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2-08話

side:ライニー・フォン・シュベルトヒルト




体調7割、魄気6割、幻素1割未満。


そんな状況で魂澱種の竜を狩ろうとしているのだから、私自身、自殺志願者だなあ、と思ってしまう。冒険者ランクは成り立てのEランク。格上と何度も戦ってはいるが、訓練の域を出ず、命を懸けてまでは行っていなかったし、手加減が入っていたのも理解している。彼らから見て、私がまだヒヨッコ同然なのは言われなくてもわかっている。


だからと言って、ここで身を引くという選択肢なんて存在しない。仲間たちが命を懸け続けているのだから。たった1度(・・・・・)命を懸けたからといって役目を終えたなんて全く思わない。例え死ぬぞと言われたところで、死ぬならば仲間たちと共に散ることを選ぶ。


「>体は刃の如く

>【Klinge】」


"体が刃であれば剣すら要らず斬れるのに"。そんな願望を軸とした【魂源魄式】の2段を発動。鈍く黒く輝き出した両手を一瞬だけ見て《蒼天司りし魔女の塔》へと入る。そのまま、まっすぐロンさんたちの方へと向かい、2体の竜がシリウスさんにブレスを吐こうとしているのを見て、


「>【Donner】!」


加速する。本来【Donner】は斬撃加速、つまり、刃を振るうのを速くするための魄式だから、振るう腕が加速し、全身は副次的にちょっと速くなるだけだけど、今の状態に限って全身平等に加速の効果がかかる。なぜなら、今の私の体は刃そのものなのだから。卒業試験でも使った、2つの思いの重ね掛け、二重起動である。


めっちゃ辛くて、先の怪我が治りきってないのも合わせて痛すぎるけどね!


「ライニーさん!?」

「ばっ!また無茶を・・・!」

「無茶じょおおおとおおお!」


ガキンっ!


私に気づいたシリウスさんとロンさんに返答しつつ跳躍。加速の乗った右のパンチを1体の竜の鼻っ面にぶちかます。金属がぶつかり合ったような高い音を響かせながら、右腕が酷く痺れるのを感じながら、空中の我が身を殴った反動で後ろへ回転。【Donner】を解除して、次の魄式へ。


「>【Gewight】!」


"重い剣はその重みで叩き断てるだろう"という思いの【魂源魄式】を左足に乗せる。その効果は綺麗に斬るのではなく、叩き斬るような強引な斬撃。殴るのに重みがあれば、体に響き、吹き飛ばされるように、斬撃にも重みを持たせて、吹き飛ばすか、無理矢理断つ。


もっとも、地面に足を着いた一撃じゃないから、それほどの斬撃に効果があるなんて思っていない。


ガキンッ!


再び鳴り響く衝突音。その音にいい加減に鼓膜が破けるのではと思ってしまうけれど、私の体は狙い通り、シリウスさんたちの方に加速して落ちていく。


竜は微動だにせず、吐こうとしていたブレスをそのまま吐いたが、その一瞬前に【Klinge】を解除。ロンさん、シリウスさんに触れていて。


「今っ!」

「・・・≫【スパーセ、チャンゲ】!」


空間と転換の意味の幻語を告げたニフィルさんの幻法によって、私たちはニフィルさんの隣へと瞬間移動し、ドラゴンから離れることに成功する。ニフィルさんが行ったのは空間転移の下位版であり、物体を入れ換えるというもの。ニフィルさんがストックしているという携帯貯蔵庫1個と私たちの位置を交換したのだ。もっとも、下位版とは言え、難易度の高い術のはずなのだけれど。


「助かりました、ニフィル。ライニーさんは中心座標の役割ですか?」

「必要なことみたいだしね。殴ってどうにかできてたら幻法必要なかったんだけど」

「その場合、もう1体にやられてたからな。ありがとな」

「・・・私はライニーちゃんが竜を殴ることなく2人に触ると思っていました」

「「・・・」」

「てへ♪」


いや、ちょっと時間がありそうだったし?口には出さないけど。


視線を元居たであろう場所に向けると、竜がブレスを吐き終わったところだった。周囲は氷に覆われ、キラキラと光っている。綺麗だけど、少し遅れたらあそこで凍っていただろうと思うと、間に合って良かったと思える。


「はぁ、一難去ったから良しとするか」


私の無茶に1番耐性のあるロンさんはため息をつきながら言う。


「で?他に何か考えはあるのか?」

「骨なんだから、関節からバラしたらいいんじゃないの?」

「既に実施済みです。そして、駄目でした」

「竜の回復力は私たちの比ではないですからねぇー」

「自身の関節を凍らせて応急処置。そこから自然治癒で回復まで数十秒ほどですね」


竜がこちらを見ているのを気づきながら、対策を考える。後10秒も時間はないだろうけれど、ニフィルさんはロンさんとシリウスさんに治癒術をかけている。


「他の人も有効な手はなさそうだね。あの1体はどうやって?」

「動きを止めて、過剰なまでの斬撃を浴びせました。決め手はロイマンですが」

「見た目通りだったかぁ」


植物に絡まれているアイスドラゴン・ボーンリバイヴを見る。骨の至るところに切り傷があり、骨が掛けている部分もある。つまり、関節は問題ないけれど、それ以外はダメだと。でも、骨そのものが硬いから余程の威力がない限りはダメージにもならないと。


無茶苦茶な存在だと思う。けど、まぁ、倒せなくもないわけだ。シリウスさんとロンさんがやってのけたのだから。


「>【Echt】」


左右の鞘から剣を抜き、魄式をかけて硬さと切れ味を高める。魄気の両を多くして、効果も高めた。その魄気を魅力に感じてからか、こちらを見ていた2体の竜は駆け出してきた。


「>重ねて真にあれ」


さらに魄式を重ねる。剣としての本来の在り方を示すための魄式。魄気の量はやはり魄式が成立する限界量。2度の魄式の付加に刀身が軋む音を鳴らすけれど、恐らくこれでも竜骨を斬るには足りないだろう。


私はゆっくり竜に向かいながら、仲間から離れながら、左右の剣を左右に広げながら、切っ先を下に向けながら、3度目の魄式を唱える。


「>剣の意味を真に」


軋む音が再び、しかし、刀身には皹すら入らない。重ねた魄気の量は過去最高であり、刀身が赤熱を始める。


駆け出した竜との距離にほとんどなく、このまま何もせず進めば数秒で食べられることだろう。魄気を大量に有するこの体はさぞかし美味なのだろう。たぶん。


「さて・・・勝負!」


一瞬歩みを止めてから、並んで近づく竜のうち左側に狙いを定めて跳躍。竜との距離は一気に近づき、竜が口を開けるを見る。このまま食べる気なのだろうけれど、口の中に入ってはあげるけれども、そんな簡単に食べ切れる(・・・・・)なんて思わないで欲しい。


左右に広げていた2本の剣を前に向ける。そして、一瞬だけ思考を深く沈める。深く深く、時間の感覚すら忘れるほどに意識を沈め、行おうとしているのはニフィルさんに止めるように言われている魄式に幻素を加えること・・・ではない。それだけだと、竜の頭蓋骨を貫くところで止まるだろう。体が通るほどの穴を空けることはできないのだから。その後で竜の口は閉じることになり、私の体に牙が突き刺さるに違いない。・・・貫けずに噛まれたらなおのことカッコ悪い。


故に、狙うのは頭蓋骨に刺さると同時に内側から、厚さ何ミルメルドあるか分からない頭蓋骨の厚みの中から砕き、体が当たるだけで砕けるようにする。


普通の生物と同じ感じの骨であれば、骨の表面より内側の方が脆いはずなのだから。それができれば、解決策は何通りか思い付く。だから、その策が上手くいくように、瞬間に行おうとしている策を成就させる。


「≫【コルラプセ】」


沈んだ意識の中で、手が何かに一瞬突っ掛かる感触があった。そして、一瞬の突っかかりの後でそのまま突き進むのを感じ、私は意識を浮上させながら、"崩壊"を意味する幻語を唱える。剣を壊さないよう、剣を纏う魄式の上に層を重ねるイメージで幻法を上乗せする。魄式に幻素を加えるよりも難易度は低いけれど、かなりの精神力を必要とするその技術に確かな手応えを感じつつ、術を維持し続ける。


剣が突き進み、体が竜の口内を進む。体が入り始めた時点で竜の口は閉じられ始めているだろう。後戻りは出来ないし、する気もない。魄式も幻法もイメージが大事であり、私はこれが成功することを微塵も疑っていない。現に、3度【Echt】を重ねた剣は竜の骨を貫いたのだ。


浮上しきった意識で前を見ると、突き進み続ける剣が鍔へ辿り着く瞬間だった。これで"崩壊"の幻法が骨に染み込んでいなければ、私の人性の終了を意味する。竜の中で溶かされ、魄気を取り込んだこの竜は、周囲の竜より抜きん出て強くなり、ロンさんたちを蹂躙するだろう。故に、成功を信じてただ前を見る。


鍔が骨に当たる。

骨にヒビが入る。

止まることなく、骨を砕きながら鍔が突き進む。

そのまま、手も腕も骨の壁を食い破る。

そして、眼前の骨の壁に対して、目を守るために頭を突き出し、



直接的に骨を砕いた音が頭に響いた。



「つまりは成功ぉぉぉおおお!」


数秒ぶりに見る外の景色に、竜骨を突き破ったことが夢でないことを、現実であることを自覚する。景色は移動し続けており、肩、胸、お尻と微かな抵抗を感じていた。そして、抵抗がなくなった瞬間に足を引き、空中で姿勢を整え、着地。振り替えって結果を見る。




後頭部に人一人分の穴を開けたアイスドラゴン・ボーンリバイブ魂澱種が前に倒れる瞬間だった。




倒れた竜の向こうに唖然とするロンさんたちの姿を見て、


「これで"竜殺し"の称号を得たのかな?」


なんてちょっと調子のって言ってみる。聞かれたら恥ずかしいので、もちろん小声で。それに、まだ終わってないし。


この階の残り魂澱種は竜が3体。


ライニーがチートっぽい感じになっていますが、チートではありません。


単に防御を捨てて攻撃に全力を注ぎ込んでいるだけです。


チートは《蒼天司りし魔女の塔》の3階にいますんで(複数人)。

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