1-08話
side:ライニー・フォン・シュベルトヒルト
新しい義眼には名前をつけているらしく、エクスマキナ、という。シリウスさん曰く、古代文明の遺物にあった名前だそうで、意味は“機械仕掛け”とのこと。意味はともかく、名前はちょっとカッコいいと思う。そんな義眼『エクスマキナ』の機能の1つ。魄気の蓄積と放出を自分の意志で行い慣らしている際にふと思い出した。
「ロンさんロンさん」
「ん?どうした?」
ちなみに、シリウス様とニフィル様は使っていた義眼を分解して何やら議論しており、ロンさんは剣の手入れをしている。十分綺麗に磨かれているとは思うけれど、きっと暇だから続けているのだろう。
「私たちが作るクランに入る予定の人たちって、シリウス様とニフィル様のことだよね?」
「そうだな。2人とも承諾してくれてるし、研究馬鹿のところはあるが、頭が回る奴らだから俺たちの穴は埋められるぞ?」
「あー、うん。頭が回るのはわかるし、仲間に入ってくれるのは嬉しいんだけど、王族の人たちって冒険者やってもいいの?怪我とかしたときに問題にならない?」
心配なのは権力による支配。王位継承権がなくなってるといっても2人は王族なのだ。身代金目的とかで王族を狙う野盗なんかは返り討ちにした挙げ句に、国の警備とかに渡せばいいから問題ない。けれども、国のトップから圧力がかかって不利になるのは力業で解決できないから困った話になる。さらに言えば、どこかに冒険に出たとして、シリウス様やニフィル様が王族だからと冒険者にそぐわない待遇を受けるのもなんだか嫌だ。
そんな懸念をロンさんに聞いたのだけれど、返答は別のところからあった。
「心配入りませんよ」
シリウス様だった。こっちの話は聞いていたらしい。
「僕もニフィルも、親には自己責任で庇護下から出ることは告げています。一筆書いてもきていますね。あと、冒険者登録は偽名で行っていますし、ギルド自体、例え王族が相手でも権力に屈することはありませんから。あくまで、この大陸の、という話ではありますが」
「ニフィル様も?」
「私は“ニフィル”という名前だけで登録しました。もともと獣人は名前を大切にする種族なので、偽名を名乗るのは嫌だったので」
初めて知ったけれど、身元がはっきりわかっていれば偽名で登録してもいい、とのこと。本名であれ偽名であれ、身元から登録者の人となりや犯罪歴などが調べられるため、怪しければ後日呼び出し、最悪の場合は登録抹消の上で警備隊に連行されるらしい。
「俺ら全員Cランクでクラン未所属。ライニーは冒険者になったばかりでEランクだが、実力的にはCランクは普通にある。まぁ、猪突猛進的なところがあるから連携の問題はあるだろうけどな。それなりにバランスの良いクランにはなるな」
「今まで誘われたことないんですか?」
実力が伴っているなら他のクランから誘いはあったはず、と思い聞いてみる。すると、シリウス様とニフィル様は苦笑し、
「身元がばれたときのことを考えると簡単には誘いには乗れませんよ」
「腐っても王族ですから。玉の輿とか思う人たちはどうしてもいるのですよ」
と言い、本当かとロンさんに目を向けると、
「9割方は、こいつらの研究馬鹿さ加減に引いたからだな。誰も進んで実験台にされたくないだろ?」
実験台にされる可能性があるらしい。いや、義眼のことを考えれば既に実験台にされているのかもしれない。
とは言え、ああだこうだ言ったところで仕方ない。良い義眼を作ってくれているし、今後もさらなる義眼を作ってくれることを期待しよう。それに何より、バランスの良いクランというのも嬉しくはあるし、我儘を言って今からメンバーを集め直すのも時間がかかって冒険が遠ざかる。それは嫌、というか勿体無い。
まずはこのクランで楽しむ。そう考えて、ふと思い出したことが1つ。ロンさんを通して私のことを知っている、ということだけれど、私自身が自己紹介をしていなかった。
「まっ、この4人で冒険するのは決定だよね?私はライニー・フォン・シュベルトヒルト。リデオーラ王立学園を卒業したばっかりの上、昨日冒険者になったばかりの未熟者ですけど、これからよろしくお願い致します!」
† † † †
それから数日間、親に顔を出すのと一度遺跡に潜ってみる、という話になり、冒険に出る準備を整えた。薬草やら地図、装備、保存食を買い揃え、さらに、運搬用の馬車を購入。それら資金は4人で出し合い、冒険に出る前日にクラン結成の祝杯を上げてスッカラカン。道中に魂澱種でも狩らないと、ずっと文無し野宿、と思った。そう、過去形。
何を思ったか、学園で勉学に励んでいるはずの弟が帰郷すると言って、ギルドを通して私たちのクランに護衛の依頼をしてきたのだ。学生なのであまりお金が出ないこと、知り合いの方が依頼主も安心するだろう、ということでギルドは指命依頼をすんなり承諾し、私たちも向かう先は同じなのですんなり承諾。
ってことで、クラン《天の郡星》の第一歩である!
「で、姉上はなぜそんなにやつれてるのですか?」
私の弟にして護衛対象、ホノルカ・フォン・シュベルトヒルト。2歳下の末弟はぐったりとする私にそう言葉をかけてきた。
「いやぁ、慣れないプレッシャーというか、開き直る前段階というか・・・察してよ、ルカ」
「オレたち家族の誰も姉上の考えを察することなどできませんよ」
ため息をつくルカに私もため息をつく。だって仕方ないじゃないか。王族2人を巻き込んでクランを作ったのはいい。ここ数日で王族といってもただの人だと理解したし、地位や年齢など無視してタメ口で話せるようにはなった。これは大いなる成長だと私は私を誇りに思う。だけどさ、昨夜唐突にだよ?
自国の王様と隣国の女王様と謁見することになるなんて誰が考える!?
クラン結成の祝杯を上げ、シリウスさんやニフィルさんと別れた後、ロンさんの借宿に戻ってきた。そして、私がドアを開けた部屋の中を見て絶句。そこには本来こんな所にいないだろう、リデオーラ王国の国王、ギリオン・リデ・オーラ・アルディオと、隣国カドバーン王国の女王、クレナ・カド・バーン・メディルカルトがいたのだ。
今が何代目の国王とか覚えてないし、このときは王様の名前も忘れていた私は、しかし、直感的に現王本人だと気づき、さらには、ロンさんが冷静だから仕掛人だということにも察することができた。
慌てて頭を下げる私を2人は制し、軽く言葉をロンさんと交わした後、私にシリウスさんとニフィルさんのことをよろしくと言われてしまった。どちらというと、お世話になるのは私だと思うのだけれど、研究馬鹿な性格のことだと気づいてしまい、否定の言葉を飲み込んだ。それはそれで失礼だろうけれど、すでに打ち解けている私には些細な問題だった。
というか、突然国のトップが現れたのだから精神的余裕がなかった。
シリウスさんとニフィルさんと知り合いだからか、ロンさんは特に緊張する様子もなく、王様たちと話し、10分ぐらいで王様たちは護衛と共に帰っていった。その間、私は何も喋るとこができず、帰られた所で力が抜けて気絶。朝起きて、ロンさんとシリウスさんとニフィルに文句を言った後、ルカと合流し、出発して今に至る。
「姉上は妙な所で地位を意識しますからね。普段の戦闘狂の度胸は何処に行ってるのですか?」
「そんなの私が聞きたいよぉ!」
弟が慰めるどころか、苛めてくるせいで泣きそうだ。話題を変えないと。
「が、学業はどうのかな!?」
「姉上の狂いっぷり被害者代表として、先輩方から、いろいろと教えて貰えてますよ。最近は誰かさんが残した不要な物を買い取ってくれる方々がいて助かっています」
「うわあああん!弟がイジめるぅ!」
「普段から虐められてるのオレですよ。これまで姉上にされてきたことを話しましょうか?我が家に帰るまでの暇潰しになりますよ?」
「いらないよ!そんな暇潰し!」
ルカをイジめた記憶なんてないけれども、雰囲気からしていろいろと言われそうだったので断った。昔可愛かった弟は何処に行ったのだろうか?
「ロンさんもよくこんな姉上と付き合うとしますね」
そんな話をしていると、同じく馬車の中にいるロンさんにルカが話をふった。ちなみに言えば、シリウスさんとニフィルさんは外で馭者をやってくれている。休憩を間に挟んでロンさんと一緒に交代する予定だ。
「ん?まぁ、突っ走るところとかは少し治して欲しいとも思うけどな。けど、こいつにはその無謀さを覆い隠すぐらい良いところがあるからな。その良さに助けられて、お前も学園に通ってられるんだろ?」
「・・・まぁ、姉上の意外な優しさとかはオレも、といいますか、家族全員が知ってることですから。5男のオレが不自由なく学園に通っていられるのも姉上の援助があるからですし」
「5男なんて地方の学校に自力で入るか、独学で学ぶぐらいだもんなぁ。貴族なんて長男、次男がいれば後継ぎ確定で、他はどうでもいい、というのが一般的だしな。まして、自分で稼いだ金を無償で家族に与えるなんて、笑い話にされるレベルだな」
「オレの家はそこまで殺伐としていませんけどね。まっ、姉上に毒気を抜かれているかもしれませんけど。・・・そう考えるとつくづく姉上が素晴らしい存在になりますね。普段は戦闘狂なのに」
「返さんからな?」
「幸せにしてあげてくださいよ?」
「ごめん恥ずかしすぎるからやめてお願いします誉め殺しはやめていや最後の方誉めてないかもしれないけどこんな近くで誉め合わないで恥ずかしいから顔から火が出そうだから・・・」
馬車移動がツライ!
クラン《天の郡星》始動!
ようやくタイトル通りに・・・
クランの意味?
天に浮かぶ星々のように、光輝き憧れる存在になるように。また、冒険者としてクランとして頂点になれるように。
そんな願いから名付けられたクランです(急遽考えた裏設定)。
ヒメル himmel
・・・魄式の言語、通称、言魂で“天、天空”を意味する。
現実のドイツ語。
スタルス stars
・・・幻法の言語、通称幻語で“星”を意味する単語の複数系。
現実の英語をローマ字っぽい読み方。




