1-02話
この話と次話とはライニーとロイマンの過去話が入ります。
あと、オリジナル爵位も出てきます。
元々ある爵位を使わないのは作者のひねくれのなせる業(笑)
side:ロイマン・ウェン・ブレイリード
「だぁかぁらぁ!加速を重ねないと勢いで負けてたの!」
「そこは一旦離れなさい。君は幻法も使えるのですから距離をとってですね」
「いや、それはなんか気持ちで負けた気がして」
「君は幻法使いを敵に回しましたね・・・!」
ワイワイ
ガヤガヤ
総合ギルド、ルクオン支部の中は今日も賑やかで、その中には場違いな感じの少女が1人いる。その少女は目の前のベテラン冒険者と取っ組み合いの喧嘩を始めそうな勢いで口論している。周りの冒険者もアルコールが入って高揚しているため、止めるどころか煽る始末だ。下品と言えば下品かもしれないが、本気で刃物を持ったり、魄式・幻法を使い始めてたら止める気なのは皆の共通認識だ。
なぜならこんな光景、既に見慣れているものだから。
「ったく。良いとこのお嬢様が・・・」
まぁ、昔のような死んだ目をしているよりかはいいと思うが、あの弾けっぷりはお嬢様としてではなく、女の子としてどうかとも思う。もどかしいのが世の常か。普通のどこに出るお嬢様なら、そもそもこんなところにはいないだろうがな。
「なーに、黄昏てんのよ」
巻き込まれないようにライニーたちから離れて酒を飲んでいると、冒険者ギルドの受付の1人が話しかけてきた。ここのギルドには4年ほどいて、ほとんどの対応が目の前の女性だったため、かなり顔馴染みとなっている。
「ヘミーさんこそ、あの争い止めなくていいのか?」
「残念ながら、2分前に業務時間を終えてるのよー、ニヒヒ」
なるほど、と思いながら酒を呷る。
「・・・未だに不思議な感じがするわ。彼女のような戦闘狂が貴方心を救ったなんて」
「なんだ?酔ってた癖に覚えてるのかよ」
「そりゃあねぇー。女っ気のなかった貴方が唯一溢したネタよ?その日の間にギルド受付女子には広めさせてもらったわ」
「・・・通りで変に視線を感じる日があったわけだ」
1年半ぐらい前だったか?その時はドタバタとしていたために気にしていなかったが、今にして思えば、なるほど納得。ただ、まぁ、ライニーが何かで救われたように、俺はライニーに救われた。それが理由かは自分でもわからないが、4つも年下のライニーに惹かれているのは確かだ。ライニーが俺と旅に出ることに喜んでくれているが、それは俺も同じなのだ。
「あー、はいはい。ごちそうさまでした」
「ん?どうした唐突に?」
「あの子のことそんな優しい目で見てたらふざけることもしにくいわよ。で、私は私であの子に睨まれてるわけ」
確かに、ライニーがこちらを睨んでいるな。ベテラン冒険者がアイアンクローを顔面にくらって悶え苦しんでるのが恐怖心を煽ってくる、というおまけ付き。
「火花飛んできそうだし、私は帰るわ。バイバイ」
そういって、受付嬢が立ち去る。そして、ライニーが一瞬で隣に来ていた。魄式でも使ったような俊敏さだ。
「・・・あの人誰?」
「俺の窓口担当だよ。嫉妬か?」
「しっ・・・////」
「あ~悪かった。んなに赤面すんなよ、こっちも恥ずかしい。あと、恥ずかしくなったからって手に力入れすぎだぞ?その人痙攣始めてるから」
まったくもって騒がしい奴である。
† † † †
俺がライニー・フォン・シュベルトヒルトと出会ったのは、彼女がまだ彼女の実家にいたときだ。シュベルトヒルト家は貴族で爵位は貴族としては上から5番目の郷爵。リデオーラ王国内の同じ爵位の貴族から言えっても下から数えた方が早く、住んでいるところも王国中心にいる貴族からすれば笑い者にされるほどの辺境だった。そして、俺の実家はシュベルトヒルト家に領地は近いが爵位は仁爵という3つ上の立場だった。貴族社会で1つ爵位違うだけでも見方を変えるのが大半で、3つも違いがあれば下の爵位の者は大半が媚び諂う。故に、よほどの用事がないか、下の地位の者を見下したがる者以外は下の爵位の領地に行くことはない。しかし、俺が10歳の時、そのよほどのことがあったのだ。
シュベルトヒルト家に近い遺跡に魂澱種が大量に沸きだしたのだ。魂澱種というのは生き物や物体が悪影響を受けて変質したモノだ。原因としては幻素の過剰摂取や魂の汚染などが挙げられている。魂澱種となったモノは基本的に狂暴となり、周りに被害をもたらすのだが、同じ種類のモノが魂澱種となったとしても、強さやどのような魂澱種になるかは定まっていないため、被害もまばらだったりする。シュベルトヒルト家近くの遺跡で沸きだしたのは一匹一匹は弱く、シュベルトヒルト領の兵だけで対処できると思われていたが、数が大量過ぎて対処が間に合わないと判断し、周囲に応援を募ったのだ。
その時、俺の父が私兵を連れていき、後学のためにと、俺や4歳上の姉、3歳上の兄、2歳下の弟も連れていかれた。後学といっても、兄姉が戦場の空気を知るのとは異なり、俺と弟は他者の領地の様子を学ぶことが目的だった。
シュベルトヒルト家の当主と挨拶をし、俺や弟が領地内を見て回る許可を貰った後は父姉兄と別行動。その時に面倒を見て欲しいと頼まれたのだが、当時6歳の、6歳らしかぬ死んだ目をしたライニーだった。
シュベルトヒルト家の家族構成は父1人に母が2人、息子5人に娘2人という、俺の家族よりも人数が多かった。その中でライニーは一番末っ子であり、貴族間では少々話題に上がる少女だった。曰く“魔女”。
当時の俺も噂だけは知っていた。『シュベルトヒルト家の末っ子は魄気と幻素に対して保有量が大きく、しかし、大きすぎて制御ができず術を暴発させる。周囲にいる人に物理的にも精神的にも被害を与え、最悪の場合には呪われる』と。辺境の民間人も『シュベルトヒルト家の末っ子は危険なために近付くべからず』などと暗黙のルールになっていた。
そんな厄介な娘の面倒を見るなど、正直御免だったのだが、父は二つ返事で承諾。怯える弟を慰めるのに苦労したのを覚えている。さらに言えば、俺も俺で当時は精神的に余裕がなかったのだ。
その理由は悪夢。誰かと複数人で行動し、よく話す“誰か”とは仲が良く、しかし、夢の最後には必ず手から零れ落ちる。大切なはずの“誰か”が強敵に立ち向かう中、弱い俺は何もできず危険だからとその場を離れ、その大切なはずの“誰か”とは2度と会えない。そんな悪夢を毎日見せられていたのだ。起きた後に来るのは喪失感と未来への不安。夢の中で失い胸に大きな穴が空いたような絶望。夢は未来の話で俺が弱ければ大切な何かを失うのではないかという恐怖。自分が痛い思いをするよりも辛く、心が死にかけていた。幸いだったのは、ブレイリード家が戦場で成り上がった貴族ということだろう。俺にもその血が流れていて、一般人よりも戦闘のセンスがあったのだ。
鍛えて強くなれば失わない。
そんな思いから家族の制止を無視してがむしゃらに鍛えた。剣を振るい、適性がまだ高かった幻法を学び、適性は低くても魄式を試みた。その結果は最悪で姉兄には追い付けず、毎日吐くほどに身体を虐めていたために、何かにつけて気絶することが多かった。もしかしたら、俺をシュベルトヒルト領に連れてきたのはその背景があったかもしれない。
なかなか強くなれない苛立ち、常に身体を襲う痛みと虚脱感。弟にぶつけないように気を付けないとな、と思いながらシュベルトヒルト家の屋敷の客間で弟と待っていた。
そして、俺はメイドに連れられてやって来たライニー・フォン・シュベルトヒルトと出会った。
オリジナル爵位。
地位の高い順に↓
偉爵
仁爵
賛爵
子爵
郷爵
武爵
123456の当て字。




