1_01話
冒険準備の章(仮)
冒険譚、というタイトルのくせに冒険がまだ始まらない(笑)
side:ライニー・フォン・シュベルトヒルト
リデオーラ王立学園卒業試験の数日後、ようやく動けるようになった私はギルドのルクオン支部に来ていた。
世界は広い。私がいるこの大陸はオステリア大陸といい、他の3つの大陸は大海を挟んでいる。その大陸全ての国にギルドというものが置かれている。種類としては3種類。
冒険ギルド
商業ギルド
研究ギルド
冒険ギルドは冒険者の育成や補助、依頼の仲介などを行っており、危険なエリアの監視なども国と協力して実施、伝達を行っている。
商業ギルドは地域毎の物品管理、冒険ギルドに持ち込まれた物や研究ギルドによる開発品を売買している。土地の管理も国と協力して行っているため、他国に引っ越す際に、予め土地を購入しておくこともできたりする。
研究ギルドは魄式や幻法の研究、それらを用いた道具や武具の開発を行っている。国同士の共同研究も行われることがあり、世の中に便利な物の大半はこのギルドから広まったとか。
国が絡んでることもあって、一般的には知られていない裏の部分もあるだろうけれど、目に見えて戦争をしているわけではないので、国家間の伝達はそれなりに行われていると思う。もちろん、国にとって有益な情報や武具は広めないようにしているかもしれない。まぁ、それは人である以上仕方がない話だ。
私がいるルクオン支部、正式にはオステリア大陸リデオーラ王国ルクオン3ギルド共同支部、というのだけれど、そこは大きな建物に冒険ギルド・商業ギルド・研究ギルドの3つが集まるギルドで、地域によっては研究ギルドがなかったり、建物自体が離れていたりする。ルクオン支部だけで言えば、商業ギルドが飲食店も含めて行っているため、飲み食いできる。お酒もある親切設計だ。
で、私がここにいる理由。それは、まぁ、試験結果を先輩方に報告するためだ。というのも、私はリデオーラ王立学園に入学して4年目からここに顔を出している。冒険者になるのは卒業してからと決めていたけれど、そのための前準備として通っていたのだ。主に学園では手にいられない現役冒険者の知識や経験、戦い方などを得るために。戦い方に関しては口頭だけではなく、模擬戦闘もやってもらったりした。アゼルド先生の動きに食らい付いていけたのはここの人たちがいろいろと教えてくれたからだろう。だから、私は報告に来たのだけれど、
「「「アッハッハッハッ!」」」
今現在、数十の椅子を埋める冒険者の皆さんに笑われていた。
「バッカだろ!いくら嬢ちゃんが成長期とはいえ、“蒼獅子”に真っ正面からぶつかりゃ負けるわ!」
「つか!戦う気すら起きねぇよ!誰だよ!こんなお馬鹿に育てたの!」
「俺たちだろ!アッハッハッハッ!」
アゼルド先生、アゼルド・レックはそれはそれは有名な冒険者だったらしい。冒険者引退時はSランク。10年ほど前の話らしいけれど、教師の癖にたちの悪い戦い方をすると評判なのは元冒険者だったからか。凄腕の冒険者が教師なら学校中で噂になっているはず・・・なんて思ったら、普通に皆知っていた。知らないことに驚かれた。さらに言えば、2歳下の弟にまで呆れられた。脳筋言わないで。
「まぁ、向上心があるのはいいことじゃねぇの?卒業したいから、って弱い教官選ぶのも逃げ腰で嫌だったんだろ?」
「えっ?単に強い教師と戦いたかっただけだよ?」
「お前・・・人のフォローを砕くなよ・・・」
「「「アッハッハッハッ!」」」
本音を漏らすと周りは笑い、目の前の青年はため息をつく。そのため息は弟がついたため息と同じ感じだったことに少しイラッとするけれど、調査不足だったことは確かなので何も言わないでおく。まっ、凄腕の冒険者とわかっていても、戦い方は変えなかったとも思うけれど。
「ロイマンも大変だなぁ。まっ、美少女との旅を楽しめや」
「なんだったら代わるか?俺は今すげぇ不安を覚えてるんだ」
「確かに俺らのクランはおっとこムサイが、まぁ、無理無茶無謀な奴はいねぇからな。その娘よりはマシだわな」
「おいこら。人を要らない子みたいに言うな」
ロンさんと彼に肩を組んでいる男性を睨んで言うと、それはそれはまた大層大きな笑いが起こる。人をからかっているのはわかるけれど、こっちの堪忍袋の緒も限界というものがある。
よし殴るか、と右の拳を固く握り立上が
「お前も自覚してんなら怒んじゃねぇよ」
「ふぐっ」
ロンさんに頭から押さえつけられ、座らされた。
「大方、反省も込めてどうしたらよかったかを話に来たんだろ?だったら、いいじゃねぇか。冒険ではできないことを学ぶのが学校なんだろ?わかってやってたんなら、その上で死なねぇように立ち回ってたんなら自ら望んだ経験だ。ここにいるやつらも、酒の肴に笑ってはいるが、心配してた奴等もいるんだしよ」
さりげなく、本気で笑っている奴等もいる、とロンさんは言ったのだけれど、まぁ・・・うん。ロンさんにそう見透かされたように言われてしまうと何も言えなくなってしまう。頭に登った血が降りてきて顔が熱い。いや、本当にロンさんには昔から勝てないな、としみじみ思う。
ロンさん、ロイマン・ウェン・ブレイリードは私より4つ上の青年だ。青みがかった黒髪に、綺麗な蒼色の瞳。私と同じく剣を主に扱う身体は無駄な筋肉がなく、だからといって細さも感じさせない。肩当てや胸のガードが凛々しさを際立てているように思うのは私だけか。まぁ、他の冒険者をも同じような装備で、でもときめかないから私の思いのなせる技だろう。
ぶっちゃけてしまうと私はロンさんが好きなのだ。それこそ小さい頃から。冒険者を志したのはそれだけではないけれど、ロンさんも冒険者になるとわかった日には隠れて狂喜したものだ。
それはさておき、私の反応にニヤニヤしている冒険者一同もとりあえずは置いておこう。顔は覚えたからいつかいじめ返すとして、今日はロンさんが言った通りに反省会をしに来たのだ。貴重な経験も復習しないとただの思い出となってしまう。冒険者となってからはなのような戦い方はできないのだから、ここでしっかり見直さないと。
「じゃ、反省会を」
「の前に、ライニー。冒険者登録いつできるよ?俺もそれに合わせて調整しなきゃならんし」
「1週間後かな?万全な体調になってからだね」




