決闘準備
チャティスの呼びかけに応じて、オリバーを筆頭とするレジスタンスたちが村の広場に集められた。
昏い世界における最後の希望。闇を照らす唯一の光。
彼らが死ねば人類と狂戦士は全滅し、後は狂しむ者だけが残される。
それを避けるためにはまず、敵を倒さねばならなかった。敵とは喰らう者でも屍人でもない。
敵とは、他ならぬ自分自身のことである。
「説教とはどういうことだ?」
オリバーが代表して訊く。問われたチャティスは頷いて、説明を開始する。
「文字通り、だよ。私がワタシにお説教するの。あなたは一体何をしているの、ってね」
「しかし、どうやるの? 狂った方のあなたは狂暴極まりない」
「ええその通り。アレの説得は何回も繰り返された。救世主を何の手立てもなく殺してしまうほど愚かじゃないわよ」
ミーリアが意見を口に出し、姉であるアーリアも同調するように付け足した。
だろうね、と相槌を打ちながらチャティスは続ける。
「でも、やっぱり他人の言葉と自分の言葉じゃ重みが違うんだよ。ワタシに言われて実感できた。他人なら受け流せることでも、自分に言われると心に刺さる。だったら、私の言葉だってムコウに届くはずなんだ」
「ですが、危うく殺されかけました」
「あなたの言う通りだよ、ミュール。でもね、自分のことは自分でしないとダメなんだよ。こればかりは誰かの手を借りてはダメ」
とミュールに言いながらも、チャティスはある男の力を借りるつもりでいた。無論、そのことは皆に伝えないで心に仕舞っておく。
「無茶はするな、チャティス。私がどうにかしてみせよう。お前は家で――」
「ダメだよ父さん。これは私がしなければならないこと」
幾分端折られた説明に、ティロイが心配するように声を出したが、チャティスは頑として助力を拒否した。
これは自分がなさなければならないこと。自分が乗り越えなければならない壁だ。
自分を救えなくて、一体誰を救えるのだろう。私がワタシを止められなくて狂戦士なんて治せるのか。
狂戦士同士の争いがなくなる世界を本当に創ることができるのか。
「私がワタシを止める」
これは言わば試練だ。チャティスが人と狂戦士を治せるかどうかの瀬戸際だ。
他人の手を借りてるようじゃ、何も成せない。他人に頼る時はどうしようもない時だけだ。
じゃないと今までと何も変わらない。クリスを死ぬ原因を作った時と同じままだ。
「私が何とかしてみせる」
そうしなければ、彼に報いられない。自分に託して死んでいった男の想いに応えられない。
いや、それだけが理由ではない。もうひとつ、どうしても成さなきゃならない訳がある。
「だって、私は天才だからね」
得意げに胸を張り、辺りを見回す。
自分の実力を過信し、自己愛を発揮する。
これがチャティスの強さだ。己が心の本質だ。
ナルシシストになることで、チャティスは精神力と行動力を手にできる。
「……ならば、仕方あるまい」
沈黙を破るように口を開いたのはオリバーだ。すぐ、同調するように声が上がる。
「ですね。私の親友は人とバーサーカーを幸せにする天才ですから」
「……お前がそう言うなら仕方ない」
ミュールとティロイが賛同。次にアーリア、ミーリア姉妹。
「特に異論はないわ」
「メシア様の言う通り。ですよね、オリバー様」
大方の賛成を得られたようだが、チャティスはまだ納得いっていなかった。
最後に許可を得るべき人物へと目を向ける。そこには、キャスベルが家の壁に寄り掛かって立ち聞きしていた。
全員の注目を受け、キャスベルがふんと鼻を鳴らす。そして、何も言わないまま背中を向けた。
ダメだったか、と落胆したチャティスはしかし、キャスが放った去り際の一言で顔を輝かせる。
「友達がそう言うなら、信じないわけにはいかないじゃない」
「キャス!!」
手をひらひら振りながら、キャスは闇の中へ消えて行った。説得を終えたなら、次にやるべきは戦いの準備だ。
よし、と気合を入れたチャティスへアーリアが質問してくる。どうやって直接対決するの、と。
チャティスはポンポンと、強調するように自分の胸を叩いた。
「私にはチャームが宿ってます。同じ呪いを受ける者同士、惹かれあうとは思いませんか?」
チャティスは不敵に笑う。そう敵など最初からいやしないのだ。
いるのは、わかり合えない人間と狂ってしまう狂戦士。ただ、それだけだ。
※※※
救うことはあれほど困難だったのに、殺すことは驚くほど簡単だった。
命は尽きるようにできている。人は人を殺せるようになっている。
元来、敵を殺すのに武器なんて必要ではない。人を殺す知恵があればいい。そもそも、自分で手を下す必要もない。
頭を使い、敵と敵を鉢合わせれば、後は勝手に戦って勝手に死ぬ。狂化戦争と原理はいっしょだ。
だから、まずは敵を誘導することから始めた。
誘導自体はそれほど難しくなかった。餌さえあれば容易に釣れる。重要なのは相手を上手に騙すこと。
その餌の美味しさを際立たせ、自分の無害さを強調する。自分は弱く非力な人間で、強い者に付き従うと誤解させればいい。
時には暴行さえも受け入れた。支配者と言うものは自分に都合の良い人間が欲しいのだ。だから、自分は都合の良い女として演じた。彼らの望むものを贈り、彼らの望む状況を創った。
そうやって場をセッティングすれば……後は真の目的を実行するだけ。
恐ろしくなるほど、楽だった。血まみれの惨状を目の当たりにして、やっと理解できた。
何で人が戦争をするのかという、長年の疑問が解消された。
「人を殺せば、全てが手に入る」
斃れる死体に目を落として呟く。
死体は光の消えた瞳を覗かせて、口から血を溢している。背中には剣が突き刺さり、頭部には銃創ができていた。
死因はなんだろうか、刺殺? 銃殺? 出血多量によるショック死か?
「ああ、何でもいいよね」
薬師だった頃は、気になった。
死体はたくさんの情報を持つ。死んだ原因がわかれば、次なる犠牲を阻止する手がかりにもなり得る。
でも、もはやどうでもいい。
今の自分は人を殺す者だ。死に方なんて何でもいい。効率的かどうかさえ考慮の範疇外だ。
殺せればいい。
確実に息の根を止めることができれば、方法は憂慮しない。
「必要なのは死。生は要らない、心も要らない。全部全部、必要ない」
狂愛者はストレスで真っ白になった髪を風になびかせる。
眼下に広がるは戦場。命の殺戮場。
もっともっと死ねばいい。チャティスは赤い瞳で戦人を俯瞰する。
「たくさんの人とバーサーカーを殺して、世界を黒く染めなきゃ。だってワタシは天災だからね」
うふふ、と声を漏らして狂愛者は嗤いごちる。
いつから人殺しが愉しいと思うようになっただろうか。
以前は人を救うことに幸福を見出していた。人や狂戦士、誰か一人でも救うだけで満たされていた。
だが今や、救いに何の価値も感じない。救いは偽善だからだ。
くそったれな世界で生き長らえさせることは、むしろ救うべき人間をより苦しめるだけ。
それを避けるためには、救う対象に死を与えなければならない。
殺しは、救いだ。だから幸福を感じ取れる。
だから殺せる。容赦なく。躊躇もなく。
「でも、アレだけは別」
チャティスは憎悪を募らせる。
アレだけは殺さなければならない。アレだけは慈愛ではなく憎しみを持って殺さねば。
アレには救いは要らない。救済するために殺すのではなく、殺したいから殺す。
強く握りしめた右手は爪が刺さって血が零れた。ああ、足りない足りない。
これだけでは、全然満たされない。
この場に鏡や水面がなかったことをチャティスは安堵し、同時に惜しんだ。
殺したいのに、殺せない。今死ねば、叶えなければならない理想がとん挫してしまう。
より深く、クリスの気持ちがわかった気がした。クリスはサーレを殺した自分を憎みながら、ずっと耐えてきたのだ。
愛する人間を殺した腕で、愛する人の心臓を刺し貫いた剣で、彼女の理想を叶えようとした。
なのに、あろうことか自分は邪魔立てをした。それが間違っていると、何も知らないまま止めさせた。
あの時の自分ほど愚かしい人間はいないだろう。世界中を見渡しても。
どこが天才か。自分のどこが賢いのか。この世で一番の大馬鹿者だ。
だが、馬鹿者だからこそできることもある。今の自分にしかできないことがそこにある。
ならば、ただ実行するだけだ。自分にしか成しえない、やらなければならない責務を果たすべきだ。
「――あぁ、やっと殺せる」
回想を終えたチャティスは、ティルミの村を見る。
そこにいる是が非でも殺さなければならない相手を。
「さぁ、行こう。みんな、おやつの時間だよ」
チャティスが一言放つと、喰らう者が一斉に村へ向かって動き出した。
※※※
「ワタシは絶対に集団で動きます。きっと殺し方にはこだわっていないでしょうから。……ただひとりを除いては」
チャティスはそうみんなに説明し、村の防御を固めさせた。
自分に護衛はつけない。独力で自分自身を打ち倒すつもりでいる。
「戦いは勝ち負けじゃない。でも自分との勝負は別」
自分の部屋で新武器に弾丸を装填しながら、独り言を吐く。
ころん、ころんと銃口に弾丸と火薬のセットを流し込む。先込め式の宿命だ。装填には時間が掛かり、単独でのリロードは不可能に近い。
狂戦士であるクリスでさえ、撃った銃をその場で装填することはあまりなかった。点火皿に火薬を入れるだけのリボルバーでも次段発射はラグがあるのだ。敵の前での、銃弾の装填は最初からできないものと諦めている。ことさら、自分が相手では。
「何だかんだ言って、銃の腕前は相当だからね」
人を殺さないために銃の腕を磨いた。人を殺すには訓練しなくても、殺すことは可能だ。だが、人を無力化するためには実力がいる。
だからみんなが片手でピストルを撃つところを、チャティスは両手で撃つ。銃の扱いに長けてる者なら失笑するだろう。空いた手でもう一丁ピストルを持った方がいいと。もしくは、マスケットを使えと助言するかもしれない。
「私の体格的にマスケットは難しい。小柄な私にはピストルの大きさが丁度いい」
そもそもホイールロックリボルバーは、回転弾倉を取り付けたせいで銃身が長くなっている。これはマイナスというわけではなく、フリントロックのように反動で銃身が跳ねる銃よりもさらに遠くを狙いやすくなっているのだ。
狙撃用ピストル、と言っても差し支えがない。似たようなコンセプトの銃――マスケット並みに銃身を長くしたような――を紹介されたが、チャティスは第一の獲物としてこの銃の使用を譲らなかった。
だが、そういうチャティスも二番目は妥協した。リボルバーの装填を終え、友人から借り受けたソレの前準備をチャティスは始める。
「ペッパーボックス。ミュールのピストル」
王族らしい絢爛な装飾が施された、リボルバーの親戚だ。前方から見た銃口は三角形のように見え、ミュールの金髪と同じように金色を主体とした装飾が成されている。
水平や上下二連の延長線。三つの銃身を兼ね備えた鉄砲は、撃発した後銃身を回転させ火皿に火薬を載せれば撃てる。ホイールロックとそこまで違わない。狂化戦争が狂戦士戦争へと変わった転換期に生まれた銃器らしい。
チャティスは複雑な想いに駆られながら、銃身に弾丸を詰めていく。火薬のにおいが鼻についた。嫌いではないが、大好きと言うわけでもない。ただの射撃なら気にならなかったが、これから対決のために火薬の匂いを嗅いでると思うと気が滅入った。
「装填完了っと」
一度作業台の上に銃を置く。火皿には点火薬を載せていない。下手な状態で扱うと暴発の危険性があるからだ。
まるで感情のようだとチャティスは想い耽った。きちんと扱わないと爆発して、持ち主でさえも殺しにかかる。だが、ちゃんと扱えば自分の身を守る力となるのだ。ワタシは制御に失敗し、わたしはまだ何とか舵を取れている。しかし、心の荒波は、暴風雨は、御しがたいものだ。今だ心を完全に征服した人間も狂戦士も存在しない。
ハードのように思えてハーフなのだ。誰しも信念を持って帆船を出向させる。だが、結局風や波に流されてしまう。
自分だって例外ではない。今戦おうとしている相手は自分の成れの果てであり、また同時に教訓を学ぶべき相手だ。
舵取りを間違ってはならないと学習できる相手。反面教師として利用できる相手であり――。
「私が救うべき対象でもある」
チャティスは目線を隣のくすんだペンダントへと移す。その隣には綺麗な輝きを持つ銀色のナイフが置いてある。
濁り、曇り、狂った。人の心はタフなようで繊細だ。どれだけ堅牢な心の持ち主でも、むしろ防護が硬いからこそ壊れた時の狂いようは度し難い。ラグナロクだってそうして起きた。
神だって心が狂うのだ。その創造物足る人間がそう簡単に心を御せるわけはない。
だが、だからこそ抗うしかない。己の心を維持していかなきゃならない。
チャティスは隣のナイフを眺めて微笑した。せっかくこれ以上にない言い訳文句があるのだ。なら、全力を持って抗ってみせようじゃないか。どうせ愚か者なら、何かを成そうとした愚か者と成ろう。結果がどうなっても、自分ができる精一杯を行おう。
「もし私が戦うことで誰かを救えるのなら、私は勇んで愚か者と成ろう」
チャティスはペンダントを手に取り、ポーチの中へ突っ込んだ。次に幻影が遺したナイフを後ろ腰に差す。
リボルバーは左腰のホルスターに仕舞う。ペッパーボックスは右腰だ。
銀色のピストルが左手に入り、金色の拳銃が右に入る。
一瞬自分の職業が何なのかチャティスは錯覚しそうになった。苦笑しながら部屋の戸を開ける。
「私は薬師兼天才だよ」
もうひとりの自分の想いと怨嗟が詰まった部屋を一瞥し、チャティスは家を後にする。
ここに用はない。私には。用があるのはもうひとりのワタシだ。
※※※
「私の性格上、たったひとりで勝負を挑んでくる」
そう呟いたのはどちらが先だったか。あるいは、両方同時だったかもしれない。
敵が前にいないのに、二人には相手の行動が手に取るようにわかった。しかし、どちらも裏を掻くような手段は用いず、正々堂々の戦いを所望した。
これが赤の他人ならば――狡猾にも罠を張り巡らせたかもしれない。他人の援護を望み、計略を巡らせ、様々なトラップを仕掛けたかもしれない。
だが、自分自身との対決ならば別だ。倒すべき相手は殺すべき敵であり救うべき相手。なら、妙な策略は講じず、自分自身の実力で完封せしめるべきである。
この戦いにおいて必要なのは、奇抜な作戦でも念密な計画でもない。
自分と自分。一対一の戦場。
銃と剣。殺すべき救うべき相手。
胸の内に沸き起こる殺人渇望と救済願望。それだけで十分だ。
「ひとりで待ってたんだね、お利口さん。流石わたしだね」
「そういうあなたもひとりで来たんだ。律儀なところはワタシのいいところだよ」
現れた自分は似て非なる者。
ひとりは生まれついた母親譲りの茶色い髪色。父親譲りの青い瞳。身に着ける長旅用の外套と、髪色に合わせた茶色い服装は少女を冒険者なのかと勘ぐらせる。
もうひとりはストレスで色が変わった白髪で、血に濡れた赤い眼だ。服は黒い。どこぞの騎士服でも拝借したのだろうか、少女は小さい体躯ながらも歴戦の戦士にしか思えない。
だが、どちらも職業は薬師だ。片方は銃を腰に提げ、もう片方は剣を背中に背負っているが。
「今まさに、世界は終わろうとしてるよ? 放っておいていいの? わたしは人とバーサーカーの希望なんじゃなかった?」
「そうだね。みんな私をすごい人間だと信じて、託してくれた。本当は見栄っ張りで、変なことを考える頭のおかしい狂人でしかないのにさ」
今度は理性的に、両者は会話に応じられた。殺意と救意の波動を向け合うにはまだ時間的猶予がある。
敵は逃げないのだ。自分自身を殺すまで。自分自身を救うまで。
「それが愚かだった」
「どうかな。確かに私は愚か者なのかもしれないけど、託してくれたみんなまでが愚かだとは思わない。実際、バーサーカーをどうにかしようと思う人間なんて異端だしね。どれだけ愚鈍な人間でも、頼れるのは私ぐらいしかいないんだよ。だから、私がどうにかするしかない」
「で、そのあおりを受けてクリスは死んだ」
狂愛者の銃弾めいた言葉を受けても、共愛者は悲しそうに微笑するだけだった。
そうだね、と同意するように声を漏らして、自分自身を見つめ返す。
「そうだよ。確かに、私はクリスの死の原因を作った。それに関して言い訳しようとは思わないよ。クリスの決断を赦せるのは私だけ。彼の死を受け止められるのもこの世では私だけ。だから、事実として認識し、彼の死を受け入れて、抱きしめる。ずっと胸に抱いていく」
「当然でしょう、それは」
「うん、当然だね。そして私は、彼の想いすら受け継いでいく」
「当たり前」
「ワタシの言う通り」
自然と笑みがこぼれる。奇妙な感覚が周囲を包む。
クリスに関する話については、大方意見が一致していた。共愛者も狂愛者も。
クリスを大切に想うことは当たり前。クリスの意思を継ぐのは当然。感謝してもし足りないほどの恩を彼から貰い受け、胸をいっぱいにするほどの想いが満たされている。
だけど、やり方が気に食わない。それがこの戦いの原初であり発端だ。
そのために、チャティスは言葉を続ける。もうひとりの自分に、これが最後の対話と知りうるから。
「だから、私はクリスの願いと想いとを継いで、あなたと戦うよ。自分の感情も……まぁ含まれるけど、ほとんどはクリスの想いだね。私は彼の代弁者であり代行者だから」
共愛者の話を聞いて狂愛者は言い返し、
「そうじゃないと困るよ。だからこそワタシは剣を執り銃を執る。狂化活性薬を用いて、狂うことができる。存分にあなたを否定できる」
剣の柄に手を置いた。斬れないモノは何もない無銘の剣。クリスはサーレすら、その剣で刺し殺してしまった。
サーレは意図せず呪いをかけた。治癒が難しい強力な呪いを。クリスに自身の理想を誤解させたまま、無念のまま死んでいった。
でも、その呪いは解けた。最後の最期で。クリスが自殺すると言う最悪なカタチになってしまったが、彼は最期に自分の誤りに気づけた。
自分のおかげ、とまで胸を張るつもりはない。少なくとも今は。だけど、もし。
もし、自分の力で自分自身を救えたのなら、自分のおかげだと自信を持って言えるだろう。
「私とクリスとの旅路は無駄ではなかった。あなたを救って証明してみせる。なぜなら、私は天才だから」
チャティスは銀色のリボルバーを抜き、両手で自分自身へと銃口を向けた。
「だったら、ワタシがあなたを殺して、全てが無駄だったと証明してみせるよ。ワタシは天災だからね」
チャティスがクリスの剣を抜き取って、剣の切っ先を自分自身に突きつけた。
轟く銃声。響く剣戟。ティルミの村で生き残りと喰らう者の攻防戦が始まった。
その音を境にして、狂愛者と共愛者、両者の譲れない戦いの幕が切って落とされる。




