2-01話 《蒼天司りし魔女の塔》と“多言の堕澱鬼”
2章スタート。
報告書
1 カグチ・ナラク(以下、対象Aとす)に関して
霊人カズ・カグチ(以下、対象Bとす)の魂澱種。
調査中において、シュベルトヒルト領内にある遺跡《蒼天司りし魔女の塔》2階におり、様々な魂澱種を集めつつあり。
皮膚は青黒く染まっており、全身には赤黒い皹のような模様が全身に刻まれている。定期的にその線が鈍く光るのが確認されているが、意図は不明。
体長は2.3メルドほどで細身。髪は赤く短い。人本来の口の他に、額にも同じ大きさの口があり、両目も口となっている。また、対象Aの回りには直径3セルメルドほどの球体が旋回しており、その球体には目と口があることが確認されている。全ての口の中には歯があるものの、歯の形は全て霊人と変わらないように見えることから、肉食系生物のような補食行為は少ないと考えられる。
対象Aは調査中に独り言を呟くことがあったが、その声はいくつもの声が重ねっていた。また、同時に同じ内容を話している時もあれば、別々の内容を話していたことから、複数の魄式・幻法を使う恐れあり。
Bランク冒険者6名の調査隊にうち、帰還できたのが2名のみ。その帰還した冒険者から4名の死亡は確認されており、死因は斬られたことによるものだと判断しているが、何による斬撃かは不明。
時間が経つほどに魂澱種が集まっているため、早急に討伐すべき対象である。
2 カズ・カグチについて
リデオーラ王国首都ルクオンに暮らす23歳男性。20歳まではリデオーラ王立学園に在籍していたが、卒業を前に中退。入学当初は優秀な成績、同学年ではトップの戦闘技術を有していたが、在学3年目から成績・戦闘技術共に落ちていき、4年目の入る頃には学年最下位まで転落。中退の理由としては卒業できないと諦めたからだと考えられる。
出身はリデオーラ王国の南西、ノスターン仁爵が治める領であるメイシェクタ。両親および、周囲に住む人々から対象Bについて尋ねた所、幼い頃から大人びた人物だった、とのこと。不思議な単語を口にしたり、誰も知らない道具を作ったりと、異端児であったとのこと。また、魄式・幻法には幼い頃から関心を持っていたらしく、入学前には【文化語式幻法】を扱えていたとのこと。ただし、幻素吸収量は小さかったため、連続での幻法使用はできなかったようである。
周囲には自分のことを『神に選ばれた特別な存在だ』『転生者で知識は生前のもの』『将来は最強になるのを約束されている』などと語り、大きな態度で接していたため、友人の類いはいなかったとのこと。また、上記のような話していていた内容は近年現れている“古代返り”と同様であることから、対象Bも“古代返り”であると考えられる。
“古代返り”の特徴としては、上記の内容を口にしている以外に、幼い頃から大人びている、誰も知らない知識・言葉を有している、などがあり、これも対象Bに合致している。さらに、幻語をエイゴやイングリッシュと言う、幻語の発音を間違える、【刻印魄式】で用いられる文字を習っていないのに書ける、などの特徴が時折見られることがある。
【刻印魄式】においては、魔神の1柱“刻印の魔神”に話を聞くことができ、1万年以上昔に一部の地域で使われていた文字であることがわかったため、“古代返り”の判断材料の1つとして扱えると思われる。
3 遺跡《蒼天司りし魔女の塔》について
リデオーラ王国の街の1つホルニヒスにある遺跡の1つ。ホルニヒスには遺跡が複数あることから、ホルニヒスを治める貴族の1つ、シュベルトヒルト郷爵領の遺跡と呼ばれることがある。正式名称は《蒼天司りし魔女の塔》。
《蒼天司りし魔女の塔》は7階建ての円柱型をしており、十年前に魂澱種の大量発生、通称、スタンピードが確認されており、ホルニヒスの貴族たちと冒険ギルドで早期解決している。
遺跡の頂上に到達した者は現在おらず、飛んで屋上から侵入しようとした場合は防衛機能が働き、魄式・幻法の一切を使うことができなくなった上で撃ち落とされる。最高到達階は5階。到達したのはSランク冒険者ウェルニー・シェイカン率いるSランククラン《戦場駆ける義軍》の中でも精鋭30名。この報告書作成時までに話を聞くことはできずにおり、現在も話を聞くためにウェルニー・シェイカンたちを探索中である。
4 集結している魂澱種について
チェイサーウルフ
・・・狼の一種。獲物を追いかけることに特化した狼で、集団行動する。何も追いかけずに走るよりも、追いかけて走る方が何倍も早いという性質を持つ。本来は体長60セルメルドぐらいだが、集結しているチェイサーウルフは2~3メルドほど。本来の明るい茶色の毛並みは黒く染まっており、額からは角が映えている。
ステルスモンキー
・・・猿の1種。姿を消すことができる猿で、猿の中では積極的に他の動物を狙う凶暴な動物である。姿を消して獲物を襲うが、足音や匂いまでは消せないのが本来だが、魂澱種となってそれらも消せるようになっていることが確認されている。常に消えているわけではないので、不意討ちで討伐するのが1番の手段と考えられる。
ブラッディスライム
・・・スライムの1種。血を吸うことで生きるスライムで、自身の液状の体を尖らせて硬め、まとわりついたついた所から突き刺し血だけを空いとる。このスライムに関しては元々危険生物であり、魂澱種となってもその特徴は変わらない。
アイスマンティス
・・・カマキリの1種。本来は5セルメルドほどの大きさの昆虫で、手の鎌に冷気を纏って獲物の動きを鈍らせて狩りをするのだが、魂澱種となって体長は1メルドに達しており、鎌の冷気も斬り合えば凍らされるほどの威力となっている。
アイスドラゴン・ボーンリバイヴ
・・・竜の1種。死したアイスドラゴンが骨となって復活。この現象は竜に時折見られ、一説には死んでいたのではなく、寝ていた、気絶していただけとされているが、真実は定かではない。元々骨となって蘇った竜は耐久面では弱くなるが、魂澱種となって骨になる前と同じ耐久度になっている。
アイスゴーレム
・・・ゴーレムの1種。氷を元に作られたゴーレム。対象Aが作り出したと思われる。魂澱種ではないが、対象Aの討伐に置いて敵と判断できるため、ここに記載する。特徴としては水があるところでは自身の体積を増やすことがあるのが確認されている。
他にも複数の動物の魂澱種がいると思われる。対象Aの討伐組は注意されたし。
また、《蒼天司りし魔女の塔》本来の防衛機能も念頭に置いて行動すべし。




