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2-13話

再度、状況が一転します。


side:シリウス・メガ・プラネタル



よく奮闘した方だと、僕は正直に思います。例え、相手が手加減に手加減を重ねるレベルで手を抜いていたとしても、その状況で奮闘したのはライニーさんだからできたことでしょう。並みの人なら既に諦めています。そもそもとして、カグチ・ナラクが【創造幻法(パラダイムシフト)】で作り出した異界に耐え続けることが難しいと思います。


僕自身やライニー、ニフィルたちの様子を見るに、他者に対してどれほど気を許せるか、というのでこの異界の環境の影響を受けるのだろうと推測しました。ニフィルは人懐っこい方ですし、ロイマンも素っ気ない態度をとることが多いですが、困った人には手を差し伸べる上に、他者と馴染むのも早いのです。その人としての良い部分がこの異界では逆効果になったというわけでしょう。恨み辛み、怨嗟の言葉をそのまま受け取り、聞き流そうにも普段の性格から完全に無視できない。故に術の影響は効率よく受けてしまい、発狂に至る可能性がありました。今は気絶していますが、夢見では罵られたり羨まれたりしていることでしょう。魘されてるようですし。


では、ライニーさんはどうか?彼女は人見知りがあるだけで、打ち解けてしまえばかなり親しく構っていくタイプだと思われます。だからこそ、ニフィルやロイマンのように異界の悪環境の影響を受けているはずですが、それを術や精神力で抑え込んでいたようです。その上で、【魂源魄式】を3重、4重に重ねると言う難易度の高い制御を行っていたのだから、奮闘したと言えます。自ら"戦闘狂"と名乗るだけはあったわけです。


それほどに奮闘した、絶望的な状況で血にまみれながらも抗い続けた彼女も今は地に伏している。胸に刺さり、背中を突き破ったカグチ・ナラクの黒い剣。表面には渦巻き模様が蠢いており、ただの剣ではないことはわかります。恐らくはそれも呪いの一瞬でしょう。もっとも、胸に刺さった時点で既に致命傷ですが。


『あー終わった終わった』『俺様が最強であることは変わらんかったな』『さすが俺様』『神に選ばれた者』『これからは俺が主人公だぜ』『ってことでゴミ掃除だな』『上の奴らまだ抗ってるみたいだし』『ここは主人公として圧倒的な力で片付けてやらないとな』


1人で、しかし、複数ある口から次々に吐き出される言葉に対して、時折意味がわからなくなりますが、この場を離れてくださるなら願ってもないことです。


ライニーさんの致命傷は命に関わる。ですが、まだ彼女は死んでいない(・・・・・・)。仰向けに倒れて意識がないだろうことはわかりますが、微かながらに背中が上下しているのも確かです。回復はニフィルの方が得意ですが、応急措置は【刻印魄式】で可能ですし、今ならまだ間に合うはずです。故に、このままカグチ・ナラクには目をつけられず、なおかつ、立ち去ってくれれば都合が良いのですが・・・。


『ひーふーみーよーいーなんだ生き残ってんのは5人ぐらいか』『環境変わって死ぬとか(笑)』『まっ主人公じゃねぇーもん仕方ないよなぁ』


邪悪に見える笑みを浮かべながら、カグチ・のナラクが身を屈ませます。そのまま、立ち去ってくれれば、そう思った時だした。




ドクンッ




空間が脈打ちました。そして、途端に皹が入る異界の景色。


『はぁ?』『なんだこりゃ?』『俺様まだ何もやってねぇぞ』『つーか』


『『何しやがるこの死に損ない』』


カグチ・ナラクの警戒した視線が向けられる。



今も気を失っているライニーさんに。




  †  †  †  †




side:ライニー・フォン・シュベルトヒルト



落ちていく。

落ちていく。

堕ちていく。


深く深く。抗おうにも体は重く、何もできないまま沈んでいく。それはまるで海に沈んでいくように。呼吸ができない息苦しさを覚えながら、身動きできずにただ沈んでいく。


足掻けるだけ足掻いた。圧倒的な力の差を前に諦めずによく頑張った、とどこからか声が聞こえる。もう休んでいいよ、と優しい声が告げてくれる。


それでも、私は必死で抗おうとする。このまま死ぬのは違う。私はまだ生き足りない。ロンさんと恋人になったばかりだし、シリウスさんやニフィルさんを含めた4人でクランを作ったばっかりだ。冒険らしい冒険も始まっていないのに、こんな所に沈んでいられない。


だというのに、私の体は全く動いてくれず、回りから囁かれる優しく諭すような声に甘えるように沈んでいく。


「その声が私の声だからなおのこと腹が立つ!」


まらるで私が何もかも諦めたようで、努力したのだからと自分に甘えているようで。ああ、全くもって腹立たしい。


「こんなの私じゃない!」


身動きできない中、口も満足に動かせない状況で吼える。あの戦場へと戻るために。


「勝てない相手に勝てないのは諦め理由になる?遊ばれても届かないなら望みはなかったって?未熟ながらに頑張ったって誉めてほしいって?」


なんだそれは!


「じょおおおだんっ!うっさいは馬鹿!勝てない相手に勝てるように努力するのは当たり前!遊ばれてるなら指先だけでも届かせるチャンスでしょ!未熟だから頑張って足掻いて磨いてこそでしょ!」


そんなのカグチ・ナラクとの戦いだけでなく。


「"生きる"ということはそういうことだ!怠けて生きて納得できる人生なんて有り得ない!舐めるなよ私!」


何度も言おう!求めるのは格上すらをも凌駕する戦闘力と精神力。護るためなら笑って逆境を乗り越えれるだけの狂気を欲する。


まだ(・・)敗けて(・・・)ないっ(・・・)!」


抗おう何処までも何度でも。諦めない限り踏破できる道があるのだから。



『あー、うん。さすが私の後継かな?』



吼えるしかできない状況で、そんな声がいきなり聞こえた。先程までの優しく諦めるように諭してくる声とは違い、その声は私とは異なり、さらには苦笑しているような声だった。


『やっぱり死に際が未練がまし過ぎたのかな?でも、まぁ、本心だし。納得してたのも確かだったしね』


首を動かせないから、視線だけ向けようとしたけれど、その前に声の主からやって来た。それは白銀色の綺麗な剣。


『初めまして、私の後継。この数百年でもっとも適合した者』

「・・・貴女は?」

『私は・・・そうだね。貴女に似て非なる存在っとでも言っておこうかな?』


茶化した感じに告げる声に敵意はなかった。とはいえ、胸にはカグチ・ナラクの生み出した剣が刺さっているのだから、それによって出てきた存在かもしれない。甘言で惑わされない私に対する新たな策かもしれないのだ。故に、警戒したまま話をすることにする。


『まっ、私だってこんな状況だったら同じように警戒するからそこはいいよ。話さえしてくれるなら』

「・・・話って?」

『このままだと貴女、死ぬよ?』


いきなりド直球だった。


『出血多量か、"あれ"の呪いか。どっちかで死ぬね。ここが貴女の心の奥底、魂の空間にも関わらず動けないのはそれが理由だね。もっとも、ここまで沈んできてくれたから、私は貴女とこうして会話ができるんだけどね』

「・・・まぁ、死にかけてるのはわかるよ。気を失うきっかけがわかってるから。だけど、私は抗う。こんな終わり方は嫌だから」

『わかってる。誰よりも私だからこそわかるよ。だから、今から言うことを聞いて貴女は判断しなければならない。いや、違うかな?覚悟を決めなければならない』


そう言うと、白銀色の剣はさらに近づいてきた。目と鼻の先程の距離でさらに剣は告げる。


『私なら、貴女に似た存在である私なら、貴女の体を一時的に借りて呪い除去して傷を癒し、力もいくらか取り戻してあげれる』


そこで一呼吸。


『けれど、非なる存在故に代償は大きい。時間にして借りるのは3分ぐらい。その間に、貴女の体と魂は私の魂の暴力に去らされる。ここにいる貴女は浮上しながら死にたくなる激痛に教われるだろうね。それを3分どころか、体感ではもっと長く。3ヶ月ぐらい感じるかもしれない。正確にはわからないけどね。体はきっと今まで通りに動かせないかな?元々の重傷に加えて私に合わせて治ることになるから、物理的には違いがなくとも、見えないところが変わるだろうね。体の動かし方がわからなくなるんだよ』


・・・まるで悪魔との契約みたい、と思うね。


『さらに言えば、魄気?と幻素?だっけ?あれの扱い方も忘れたような感覚になるかな?生成速度とか吸収速度とか今より酷くなるかもしれないね。身体中を巡る経路もぐちゃぐちゃになっちゃって術を編めなくなるかもしれない』

「つまり・・・まともに冒険者ができなくなる上に生活もできなくなる、と?」

『そこはリハビリ次第だと思うけど、最初はそうなる可能性があるよ?高い確率でね。でも、これでマジな方だよ?本来は対消滅か、無理矢理私が乗っとるかだし。まぁ、私は"あれら"と違うからそんなことしないけどね』


なるほど、そこまで有り得ないほどの適合率ということか。この女性とは。であれば、自ずとその正体に気づくというものだ。


ここまで落ちていらば、彼女が言うところの魂の空間まで来ていれば、普段は忘れている夢の内容を思い出せる。そして、思い出せるから彼女が私にとってどういう人かもわかる。なるほど、警戒するだけ無駄だったというわけだ。


『その上で聞くけど、どうする?』

「お願いします」


彼女の問いに1拍も与えず応える。


『へぇ、決断早いね』

「今は死なない(・・・・)ことが優先すべきことなので」


どんなに痛くされようが、どれ程生活が難しくなろうが、生きていなければ始まらない。生きているからこそ、成長し、克服し、理想へと近づけるのだから。


『あー、確かにね。うん。貴女は私みたいなったらダメだよ?私の正体に気づいたみたいだから言うと、死に別れるほど辛いことはないと思うから』

「忠告感謝します」

『まっ、ここでの記憶はまた思い出せなくなるけどね。成長したその先まで待ってるよ。今より成長して私を乗り越えられる貴女を』


ってことで、と彼女は剣の向きを変え、剣の先を私の額へと向ける。


『そのためにも今は体を借りるね』


告げると同時に、額へと剣が突き刺さる。そして、想像絶する痛みに、もがけない私は悲鳴をあげることしかできなかった。




  †  †  †  †




side:???


「ん?」


懐かしい気配がした。けど、時期にしては早すぎる。


「ふむ」


家族は全員"あちら"にいる。ワシは留守をする役目があるのじゃが、これを放っておくのも勿体ない。なんせ、旧知の戦友が戻ってきそうなのじゃからの。


「ん」


【印尾】を振るう。"影"を写し身として作り、意識を共有させて地上(・・)へと下ろす。今の地上なら3割コピーでお釣りが出るほどじゃし、適当に容れ物作れば問題なしじゃ。


「直接会うのはまだた後日じゃ」


意識を共有させた"影"に【転印】を使わせて、感じた気配の方へと飛ばし、ワシは留守の続きを再開した。


次は伏線張りの話。


回収忘れのないようにしないと・・・



あと、次で2章最後です。

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