠の幻術を施してあるから、みんな今頃夢の中だ。ただ、1階の中央玄関付近に未知数なローカディアのネズミが2匹いるが、後方側から脱出すれば問題ない。」


「お気遣いどーも。じゃ、早いとこ退散させてもらうとするか。」


欲しい情報がおおむね聞くことができた。


そろそろ潮時だ。


「ローカディアの名前を語った上に脱獄など、これ以上お前たちの好き勝手にはさせないからな!」


俺達は一気に角を曲がり、奴らの計画を潰しに入る。


次話は黒幕と戦闘開始です。

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