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薬師チャティスと狂戦士と  作者: 白銀悠一
第五章 守護騎士と邪悪な野心と
34/62

コインの裏表

 銃声がした瞬間、反射的に防御した。

 自分ではなくチャティスを。

 なぜかそうなると思ったからだ。そうしなければならないと感じたからだ。

 だがその判断は誤りだったらしい。


「……っ」


 クリスの傍にいたガルドが、胸部に銃弾を受け倒れる。

 弾丸の軌跡はすぐに辿れた。銃が穿たれた方角にはひとりの男が立っている。

 特徴的なフードからアサシンであることは明白だった。しかし、腑に落ちない。

 クリスは、クリアリングを行ったはずだった。念入りに周囲に敵が残っていないかどうか確かめた。

 しかし、すぐにそのような考えを頭の隅に追いやる。今重要なのは――。


「安全な場所へ隠れていろ」


 声を発すると同時に銃を抜く。銃口がガルドを狙撃したアサシンともうひとり、別の敵を捉える。

 間髪入れずに発射。しかし、アサシンは軽快な動きで弾丸を避ける。

 身体を翻し、逃走を図る。


「逃がすか……」


 クリスは、ガルドとその横に駆け寄ったチャティスを一瞥すると、アサシンを追跡するため跳躍した。



 ※※※


 

 ノアとウィレムの叫び声が混ざり合っている。

 二人だけではない。周囲のフストの衛兵や戻ってきていた使用人たち。

 ガルドを慕う人間が、仕える者たちが、彼を案じて集まっている。


「――ッ!」


 呆けている場合ではないと、チャティスは薬師としての表面を露出させる。


「どいて! 診察させて!!」


 ポーチを外しながら、ガルドに駆け寄って彼の容体を確認する。が――。


「左胸に……!」


 歯噛みしながら、ガルドの騎士服をナイフで強引に引き裂いた。

 血に染まっていたのはガルドの左胸。つまりは心の臓だ。

 致命傷を狙っての銃撃だった。チャティスはおろか、クリスやガルドにさえ勘付かれずの射撃は見事としか言いようがない。

 頭を射抜かれたわけではないので即死こそしてないものの、いつ死んでもおかしくない状況だ。

 確実に心臓を射抜かれている。正直、チャティスは驚いてさえいた。

 まだガルドが生きているという事実に。それはガルド自身もそうだったらしい。


「……の、あ……うぃれ、む……」

「っ!!」


 ノアが顔をぐちゃぐちゃに濡らしながらも息を呑む。ウィレムも、固唾を飲んで見守っている。

 返事もままならないまま、ガルドの話を聞いていく。


「……わる、かった。このような辺境まで、きみたちを……つれてきて」

「な、なぜ謝るのです! あなたが救ってくれなかったら私たちは皆……!!」


 横で必死に作業をしているチャティスは、二人の会話に割り込まない。

 もうわかっている。これはただの一時的な延命処理にすぎない、ということを。

 だからこそ、しゃべるな、などとは言わない。そんなことを言えば、最期の時を台無しにしてしまうから。


 ――薬師ができるのは、せいぜい病気を治すか、傷を癒すかの二択だ。

 致命傷を負った人間を治すことは不可能だ。頭と心臓。この二つの部位がやられれば、そこからは治療魔術師の領域だ。


(わかってるよ、父さん。薬師は肝心な時に無力だって。それでも……いや、だからこそ……!)


 チャティスは、必死にガルドの生存時間を稼ぎ続けた。

 救えないのなら、せめてきちんと別れを告げさせてあげたい。そこに、個人的な好き嫌いは関係ない。

 それに、チャティスはガルドは嫌いだったが、だからと言って死んでしまえばいいなどと思ったことはない。


「……ふたりとも、たのめるか?」

「な、何を……?」


 ノアがガルドの手を掴む。ガルドは意識が混濁としながらも言葉を紡いでいく。

 チャティスはその脇で、活性薬やボイドペンギンの羽粉末などを傷口に落とし込み続けた。

 ボイドペンギンは重力魔術でドラゴンすら屠る凶悪な魔物だ。彼らの羽は時空間を歪ませる効果がある。

 魔術師や銃器の発達によって大方狩りつくされた魔物の中でも極めて強力な個体だった。


「わたしのやくめを……継いでくれるか……?」


 ガルドの最期の願い。

 人を救うことに重視し戦ってきた高潔な騎士の望みにノアとウィレム、救われた両名は首を縦に振らなかった。

 否、わざわざ頷くまでもないことだった。初めから、ガルドについていくと決めたその時から、もう決断していたことだったから。


「もちろんです、ガルド様」

「僕も、ノアと同じです」


 その答えを聞くとガルドは深く息を吐いて、


「そうか……ありがとう……」


 と言い残し、安らかな笑顔を浮かべ息を引き取った。


「……ッ!」


 チャティスは憤慨する。

 ガルドではない。ノアでもなく、ウィレムでもない。

 近くでどうしていいかわからず困惑しているシャルというわけでもない。

 今、遠くで戦っているクリスに対してなはずもなく。


「私は……天才であるはずなのに……!!」


 自分自身に対して、怒り狂っていた。



 ※※※



「待て」


 クリスが足を進めるごとに、彼を支えるはずの地面が砕けていく。

 彼が普段通りに駆けるたびに、風が鳴く。

 苛烈な狂戦士の進行に、大地が悲鳴を上げている。

 だが、クリスは意に介さず標的だけを見つめていた。


「止まれ、アサシン」


 怒りはない。悲しみもない。

 何一つ感じない。それが狂わない狂戦士の代償だ。


「お前はなぜ行動している。……リベルテの傀儡でいるつもりか」


 既にフストの外壁を抜けて、大平原まで移動している。

 流石暗殺者、と言ったところか。従来ならばただの人間が狂戦士の追跡から逃れることなど不可能である。

 だがしかし、追跡対象であるアサシンは暗殺者特有の巧みかつ身軽な移動方法でクリスの追跡を振り切り、再度補足されるという流れを繰り返していた。

 “彼女”との出会いがなければクリスはアサシンを見失っていただろう。


(いや――彼女と……サーレと出会わなければ……)


 平原に入った途端、クリスの視界が極端に悪くなる。

 大量に茂る草が視界を阻むからだ。如何に目の良い狂戦士と言えども透視などという魔術は使えない。

 かといって、剣で薙ぎ払うつもりもなかった。この草原はフスト防衛の一端を担ってもいる。

 だが、打つ手なし、というわけでもない。草を刈らず透視もせずに目標を補足する方法をクリスは持っている。

 瞬間、クリスは上空へと跳躍した。狂戦士特有の脚力によって。足場の一部を陥没させて。

 物理法則を歪ませたクリスは、さらに世界の法則を破壊していく。

 風が吹いた刹那、風を踏み割って加速。

 目標地点へと剣を抜きながら飛来する。


「何だと!?」


 驚愕するアサシン。しかし、驚いたところで男に取れる手段はもう残されていない。

 雷鳴の如き異音を発しながら、クリスの剣が一閃する。

 そして――クリスは確信した。

 自分が敵を殺せなかった、ということを。


「……幻像か」


 クリスが叩き切ったアサシン――による幻像が、クリスの背後で霧散した。



 ※※※


 

 カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、茶色い頭巾を被った少女が椅子の上で蹲っている。

 チャティスは、ひとりでぶつぶつと独り言を述べていた。落ち込んだ様子で。


「……人が死ぬのは当たり前。永遠に生きられる人間はいない。薬師や魔術師がいても、人は死ぬ」


 人の死に立ち会ったのはこれが初めてではない。ミュールだってチャティスの目の前で死んだ。

 だが、状況が異なっている。ミュールはクリスに殺された……というよりは自分で選んだ自殺だったわけだが、ガルドの場合は違う。

 チャティスの目の前で、死んだのだ。

 薬師でいて、しかも天才であるはず自分の目の前で。


「呆けてる暇はないよ。怪我人が宮殿内にまだいるはずだし、ノアやウィレムのケアだってしないと。それだけじゃない。宮殿や領民の人たちだって……」


 救わないと。

 切迫した瞳で呟きながらも、チャティスは膝の中に顔を埋めている。

 いつまで経っても動き出さない彼女の耳に、小さなため息が聞こえた。

 チャティスが顔を上げると……対面の椅子に――。

 ミュールが、座っていた。


「あなたの本性が、最近顕著に表出してますね。自分は天才。だから誰かよりも素晴らしいことをしなければならない。その発想は嫌いではなく、むしろ大好きです」

「ミュール……」


 金髪の王女は、柔らかく微笑して話続ける。


「ですがあなたの場合、思いつめ過ぎですね。何が何でも天才、天才。他者に完璧は求めないが、自分は完璧でなければならない……。しかも、その本質を裏側に隠しているから厄介です。あなたのことを良く知らない人間は、ただの鬱陶しいナルシシストか、お調子者のへなちょこにしか感じません。まぁ、私はそのどちらも面白いとは思います。その姿は決して偽りなわけではなく、表のあなたも裏のあなたも、どちらもあなたなのですから」

「わ、私は……う……」


 言い返そうと口を開いたが、チャティスは何も発せない。

 ミュールの亡霊が言った言葉は全て図星だ。もはや自分でも自分自身がどういう人間なのかわからない。

 だが、そういうものも全部ひっくるめてチャティスなのだ。

 自分を天才だと誇示して、勇気や優しさを得る面も。

 自分を天才でなければならないと定義して、他者を助けようとする面も。


「前、訊きましたよね。あなたは自分が生きたいから生きているのですか? それとも、生きなければならないから、生きているのですか? と。その問いにあなたは答えられなかった……。たぶん、両方とも外れで正解だったからです。表のあなたなら、前者。裏のあなたなら、後者。あなたは生きたいから生きているし、恩返しをしなければならないからという義務感で生きてもいる。そのくせ、危ないところに首を突っ込みたがるし、よく問題に巻き込まれる……。これもまた、あなたです。……私は好きですよ? そういう天才ばかは」

「私は……馬鹿なんかじゃ、ない……」

「今度は裏のあなたが出てきましたか? 裏のあなたは無意識的に表に作用して、チャティスの行動原理を決めている。表の理由は何でもいいんです。裏のあなたに理由があればそれでいい。矛盾してようがしてまいが、普通の人間だったら異常と判断されようが。意味不明な行動のように思えて、あなたの行動は理念に沿って行われていた。恩返し。偉業。成すべきこと。そのどれかのためであれば、あなたは表の矛盾などむちゃくちゃにしてでも動き出す。とはいえ、チャームなんて呪いが自身に宿ってるとは流石のあなたも想定してなかったようですが」

「……それ以上は、何も言わないで」


 チャティスの言葉に、ミュールは微笑みを湛えながらも首を横に振る。


「私はあなたの……親友でいたいと思ってます。昔、本で読みました。真なる友は、他者の悪い部分も指摘する、と。このままでは、あなたは馬鹿てんさいになってしまいます。いつの間にか裏のあなたが表出し、コインの裏表が逆転し、誰もあなたに笑顔を向けなくなる。悲しみを、泣き顔を、あなたに向けるようになります。皆さんは助けられたいのではなく、あなたと共に笑っていたいのです。そこをはき違えた瞬間、あなたは“天災”となる。わかりますか?」

「……私は、私のために生きている。あなたもみんなも関係ない。……放っておいて」


 気付くと、チャティスは冷酷な瞳でミュールを睨み付けていた。

 ぐちゃぐちゃに、ごちゃまぜになったチャティスの視線に射抜かれながらも、ミュールはずっと微笑んでいた。

 椅子から立ち上がり、チャティスへと歩み寄ってぎゅっと彼女を抱きしめる。


「その手には乗りません。あなたを知る人間なら、誰だって乗らないでしょう。自分を悪者にしたって、あなたの大事な人たちはあなたを嫌いにならない。むしろ、逆効果です。あなたが心配になって、何とかしようと奔走する。……家出も、裏のあなたは善かれと思ってやったのでしょうが、きっとあなたの村人たちは、あなたを心配しています。旅がひと段落したら、村へと帰郷した方がよろしいでしょう」

「……っ」

「私は何でもお見通しです、チャティス。だから、私の死があなたの重荷となっていることも知ってます。ほんの僅かな邂逅でできた友達に、こんな重責を背負わせてしまったこと、私は後悔しています。笑顔が素敵なあなたに、涙を流させてしまうとは。私の不徳です」


 悲しそうに瞳を伏せるミュール。

 その顔が嫌で、チャティスは声を出す。

 表も裏も、どちらも同じ感情だった。


「ミュールは悪くないよ。悪いのは私。私が関わったことでみんな不幸になっていく」

「――そんなことを言ったのは誰ですか? どの口ですか?」


 かつてチャティスに言った言葉を復唱しながら、ミュールは笑う。


「今はまだ、そう思っていて構いません。一理あることは否めませんから。ですが、心に留めていて。あなたの人柄に触れた人間は、皆笑顔を浮かべていた。忘れないで。あなたはひとりではないですよ」



 ※※※


 

 ……ティス。チャテ……。

 暗闇のどこかから、声が聞こえる。

 何を言っているのか、考える。だが、頭がふわふわして考えがまとまらない。

 とても、とても優しいモノに触れた。

 そんな気がするが、よくわからない。


「チャティス! チャティス起きて!!」

「っ!? シャル!?」


 激しく揺さぶられたチャティスが目を覚ますと、シャルがチャティスを呼んでいた。

 いつの間にか眠ってしまったらしい。

 おかしいなと思いつつチャティスがシャルの顔を間近で見つめると……。


「ど、どうしたの? そんな顔をして」

「……ノアが……」

「っ!? ノアがどうかしたの!?」


 その一声でチャティスが覚醒する。

 バッチリ起きたチャティスが寝ていた椅子から飛び降りると、シャルが慌てて否定する。


「の、ノアは関係ない……」

「え? う、そうなの……?」


 シャルが神妙な具合で、チャティスは戸惑う。

 普段あまりみせることない困ったしぐさのシャルは、言いづらそうに説明を開始する。


「あ、アサシンが……」

「クリスが帰ってきたの!?」

「それも違う……。兵士たちがアサシンをひとり捕まえたみたい。だけど……」

「だけど?」


 念のため支度を始めたチャティスは、次に放たれたシャルの言葉で目を見開いた。


「ガルド様の仇だ、って言って、ノアの許可を得ずに処刑するって」



 ※※※



「完全に見失ったか」


 近くの丘から平原を俯瞰したクリスはアサシンへの追撃を断念した。

 アサシンは隠密の達人である。フスト宮殿で出し抜かれた時に、あらゆるステルススキルがクリスよりも上手だったことは確定済み。

 囮に引っ掛かり相手が自分よりも隠密行動に優れている。

 そのような条件下で、闇雲に追撃を続けるほどクリスは考えなしではない。それに、わざわざ追わなくても、最終到達地点はわかり切っている。


「今は撤退し、態勢を立て直すことが先決……」


 踵を返したクリスは唐突に立ち止まる。

 蹄の音が聞こえたからだ。複数響く馬の足音は徐々に徐々にこちらへと近づいてくる。

 草を掻き分けて現れたのは、クリスが逃したアサシンではなくガルドが前以て送り出していたフストの騎兵隊だった。


「クリス殿か!? 我らはエドヲン攻撃隊である!」

「……ああ。攻撃は失敗したのか」


 淡々と告げるクリスに騎兵隊長は悔しそうな表情をみせる。


「如何にも。……しかし、ガルド様の言いつけどおり、死者は出さなかった。少なからず恩義に報いられただろうか……」

「あの男の性格ならば、特に不満を言うこともないだろう。……仮にあったとしても二度と口には出せないがな」

「どういう意味だ?」

「……お前たちの領主、ガルドは――」


 クリスは、訝る騎兵たちにフストの領主の最期を伝え語った。



 ※※※



「ストップ! その処刑待って――!!」


 普段の調子に戻ったチャティスが、ひとりの暗殺者を引きずり運ぶ集団へと叫ぶ。

 石で創られた外廊下を強引に連行されているアサシンの背中は、ひどく衰弱している様子だった。

 暴行か何かを加えられたのかもしれない。


「なぜだ! こいつらはガルド様を」

「だからだよ! 少なくとも私の知るガルドはこんなことしないもの!!」


 無理やり、チャティスは兵士たちの間を割って入る。

 薄々勘付いてはいたようで、誰一人チャティスの行為を止めるものはいなかった。

 皆、わかっているのだ。自分たちのかつての領主は、敵の捕虜にこのような扱いをしない、ということを。

 だがそれでも、感情の荒波を抑えることは困難だ。


「くそっ!! 納得できるか!!」

「うっ!?」


 チャティスがアサシンの顔を見ようとしたその時、脇に立っていた男がチャティスを突き飛ばした。

 何もできず、廊下を倒れるチャティス。彼女の視線先では、男が手に持っていた槍でアサシンを刺し殺そうとしているところだった。

 フードが外れてアサシンの顔が露わとなる。


「ッ!? その人を殺しちゃダメ――!!」


 チャティスが叫んだが、男は止まらない。

 勢いのままアサシンを刺殺しようとしたその時、廊下に新たなる領主の声が響き渡った。


「その者を殺してはなりません!!」

「っ!? ノア様……」


 チャティスの言うことを聞かなかった兵士も、従順にその手を止める。

 ノアが廊下の先から歩いて来ていた。隣にはウィレムの姿も見える。

 二人とも赤く泣き腫らしてはいたものの、凛とした表情だった。


「しかしながら、ノア様! この者は――」

「しかしも何もありません。ガルド様ならこんなことは絶対にしませんでした。敵に対しても敬意を払う。それは騎士の本懐の一つです。戦士としての当たり前の心得です」


 口を噤んだ兵士、は悔しそうな顔で一歩下がった。恐らく、みんな同じ気持ちなのだろう。

 チャティスは安堵の息を吐いて立ち上がり、乱暴に廊下を転がされていたアサシンへと手を伸ばす。


「あなたが殺されなくて良かった。名前は確か……キャス、だっけ」

「あなたは……チャティス……リベルテのターゲット……」

「標的の相棒、だよ。私は」


 チャティスの背後で、ああっ!? とウィレムが驚愕の声を上げておりチャティスは気になったが、至急治療の必要があるとして放置した。

 肩を貸して、医務室へとキャスを運びながら状態を確認する。


「……傷がない? これは、一体……?」


 ざっとキャスの容体を視認したチャティスは違和感に気付いた。

 てっきり暴行を受けたものと誤解していたが、キャスに目立った外傷はない。

 衣服の上からの観察のため、じっくり検査しなければならないが、それでもここまで弱る要素は見当たらなかった。

 とすると何か病気なのかな、と考え始めたチャティスに、キャスが苦しそうな声音を捻りだす。


「だ、ダメ……わ、私を……殺して……」

「な、何でそんなことを言うの?」


 戸惑いながらも訊ね聞いて、次の瞬間――。

 キャスの言葉に、凍りつく。


「私は……この国を破壊するために、大規模魔術の刻印を、埋め込まれている」

「え……? どういう……っ!?」


 チャティスに応答する暇もなく、キャスがぐらりとよろめいた。

 意識はなく発熱すらしている。


「シャル! 手伝って!! ノア、ウィレム!! こっちに来て!! ……リベルテ……あなたの計画はまだ終わっていなかったんだね。……でも、負けないよ、私は天才だからね」


 意を決した瞳になったチャティスはシャル、ノア、ウィレムと共に弱体したキャスを部屋へと運び込んだ。

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