1-07話
side:ライニー・フォン・シュベルトヒルト
オステリア大陸には4つの国が存在する。
霊人、身体的にも能力的にも種族としての優位性がない種族が主に暮らしているリデオーラ王国。
獣人、獣の特徴を持ち、身体能力が高い種族が主に暮らしているカドバーン王国。
妖人、妖精が進化したされ、高い幻素適性を持つ種族が主に暮らしているアステリオン王国。
竜人、竜に魂の一部を譲り受けた者やその血縁であり、高い魄気適性を持つ種族が主に暮らしているディムナート王国。
この4つの国は小さないざこざはあるものの、他の大陸から見れば異常なほどに仲の良く、交流は頻繁に行われている。年に数回は4ヵ国の騎士団の合同訓練や展覧会などのイベントが行われる。国境はあるものの、特に制限しているわけでもないし、1か国で厄介な魂澱種が現れたなら、簡単に兵を派遣し、素で『困ったときはお互い様』と言い合える仲である。他大陸だと種族の違いで奴隷制度や差別があるらしいから、それは冒険の際に見ることになるだろう。おそらく、私は回りの反応をおかしく思い、困った側に手を差し伸べて厄介なことに巻き込まれてしまうと思う。けれど、それは将来起こるかも知れない話だから、今は脇に置いておくとして。
4つの国は“王国”である。つまり、トップには王族がいるのだけれど、その血脈な何世代も耐えることなく続いている。
リデオーラ王国はアルディオ家
カドバーン王国はメディルカルト家
アステリオン王国はユスティト家
ディムナート王国はタノファッシェ家
今の国王が何代目かなんて覚えてはいないし、今の国王の名前もぼんやりとしか覚えちゃいないけれど、国王の血脈の名前ぐらいは覚えている。だからこそ、私は気絶したのだ。
だってそうでしょ?こっちは爵位的には王族から数えれば5つも下の郷爵家。仁爵であるロンさん家の爵位でもおいそれと会えない王族家が目の前にいるのだ。そんな人に対して私は何をしたと思う。
手を煩わせ(右手の治療)、
胸をガン見し(セクハラ)、
胸を揉ませて欲しいと思った(セクハラ)。
胴から首上さようなら、なんてことになってもおかしくない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
目を覚まし、目の前にニフィル様が居た途端に私は謝る。もちろん、土下座の姿勢で。
「あー、ライニーだったら地位とか気にしないと思ったんだけどな」
「同じ貴族だったら気にしないけど王族は別でしょう!?だってあれだよ!?王族だよ!?王族なんだよお!?」
「特に意味はないんだな」
むしろなんでロンさんがそんなに平然としていられるのかわからないんだけど!?
「まぁ、俺はこいつと昔から付き合いあるからなぁ」
頭を少し上げると、ロンさんが親指で指す先にはシリウスさんがいる。
「シリウス・メガ・プラネタル改め、シリウス・リデ・オーラ・アルディオです。広めないでくださいね」
にこやかに頬笑むシリウス様が
「ロンさああああああああああああああん!」
「うるさいうるさい。わかったから、泣くな叩くなとりあえず落ち着けよ」
「だってだってだってロンさんが最初から・・・言って・・・くれても良かったのにぃ」
立ち上り一目散にロンさんを殴りに行った私だけれど、いとも簡単にロンさんの抱き締められ、暴れてもロンさんの腕から逃れることができず、温もりとか匂いとかでなんか落ち着いてしまった。愛しい人にはチョロい私だった。
とりあえず、ロンさんの腕の中にいたまま体を反転させて、シリウス様とニフィル様の方を向く。
「なぜ王族の2人がここにいるのですか?」
「王族と言っても、僕は7男、ニフィルは6女。王位継承権があるだけの厄介な存在なので、城を出てやりたいことをやるためにここにいるのですよ。ニフィルとは研究内容で意気投合しましてね。かれこれ6年は経ちますか?」
「それぐらい経ちますねぇ。4カ国会議でたまたま意見を交換をしただけだったのですが、今ではお互いに両親が将来を認めてしまっていまして。王位継承権もほぼ消失したと思ってもいいとも思っています」
「・・・・・・」
シリウス様もニフィル様も答えてくれるのはいいのだけれど、不穏な単語は混ぜないで欲しい。王位継承権ってそんな簡単に消えるもんだっけ?いや、王族のことなんて全然知らないけどさ。
「ライニー、気にしない方がいいぞ。さらに言えば、お前の義眼はシリウスが作った物。つまり、王子が手塩にかけた作品だぞ?それだけで価値あるのはわかるだろ?今日受け取る新しい義眼なんて、二人の王族の合作の上、恐らくは世の中にそうない代物のはず」
「・・・・・・眼帯買ってくる」
「ダメですよ?義眼の意味がないではないですか」
「性能評価もしたいので、是非とも使い心地を聞かせてください♪」
でも、私、命、惜しい。
「では、右手の治療もできていますし、ライニーさんも起きましたから、さっそく義眼を取り替えますか」
「今ライニーちゃんがつけている義眼は普通に見るのと魄気を貯めるだけですよね?」
「はい。性能は以前に資料で見せたものです。いやー、使い勝手の悪いものをずっと使わせて申し訳ない気持ちですね。なので、今回は持てる技術を全て込めさせて頂きました」
「今回は魄気も幻素も対応しているから楽しみにしてくださいね」
「できれば、使っている最中も装置を取り付けて評価したいところですが、それだと日常生活にも戦闘にも悪影響がでますから。ライニーさんの感想が大事になります」
「こちらでもアンケート用紙は準備していますが、生の声の方が大事だと思いますので、私たちが記入しますね。どんな些細なことでもおっしゃってください」
「できれば無茶なこともやっていただけると有り難いですね。性能や操作方法はもちろん説明致しますが、それ以外にやってみたいことがあれば、僕らに言ってくださいね。検討した後に、危険だと判断した場合は治療準備が必要になりますから」
「仮に壊れても代わりの義眼は複数準備していますから。安心して使い潰してくださいね♪」
「「早速実験を始めましょうか♪」」
グイグイと私に顔を近づけながら喋るシリウス様とニフィル様。私は率直に告げた。
「助けて、ロンさん」
「おう。さすがにヤバイわ」
その後、ロンさんのアイアンクローに悲鳴を上げたシリウス様とニフィル様は正気を取り戻し、ちゃんと新しい義眼の説明をしてくれた。いろいろと機能が増えたけれど、結局のところ、私が制御できなきゃ使えない、ということだけ今は覚えて、無事に義眼を取り替えた。
どうでもいい話だけれど、今までよりもクリアになり、視界に左右の違和感はなくなり、2人に感謝しようとしたけれども、取り出した義眼についてあれこれ熱中して話している2人に、そんな感謝の念も薄れてしまった。そして、ロンさんと2人、こう思うのだった。
王族がみんなこんな人たちではありませんように、と。
普通の王族だと面白くなかったし!
研究馬鹿の設定は作者本人予想外だけどな!
数話前書いていた構想ではここまで馬鹿ではなかったのにねぇ。




