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0_03話

ライニー・フォン・シュベルトヒルト

  VS

アゼルド・レック

2話目

sideライニー・フォン・シュベルトヒルト



魄式と幻法ではいろいろと違いがある。1つは魄気と幻素という術に必要なエネルギーの取り扱いの違い。魄気は内に秘める魂から発生し、幻素は世界から発生する。魄式は魄気を用いるため、予め身体という器に溜めておく必要があり、幻法は空気中に漂う幻素を取り込んでおく必要がある。例えるなら井戸とタンクが近いかもしれない。


井戸(身体)に自然と(魄気)が溜まり、使うの(魄式)に必要な分だけ汲み上げる。


タンク(身体)に予め(幻素)を入れて持ち運び、使うの(幻法)に必要な分だけ注ぎ出す。無くなったり足りなければ、タンク(身体)に追加する。


これが1つ目の違い。そして、もう1つ違いがある。それは術の発動のさせ方だ。


魄式は自分の内から生まれる魄気を用いるために、自分の魄式の構成、どういう術を行使したいかを固めて魄気を注げば発動する。正直に言えば、詠唱やら術名やらを口に出して言う必要などないのだ。しかし、これはなかなか難しい。何もしないでいる時であれば魄式にだけ集中すれば良いが、動きながら、特に戦闘の最中であれば気にしなければならないことが多くなる。故に集中できず、構成も編むことができない。だから、慣れていない人は声に出して何をしたいかを明確にしないと発動できない。一般的な学生ならば卒業する段階でもこの状態だろう。良くて詠唱を短縮しているぐらいか。まぁ、そもそもとして、魄式に決まった詠唱や術名などないのだけれど。構成さえできれば良いのだから。


アゼルド先生が一瞬呆けたのは私が途中で詠唱を省略したからだろう。今までの学園生活でそんな技術を見せていなかったのだから。どんな時でも、自分の身が危険にさらされている時でさえ、私は同じ詠唱を長ったらしくさせていた。その事前知識をアゼルド先生は得ていたのだろう。私の戦い方が騎士向きでないことはこの時点でわかっただろう。6年間という常識をこの瞬間のためだけに費やし、正々堂々ではなく欺くためという邪道を素でいく。もっとも仕掛けているのはこれだけではないけれど。


ちなみに、幻法の発動に関しては結構手間だったりする。なぜなら、魄式と異なり自分がよければOKというわけではないからだ。幻素を身体に取り込み、幻法として幻素を術にして吐き出す。その際、どういう幻法を使いたいかを周囲に浸透させなければならない。周囲といっても戦う相手とかそういう意味ではない。つまりは()()()()()()()()()を理解させなければならないのだ。一説によれば、幻素には意思があり、術の発動に協力してくれているだとか。故に、幻法は決まった詠唱が必要とされる。どういう幻法を使いたいかを念じてしっかりと意図を世界に伝えることができれば詠唱も術名も声に出す必要はないが、これをできた者はいない。“目は口ほどにものを言う”や“以心伝心”などの言葉はあるけれど、幻法においては通用しない。受け手の幻素が読まなければならない、ということがあれば、この世は幻法が発動しまくって血深泥なことになっているだろう。


まぁ、そんなわけで、私は魄式の詠唱を省略し、術を行使する。それによって発生する効果は加速。帯電しながら人間場馴れした速度で動けるようになる魄式により、私は私自身を強化した。そして、強化した瞬間に動き出す。強化したといっても、この魄式の真骨頂は腕を振るうときの剣速を上げることにあり、走る速さや思考速度など、他の加速は副次的な要素でしかない。移動速度は『少し速くなったかな?』程度でしかないのだ。今の速度だと運動マンな成人男性と同じくらいかもしれない。


故に、その程度の走る速さであるが故に、アゼルド先生が立ち直る余裕は十分にあった。呆けた一瞬に近づけたなら勝機があっただろうけれど、それは流石に高望み過ぎるもということは分かっていた。私が剣の間合いまで近づいた頃にはアゼルド先生の影から鋭く伸ばされた腕が生えている。


「残念・・・という雰囲気ではないな」

「予想の内なのでっ!」


振るわれる影の腕と6本の刀に対し、私は身体を動かして避けつつ、危険なものは右手の剣で弾く。かするぐらいならまだいいけれど、こんな序盤で大きな怪我をしたら落第ものだろうが故に、大半の斬撃を弾く必要がある。というか、この影の腕、幻法でしょ?なんでアゼルド先生が何も言ってないのに動くんだろう?


疑問には思うけれどすぐに考えるのをやめる。現状はアゼルド先生にとってみれば、まだまだ序の口だろう。試験が故の様子見。歴戦が故にこの程度のはずがない。


だからこそ(・・・・・)、まだこちらの勝機が十分にあるのだ。


「>さらに舞い踊る!」


意気込みを詠唱として魄式【Donner】の強化を行い、加速する。


即興詠唱に術名省略。学生の領分を越えた技能にアゼルド先生は初めて(・・・)笑みを(・・・)浮かべた(・・・・)。この瞬間、私は表情には出さなかったけれども思ったことが2つ。やらかした、と、思った以上にフラストレーションが貯まっていたのか。


「へぇ。この学園で実力を隠しながらもトップレベルにいたとは。これは俺も本気にならないと失礼だな」

「失礼じゃないです全然失礼じゃないです!その笑み怖いし喰われそう!」

「教師も肩身が狭いんだよ。せっかくだから楽しませてみな!」


アゼルド先生は笑みを深めて猛獣が獲物を見つけた表情と被った。勝機がなくなった瞬間でもある。


私の2重強化による加速なんて、アゼルド先生から見れば見慣れた速度のはずだ。故に、当初の予定ではこの加速に対し、影の腕を2、3増やして対応するだろうと考えていた。それに対し、私は加速強化を瞬時に切り、斬撃の強化を術名発動で行い、影の腕ごと斬るつもりだった。これでも、勝てる可能性は3割以下だとは思っていたが、調子づかせる前に決めれる手を考えれば恐らくベスト。


ちなみに、調子づかれると勝ち目なんてゼロだ。その証拠に、


「>この見に宿るは獅子の霊魂

>我が求めに来たら守護霊

>【Besessen Seele】」


アゼルド先生が魄式を使う。詠唱内容から【降霊魄式】。契約した霊魂を身体に憑依させ、その霊魂の特徴を自身の力として使えるようになる魄式。霊魂との力関係や新密度がものをいう魄式で、なかなか制御が難しいと聞くけれど、見た感じで言えばアゼルド先生は使いこなしている。


「なんでこんな人がここの教師やってんだか・・・っ!

>極点で踊れ!

>【Donner】!」


3度目の加速強化。私自身の限界レベルでの強化を行う。瞬間に全身にピリッとした痛みが走るけれどこの際無視。このまま無惨に負けるよりかはよっぽどいい。


そう思った瞬間、目の前にアゼルド先生がいた!?


「生き延びてみな」


三本の刀(ツメ)が降り下ろされる。




ライニーの試験は後1話続きます。


↓ちょっとした術紹介

術名:Donner

加速術式。身体の動きの一部を加速させるが、身体そのものの速さも若干上がる。ライニーの場合は“剣を振るう”ことを加速させ、“剣を振るうには身体も動かす必要がある”ために身体の動きそのものの加速補正が発生する。

余談だが、学園生活中にライニーが唱えていた詠唱は以下の通り。


>我が身は剣

>その剣は願う。

>速く、速く、振るう刃は留まらない。

>何者にも阻めぬほど速度を持って敵を断つ。

>その願いを持って舞い踊る。

>雷の如く加速せよ。

>【Donner】



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