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2-06話

side:シリウス・メガ・プラネタル



今までいろいろな人と出会ってきました。その大半は僕が王族であることにしか価値を見出だしていません。魄気や幻素を用いる道具をいくら作ったところで、それを凄いと感じる人はいても、僕が開発した、というところには注目しないのですから。魄式や幻法の扱いを学んでいても、王族ということだけで、それを無駄だと蔑む者がほとんど。兄弟姉妹の全員ではないが、馬鹿な奴だと冷たい視線を送る身内は半数はいましたね。


それでも、魄式や幻法のことを学び、道具へと反映させ続けるのは止めることはありませんでした。王として学ぶよりも、楽しかったというのもありますが、それだけではなく、そもそもとして、王としては欠陥だと自覚していたからです。


僕は民を愛せない。


オステリア大陸に住む人々を、という意味でなく、リデオーラ王国に住む国民を、という意味でもなく、もっと単純にして少数。僕は僕が認めた人たちのことしか考えられなかったのです。だからこそ、シリウス・リデ・オーラ・アルディオ、という名前はほとんど名乗ることなく、術の研究にお世話になった貴族の名前を貰い、使っているのです。兄弟姉妹すら、どうでもいいとすら考えているのですから、人としても終わっていると思われるかもしれません。ですが、そんな他人の評価なんて気にも留めることはないので、関係なかったりします。


今、僕が気にしているのは3人。


1番はニフィル・カド・バーン・メディカルト。昔、魄式や幻法といった術の研究に意気投合し、かれこれ6年になりますが、今では無くてはならない人。ロイマンやライニーさんは気づいているかわかりませんが、男女交際中だったりします。とはいえ、あの2人ほどベタベタしませんし、甘い雰囲気も出しませんが。あの2人のその辺りは尊敬できます。真似はしませんよ。


残り2人は勿論、ロイマンとライニーさん。ライニーさんは知り合ってまだ、あまり時間は経っていませんが、人となりは大体把握できているつもりです。初めは僕のことを王族と知って萎縮していて、僕としても内心がっかりしていましたが、王族ではなく、地位の高さと人見知りが生んだ萎縮だったらしく、打ち解けてしまえば親しみ安い人だした。幼少の頃に体に起こっていた異常のことは聞いていましたが、そんな幼少期を過ごしながら、裏表なく真っ直ぐに生きているライニーさんは正直に尊敬できます。魄気や幻素の研究にも損得なく協力してくれるので、なかなか優しい少女だとも思います。


ロイマンに関しては、気付けば意気投合していたとしな言えませんね。ロイマン自身、僕のような研究好きというわけでもなく、知識があるわけでも、特殊体質というわけでもない。失礼なことを言えば、剣術の凄さを除けば平凡と言えるでしょう。ブレイリード仁爵の次男と言え、数ある貴族の1人でしかないのですから。まぁ、剣術以外で言えば、あまりに敬うことをしなさすぎるということぐらいですか。僕と初めて出会ったときも王族に対する接し方だとは思えなかったぐらいです。


何はともあれ、僕が親しめる3人とこうしてクランを作り、世界を回る冒険を目標にするのは僕としても楽しみだったりしますので、こんなところで躓きたくないのが、正直なところです。


「らっ!」



アイスドラゴン・ボーンリバイヴ。鱗がなく、大きくもないために、早々に決着をつけられると思いましたが、中々にしぶとい。骨の繋ぎ目は斬ることができるようですが、魂澱種となって斬られても問題ないようになったのか、斬られた端から斬られた所を凍らせて対処してきている。ロイマンを中心に他3名の冒険者が骨の繋ぎ目に攻撃し続けていますが、完全に断つことができているのはロイマンだけですね。本当に、剣術だけはレベルが高い。


「もっとも、僕の援護があるからこその芸当でもありますが!

>彼の者の刃にさらなる加護を!」


【魂源魄式】で空気を伝って風による強化を掛け直す。【刻印魄式】での強化も足したかったところですが、あまり足しすぎると剣にダメージが入るので、見極めないといけません。つまり、現状がベストと言え、しかし、竜を葬るだけの決定だがないということですね。


「だからといって、炎を使えませんね。さらに悪くなるでしょうし」


誰も炎の術を使おうとしないのは、アイスドラゴン・ボーンリバイヴが凍らせた他の魂澱種をこの場に放たれないようにするため。放たれてしまえば、せっかく均衡に保てているこの状況が掻き乱され、すぐに冒険者側が敗北と帰すでしょう。


かといって、相手は竜。生物の頂点に位置していながら、さらには、魂澱種という強化体。この均衡も長くは続かないでしょう。


「ってことで、僕がどうにかしないといけないわけですね」


魄気を大きくここで消費するのは良くないかもしれませんが、ライニーさんは己が傷を負うことも厭わず、あのような大胆な行動に出たのです。彼女より歳上の僕たちが頑張らなくてはダメですよね。


そう思い、【魂源魄式】を編む。僕の魂性の1つは"自然"。それ故に、風を起こせるし、こういう(・・・・)ことも(・・・)できます(・・・・)


「>種は発芽し大木と化す

>我が意に従い育て

>【大樹(Baum)成長(wachsen)】」


ローブの内側から幾つかの種を出し、それを地面に落とすと同時に、"育つ"意味の言魂を紡ぐ。種は銀鉄木という、鉄と同程度の硬さに育つものです。一度成長すると自然では曲げることはできませんが、【魂源魄式】で成長の方向を促せば・・・


「捕らえます!離れてください!」


杖を竜に向ける。その方向へと種は発芽し、根と枝を急速に伸ばしていきます。そのように念じながら魄式を唱えたから当たり前ですが。けれども、それとは別にもう1つのことを念じながら魄式を唱えています。故に、アイスドラゴン・ボーンリバイヴに向かう枝は、真っ直ぐではなく、奇妙な形を描きながら追いかけることになります。


それはそう。まるで(・・・)文字を(・・・)描くかの(・・・・)ように(・・・)


「っ!全員離れろっ!」


文字に気づいたロイマンは回りの冒険者に声をかけながら大きく竜から距離を取ります。もっとも、慌ててはいますが、少し演技が入っているのは長年の付き合いから僕はわかりましたが。他の冒険者はロイマンの慌てように距離を取り、だからこそ、僕は全力で、まずは1文字(・・・)使います。


「>【(Doppelt)(・Siegel)】」


幾つもの枝が伸びる中、枝によって描かれる4つの文字の1つを使い、【刻印魄式】を起動。アイスドラゴン・ボーンリバイヴは枝が延びてくるのに気付き逃げようとしていたみたいですが、それを許す僕ではありません。【(Doppelt)(・Siegel)】により、成長速度を加速させた枝は逃げようとした竜に追い付き、その体に絡み付いていきます。流石の竜の魂澱種も、身動きをとることができなくなっていき、ただの的へと化していきます。


そうなってしまえば、恐らくロイマンでも問題なく殺せるでしょうが、僕は念には念を込めて残りの3つの文字を使います。せっかく仕掛けたのだから、当たり前ですよね?


「>【(Schwach)(・Siegel)】強制付与

>並び、【(Sturm)(・Siegel)】【(Schneiden)(・Siegel)】並列稼働」


枝が描いた残り3つの【刻印魄式】を使い、アイスドラゴン・ボーンリバイヴの耐久力を著しく下げ、その上で、鎌鼬の竜巻を竜を中心に発生させます。それによって起こるのは、骨だけの竜が繋ぎ目の氷ごと切り刻まれる現状。恐らく、これでは倒しきれないでしょうが、致命傷にはなったはずです。



僕の得意とするのは魄式。それも、1つではなく、【魂源魄式】と【刻印魄式】の2つを臨機応変に使うのを得意とします。そのおかげで、幻法はいまいちですが、そちらはニフィルの担当なので大丈夫でしょうし、少しぐらいなら使うことはできます。【刻印魄式】は10数種類使うことができ、【魂源魄式】においては"自然"の魂性を中心に使うことができます。ライニーさんもそうですが、基本的に使える魄式は1種類と言われていますが、熱心に取り組めばこの通り。2つ使えるわけです。まぁ、世界的にも数えれるほどしかいないようですが。殆どの人は研究に対する熱心さが足りないのでしょう。全くもって不甲斐ない。


そんな思いは気にすることなく、囚われの竜に対して放った術の効果が切れました。嵐は過ぎ去った後には傷だらけの骨竜の姿だけが残ります。それは僕の狙ったことであり、フラツイテイルその隙を逃すロイマンではありません。ロイマンは避難していた場所から術が止むと同時に移動し、竜へと近づきます。もちろん、片手にはしっかりと剣を握って

いて、僕がつけた強化魄式が残っているわけで。


「>乱撃に沈め!

>【雷速加速(Donner)】!」


ロイマンが瞬時に加速し、それより早い加速度をもって剣を振るいました。何度振ったか、僕の目には映りませんが、ロイマンご動きを止めて一瞬後、枝を避けるように斬られたアイスドラゴン・ボーンリバイヴは、数十に分割され、そこから復活することなく、動かぬ骨と成り果てました。


つまり、私たちの勝利です。


「まずは1体!・・・っ!」

「君も無茶をし過ぎですよ。ライニーさんには何も言えませんね」

「だから、何も言ってなかったろーが」


まぁ、確かに。心配してるとは言っていましたが、怒ったりはしていませんね。服に隠れて見えませんが、恐らく肩と肘、手首を酷く痛めているのでしょう。腕を動かそうとしないので、相当なものなのか?普段なれない速度で剣を振ればそうなりますよ。


ロイマンに背中に【(Heilung)(・Siegel)】の紙を貼り付けておきましょう。


「気休めですが、3分経てばマシになると思います。そこまでは動かないでください」

「・・・そう言ってられるかなぁ」

「無理ですけどね」


ロイマンは振り返り、僕は杖を構えて正面を見ます。そこには、十人の冒険者が息絶えた光景をバックにこちらに牙を向けるアイスドラゴン・ボーンリバイヴの姿が・・・2体。


「さて、どうしますか」


魄気、あまり残ってないのですが。



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