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[ログ:1116]Yes, 幻獣クリニック

 僕は今日も、誰が読んでくれるかも分からないブログを、誰が使っているかも分からないインターネットに書き込んでいる。


 情報は、日経新聞のいう通り、信頼性第一なので、みんな「バベルの図書館」で引き出すから、今やネットを使っている人、少ないよな。


 でも、もしかしたら今日から初めて読む人がいるかもしれないので、そういう人に向けて書きます!しかも、仮想現実世界「XenoTerra〈ゼノテッラ〉」を体験したこと無い人にも読めるように!


 それもあるけど、僕が期待しているのは、何十年か後の人が見つけてくれるかもしれないということ。


 でも、それが僕と生物学的に繋がりのある方でしたら、心の底からごめんなさい。お爺ちゃんは、今日も元気に建設的でない時間の使い方をしてるんじゃよ。


 まず、自己紹介。


 僕の名前は、イズル。職業は、幻獣医。仮想現実世界にいる幻獣たちと心を通わせて(少なくとも、僕はできていると思っている)、彼らの傷病を治療するお仕事。


 なので、人は僕のことを「ソロモン王」と呼ぶ。コンラッド・ローレンツ博士の『ソロモンの指輪』でも紹介されている、あのソロモン王!


 しかし、僕の孫諸君は聡明なので、こう思ったことだろう。「RPGゲームの世界なら、戦って負った傷は呪文で治せばいいんじゃね?」と。


 いや、そうとは限らないケガも世の中にはあるわけで。たとえば、可愛いペットのゾンビ犬が、マヨネーズの蓋を飲み込んでしまったとか。そういうのを治療したりしているのです。まあ、そうでは無いのもたくさんあるけれど。


 それで僕には、ナルヴィクという相方(助手)がいる。彼とは、かれこれ3000時間以上、この世界を旅している。でも、別に肉体的な関係は無い(期待した人すいません。これ以降も、そういった描写はございません)。


 それは良いとして、彼は考えるまでもなく、僕の人生の中で一番多くの時間を過ごした友人であり、今では親友だ(相手が僕のことをどう思っているかは怖くて訊けない。もしかしたら、次の段階に進みたいと考えているかもしれないし、ご存知の通り僕はそれを望んでいない)。


 でも、何よりも、彼は戦友である。移動中、幻獣に襲われた場合、空賊の様なスタイリッシュな出で立ちのナルヴィクが、空歩靴〈エアウォーカー〉を使って相手を翻弄しながら、僕が、弓やライフルなどで相手を弱らせたり、威嚇したりして流れをこちらに引き寄せた後、ナルヴィクが切れ味の鋭い刀で相手を斬り、倒すのだ。


 もちろん、そんな戦術では倒せない相手もいる。たとえば、最近、治療用道具確保の名目での依頼を受けて相手にした、流砂の海に住まう「砂泳ぎの海竜」は厄介だった。皮膚が玄武岩でできているため、刀や銃など効きはせず、図体がデカいので、ちょっとやそっとの力ではダメージにはならない。


 だが、動きはのろいので(近所をランニングしている少しぽっちゃりめのおばちゃんくらい)、ナルヴィクが、玄武岩でできた岩石砂漠に誘い出し、そこで僕が作った爆薬を爆発させて岩雪崩を起こし、生き埋めにしてやったのだった。


 この爆弾は、手製のパイプ爆弾だ。


 レシピとしては、まず、町で手に入れた粒の細かい粉砂糖を瓶に入れ、良く振って撹拌した後、最近覚えたばかりで、極小さいものにしか効果の無い「停止〈ストップ〉」の呪文をかけて、瓶の中を時間が止まった状態にします。次に、火打石で瓶の口に火花を入れる。


 すると、火花も停止時間域に入ると止まるので、それを岩の側に置く(このとき注意しないといけないのは、ビンの蓋に指を入れないこと、自分の指も時間停止域に入って抜けなくなり、一緒に吹き飛ばないといけなくなる。つまり、カミカゼ・アタックだ!)。


 そして、離れたところから、停止を解除すれば、粉塵爆発が生じるというものである。


 ここで気がついたのは、爆弾作りは、ワクワクするということ。これって、家でも作れるかな? ガソリンとオレンジジュース混ぜればいい? それとも傷薬と塗料?


 いえ、サイバーセキュリティーの方、冗談です。僕は信号無視もできない、とても善良な市民です。


 で、こうして僕らは、砂泳ぎの海竜の胆石を、レース用の砂蜥蜴〈バジリスク〉の治療用として欲しがっていた富豪に売りつけた。


 どうやら富豪は、この胆石をパワーストーンと信じているようだったので、僕も医師としての観点から「効果はあると思いますよ!」と念を押しておいた。あくまで私見ではあるが。


 この富豪は、交易と宮殿の町テヘラノシト在住の45歳(推定)。


 住んでいるお屋敷は、何から何まで左右対称で、その姿はプラハにあるレデプール庭園の階段を彷彿とさせた(URLはこちら)。


 しかも、美人な妻が24人もいて、気持ち悪いことに、みんな双子なので彼女たちも左右対称に配置されているのだった。


 僕らが行ったときには、彼女たちは、グリフィンの羽で作った扇子で仰ぐように指示をされていた。つまり、この富豪は如何にもな「仮想成金」であり、変態なのだ。(しかし、この富豪のプレイヤーは、なぜかアバターを、褐色の肌にターバンを巻いて、でっぷりしたお腹を露出している、いかにもな格好をしていた。おそらくデフォルトの設定を変えてないのだ。誰かアバターの変え方を教えてあげたら良いのに! でも、面白いから、僕も教えることができなかった。他の人の楽しみを奪うのは極めて悪いことだと星の王子様も言っていたから)。


 しかし、この売ってあげた胆石が、また素晴らしい色をしてるんです。虹を石に閉じこめた様な。


 現実世界にあれば、間違いなく奪い合いで戦争が起こるレベル。いや、小道具のデザイナーさん、いい仕事してますねぇ。


 これは「XenoTerra」をやらないと分からないから是非購入を!(書いてから気付いたけど、今日は旅日記をブログに書いて1116回目。ブログも「1116〈イイイロ〉」って言ってる!)


 そして、代わりに富豪からは、2週間分の通信料やプレイ料金などの諸経費を肩代わりしてもらう契約書を書いてもらった。


 さらに、人の良さそうな顔した富豪 (さっきはバカにしてゴメン)は、お礼として、Amazonで、「ドラゴンステーキ」とテヘラノシト産のワインを届けてくれるとも言ったので、僕らは有り難くそれも頂戴することにした。


 なぜ、Amazonで届けてくれるかって? それは、現実世界の僕が、実際に食べることができるものだからです。


 仮想現実世界〈VRW〉にもリアリティーを出すために居酒屋などはある。


 そして、もちろんそこでは食事ができるのだが、当たり前の話、データをいくら食べても現実世界の僕の身体は満腹にはならない。酒を飲んでも酔いはしない。


 しかし、それでは味気ないので、食事の際は、全身の感覚を委ねるVRWモードから、一部のみを仮想化する拡張現実に切り替え、現実世界で自分で用意をした食事を食べることで代用しているわけで。


 とはいえ、現実世界でコンビニ弁当などを食べたのでは、さらに味気ない。


 だって、目の前に置かれたのは、鉄板の上でジュージュー言っている肉厚のステーキなのに、口に入れるのは萎びたコロッケって! 


 わぁー、ドラゴンってこんなパサパサしてるんだぁ、火を吐くから水分が蒸発するのかなぁー。


 なんて言って納得できるわけが無いのです。


 でも、さすが市場主義社会。めざとく商機を見つけたコンビニ業界が、「ドラゴンステーキ」、「コカトリスの唐揚げ」などの商品を開発し、これが飛ぶように売れてるの。


 なんとコンビニ業界は、遺伝子組換えによりドラゴンを創り出し、阿蘇山にドラゴン牧場を作って、ついでに観光地化して、するとドラゴンが逃げ出して被害が出て、責任者たちが横並びで頭を下げて誰かにヅラ疑惑が出て、ほとぼりが冷めた頃にスピルバーグの孫が実写版ジュラシックパークとして撮影してアカデミー賞を取って…


 でも、これを読んでいる僕の孫諸君の時代には、本当にドラゴン作ってそうだね!最近、グリフィンはできたっていうし。


 しかし、今はドラゴン風味の肉で我慢。ナルヴィクによると、スパイシーに味付けしたオージービーフらしい。アナコンダとかじゃなくて良かった!


 そして、大きなヘビが小さなヘビを飲み込むように、今度はAmazonが、VRWの運営会社と提携して、プレイヤー同士の住所が分からない形で贈り物ができるように変えたという。弱肉強食ですな。


 このようにして、この「XenoTerra」と呼ばれる世界では、仮想現実世界での冒険を楽しみたく、時間は比較的持っているので宝物をいくらでも集められる現実世界の負け組と、現実世界では味わえない豪奢な生活や絶景を仮想現実世界で楽しみたい現実世界の勝ち組との間で、Win-Winの関係が築かれているのでした。これぞ世界平和。

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