2-02話
9/30(土)に短編小説投稿しました。
よろしければご覧ください。
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side:ライニー・フォン・シュベルトヒルト
リデオーラ王国ホルニヒス、シュベルトヒルト領。私の地元に帰ってきて5日。冒険とは程遠い状況になってしまったけれども、さすがに、地元が危機なのを知って放っておくことはできない。まぁ、ちょうど挑戦しようとしていた遺跡なのだけれど。
人型の魂澱種。
初めて確認されたのは100年ほど前らしい。他の大陸で発見されたその魂澱種は一国を滅ぼすほどの被害を出した後、自壊したと記録されている。その魂澱種も動物や昆虫の魂澱種を集めていたらしく、その上で自分の性質に塗り替えたとか。
他の大陸の状況などはほとんどの人には知れ渡ることはないため、郷爵の親を持つ私も詳しく知らない。王族であるシリウスさんやニフィルさんも同じく詳しくない、とのこと。だけれども、詳しい詳しくないはさておき、人々が戦慄したことは確かであった。なぜなら、想定していなかったから。
まず1つ。動物や昆虫、物が魂澱種に堕ちるのは当たり前のようにわかっていても、人がそうなるとは思っていなかった。霊人も獣人も妖人も竜人も。誰も彼もが堕ちるわけがないと思っていたのだ。
そして、2つ。人が魂澱種と成った際の支配力。同種の存在が魂澱種となった場合、稀にだけれど上下間系が成り立ち、一方が一方の言うことを聞くようになる。先日道中に出会ったチェイサーウルフの魂澱種の群れは恐らくこのパターンではなく、単なる生存本能の残り、集団行動の本能が残っていただけだと思う。けれど、人が魂澱種となって得た支配力は馬鹿にできない。。どんな種の魂澱種も言いなりにさせるのだから。もちろん、法則はあると思うけれど、誰1人としてその法則を見破れた者はいない。
この2つの事柄で人々は恐怖したのだ。明日は自分が魂澱種になるかもしれない。扉を開けて数多の魂澱種に襲われたらどうしよう、と。
100年前に確認されて以来、時折現れる人型の魂澱種。それが地元に現れるとはなんとも運がない。そして、運がないと嘆いたところで始まらない。まずは遺跡《蒼天司りし魔女の塔》の攻略とカグチ・ナラクや他の魂澱種の対策を考えないといけない。だから、ブレイリード領にある冒険ギルド・ホルニヒス支部から配られている報告書を読んだのだけれども・・・1つ聞きたい。
「魔神って?」
「今の発言はリデオーラ王立学園の授業をサボっていたかわかる発言でしたね」
ボソリと呟いた言葉を斜め前に座るシリウスさんに拾われてしまった。
「いや、授業は聞いてたよ?これでも学園トップクラスの頭脳だよ?」
「一夜漬けしていたのはロイマンから聞いていますよ?」
何を言ってくれてるのだろうか私の恋人は。そう思って隣の席を睨むと呆れた顔を向けられた。
「魔神は数千年以上生きてるって言われてる奴らだよ。『摩訶不思議な神のような存在』から付けられた名前だな。9人いるらしいが、確認されているのは2人だけだったか?」
「9人って言うのも彼らが自ら言っただけですからね。もっと少ないかもしれませんし、反対に多いかもしれません」
「オステリア大陸に住んでいたと言われてますので、どこの学校では必ず習うですが・・・ライニーちゃん?」
・・・マジか。いや、言われてみれば微かに授業で習った記憶がある気がする。けれど、なんだっけ?確か、習っていたときに思ったことがあったんだけどなぁ。なんだっけ?
「まっ、将来挑む相手として今覚えておくね」
「「「・・・」」」
自分から話を変えておいてなんだけど、今は目の前のことを考えるべきだった。カグチ・ナラクは勿論のこと、厄介な存在が何種類かいる。その魂澱種を討伐せず、カグチ・ナラクを討伐した場合、支配から離れてしまえば恐らく暴走するだろう。シュベルトヒルト領主の娘として、街を危険に晒すのなんてもっての他だ。
「竜の魂澱種にスライム、ゴーレム。私としてはこの辺りは確実に討伐しておきたいんだけど」
「また厄介なもんばっかり言うな」
「そりゃね。私たちで厄介と思うなら、ここに住む大半の人は逃げるしかないってことでしょ?」
何も自分が誰よりも強いなんて思わない。学園の卒業試験で負けたように、私以上の人たちなんてそこらにいる。だからといって、その人たちに任せる、というのは私の中にはない。そういう人たちは恐らくカグチ・ナラク討伐に全力を出すように言われているはずだ。いや、ランクの高い冒険者は、と言い換えた方がいいかもしれない。
残酷かもしれないけれど、人型の魂澱種を放っておくことの被害よりも、その他の魂澱種を放っておくことの被害の方が少ないと誰もが思えるのだ。だから、父様はギルドや王国への要請にこう伝えたのだ。
『人型の魂澱種を発見。討伐を求む』
街の被害よりも国への被害を軽くすることを優先したのだ。そして、シュベルトヒルト領に住む人々は不満を漏らさない。民のことを第1に考えるシュベルトヒルト領主がそう判断したのなら仕方がない、と。
「父様の決意も街の皆の覚悟も私は誇らしい」
だからこそ、死なせてはならないと強く思うのだ。
世界中で上位に君臨する竜が何だと言う。
核を壊さねば再生・増殖し続けるスライムがどうした。
環境が整えば不滅と言われるゴーレムなんて知ったこっちゃない。
「私が理想とする私は護るための強さを誇る戦闘狂。それが叶えられる条件は私の中にあると、私自身が強く信じてる」
神秘の探索もその1つの手段だ。趣味であり楽しむためでもあるけれど、1番に望むのは私も私以外も、私が護りたいと思う全てを護るための強さを得るために。幼少死にかけ続けた私はこうして行き続けているのだ。
そんな私の独白をロンさんたちは黙って聞いていた。そう静かに聞かれると恥ずかしく思っちゃうんだけど。
「ライニーちゃんの思いはわかりました。心に響きました」
「私も同じくです。ロイマンから聞いていましたが、本人の口から聞くと思いの強さを実感します」
「「でも、魔神に挑む姿勢はおかしいと思います」」
私の独白に感動した風だったシリウスさんとニフィルさんは声を揃えてそんなことを言ってきた。ロンさんが何も言わないのは私の思考がわかっているからか。まぁ、長い付き合いだもんね。
魔神に挑む姿勢も私の中では全くおかしくない。なぜなら、
「護るための強さなんて制限ないでしょ?」
「「・・・」」
「2人とも諦めろ。こいつの狂いを考えたらきりがないぞ」
「えっへん!」
「誉めてない」
誉められていなかった。いや、わかってたけど。
「とりあえず、話を戻そう。いつの間にか脱線し過ぎてる」
「・・・そうですね。魂澱種への対策を考えましょう」
「・・・はい。討伐隊に参加することも念頭に置かなければなりませんね」
「あと、遺跡の攻略もね。罠があるなら魂澱種を引っ掻けたらいいし」
ようやく話が本来の方向へと向く。考えることはいっぱいだ。基本直感頼りが多い私としてはなかなかの頭脳労働だけれど、ここは頑張らないといけない。単純な戦力で全てのことが収まるなんて、私も考えていないのだから。
目の前の机に広がる魂澱種の元となる生物の特徴が書かれた図鑑や分かっている《蒼天司りし魔女の塔》内部の地図、ギルドから配られた報告書を見て私は、いや、私たちは気合いを入れた。
20分後。
「そういや、一夜漬けもなかなか苦労してたな。こいつ」
「王家が運営する学園の卒業生とは思えない光景ですね」
「魄式も幻法も頭の回転は必要だと思うのですが・・・」
ロンさん、シリウスさん、ニフィルさんの順に告げられる。その視線の先には頭から湯気を出している私が机に倒れている姿が写っているに違いない。
強さを望む決意を改めて口にしたところで、私のポンコツな脳みそは複雑な思考には耐えられないのだった。




