表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬師チャティスと狂戦士と  作者: 白銀悠一
第四章 狂戦士ハンターと腐った海と
22/62

当然の行動

「うあっ!!」


 恐怖のあまり、チャティスは目を瞑って顔を伏せた。

 山賊たちの喧騒も、木の葉のざわめきも耳に入って来ない。

 ただ、苛烈なまでの狂戦士の咆哮と、凄まじい勢いで振り下ろされる銃剣の風切音と。

 ギンッ!! という金属と金属がぶつかり合った刃の音が耳に届いた。

 恐る恐るチャティスが顔を上げる、と――。

 無表情な剣士が、自分が放っておけないとついて来た狂戦士が、目の前に立っていた。


「クリス!」

「大丈夫か、チャティス」


 チャティスを守るように、クリスは剣で銃剣を受け止めている。

 ギギギ、と人と人とが鍔ぜり合えば絶対に発生することのない音を奏でながら、クリスはマスケットの銃剣を押し返した。


「グオ、オオ!!」

「シャルと共に下がっていろ」

「う、うん。クリス」


 チャティスを守りに来たシャルと後方に下がりながら一言。


「気を付けて……」

「わかった」


 クリスは無銘の剣で、ダニエルのベヨネットを弾き飛ばした。


 

 ※※※



 狂戦士が狂化する条件は、大まかにわけて三つある。

 一つは、自分が襲われるというもの。自分が殺されかかった時、内にある何かが狂戦士を狂化させ、本能赴くまま敵を殺す怪物へと変化させる。

 二つ目は、狂戦士の前で人と人とが争いあっているかどうか。狂戦士の前で戦いを行えば、狂戦士はそれにあてられ、刺激され、狂化してしまう。大昔、戦争のたびに横から狂戦士に壊滅させられたことが多数あったのはそのためだ。

 三つ目は、狂戦士にとって大事な人間が襲われること。大切な人間が、傷付けられること。


「……やはりお前はバーサーカーだったな」


 クリスはダニエルと対峙しながら呟いた。

 ダニエルが狂戦士であることは、先程の会話から容易に推察できる。気絶した横に狂戦士が斃れていた、などという逸話は通常有り得るものではない。

 その“気絶”は間違いなく狂化であったと考えられた。そして、それをわざわざ気絶と表現した理由も簡単に想像できる。


(ごくまれに、狂化しないで過ごせるバーサーカーがいる。狂化の条件はあくまで人と人が争うことだ。そこに動物や魔物の類は含まれない。運よく人の争いに巻き込まれず、人に襲われることがなかったのなら――)


 チャティスを不幸な少女と言い表すなら、ダニエルは間違いなく幸運な男である。

 今の今まで狂化する機会がなかったダニエルは、狂戦士に襲われた時初めて狂化した。

 だが、一度も狂化したことのない狂戦士が……自分を人間だと信じている狂戦士が、狂化を狂化と認めるだろうか?

 その答えは目の前に立っている。無自覚でいた狂戦士は、いつしか狂戦士を狩れる唯一の人間と呼ばれるようになった。


「……」


 クリスが思考をしている合間にも、ダニエルは攻撃を加えてくる。

 装填時の無防備状態をカバーするため、近接武器として有能になった銃剣。その凄まじい刺突がクリスに穿たれる。

 刺突武器である銃剣をいちいち防いでいたのでは、リーチの関係上剣の方が不利になる。クリスは繰り出される刺突の際に発生するであろう一瞬の隙を窺う。

 そして、強烈な突きを極小の動きで躱し一気に攻勢に出る。が。


「ピストルの銃杷で防いだか」


 風圧を伴う斬撃を防いだのは、ダニエルが所持していたフリントロックピストルの銃杷だ。ピストルは一撃離脱が基本である。一発撃っても外してしまえば長いリロードタイムを挟まなければならない。

 だが、装填する暇も抜刀する暇もない場合、応急処置としてピストルの銃杷は打撃武器としても使えるように硬く丈夫に作られている。

 もちろん、クリスの剣の斬力はピストルの鈍器めいた銃床の強度より遥かに上回る。しかし、重要なのは剣を防げるかどうかではなく剣がダニエルに到達するまで時間を稼げるかどうかだ。

 クリスの剣がピストルを叩き切った頃には、ダニエルの姿は消えていた。


(距離を取ったな)


 淡々とクリスは分析する。ダニエルはマスケット銃を構え、クリスより数歩離れた位置に跳躍していた。

 カチャ、とダニエルがマスケットの銃口をクリス側に向ける。

 しかし、そんなものは脅威ではない。仮にクリスに向けて銃弾が放たれても、クリスは弾丸を斬り落としながらダニエルに切迫することが可能だった。

 地面を抉る勢いで踏みしめて――クリスは念のために後方を確認する。

 そして、ダニエルの意図を察し、前方ではなく横へと跳んだ。

 轟く銃声と、弾丸を斬り落とした金属音。

 ダニエルは目前に立つクリスではなく……遥か後ろで彼を見守っていたチャティスに狙いをつけていた。

 狂戦士の行動は理性的ではない。時として効率が悪かったり、予想もできないような戦法を取る場合がある。

 それに加え……チャティスは魅了であらゆる災いを誘引してしまう。本来ならば狙われるはずのないタイミングで彼女が攻撃される可能性は十分にあった。


「…………」


 クリスは無言で新しい方針を考える。

 一番の得策としてはチャティスにここより離れた場所へ退避してもらうことだが、辺りに散らばり隠れているであろう山賊たちに狙われる可能性が否めない。

 とすれば、ここでチャティスを守りながら戦うしかない訳だが、自分がチャティスを守れるのか、という問いに対してクリスははっきりとした答えを持ち合わせていない。

 やはり無茶だったのではないか。

 戦闘中だというのに、クリスの心らしき何かは揺らぐ。


「グウウウッ!!」

「ッ!!」


 ダニエルは衝動のまま、得物であるマスケット銃を投擲してきた。丁度、クリスがチャティスに語った投擲武器としての使い方だ。

 槍投げの要領で放たれたそれを、クリスは自分に突き刺さる前に掴み取る。

 が、その防御は致命的な隙だ。クリスが銃剣を掴み取っている間にダニエルが接近する。


「く――」

「オオオオウッ!!」


 ダニエルはもう一丁所持していたピストルで、クリスの頭を砕かんと横に凪いできた。

 頭を後ろに下げてギリギリ回避したクリスは、背中を倒した状態のまま、左手で掴んだマスケットの銃床でダニエルの右脇を殴る。


「グホッ!!」

「ッ!!」


 右手に持っていた剣を凄まじい速度で振り上げピストルを叩き切ると、上半身を素早く上げて頭突きした。

 ウッ、とよろめくダニエルを銃床打撃で打ち殴る。


「ゴハァッ……が……!」


 ダニエルが血を吐きながら倒れ伏した。

 狂戦士が沈黙したのを見て取ると、クリスはマスケット銃を投げ捨て剣を仕舞う。

 と、唐突に右目の視界が紅く染まった。頭突きの勢いで頭に傷を負ったらしい。

 右目を瞑りながら、クリスは周囲を確認する。山賊はひとりも見当たらず、魔物の類の気配も感じない。

 安全だと確かめると、遠くから見守るチャティスを呼び寄せた。


「チャティス。……花のストックはあるか?」



 ※※※



 狂戦士の狂化を止めることができる不可思議な花。クリスはそれを欲している。

 離れた場所からクリスの戦闘……狂戦士同士による狂化戦争を見つめていたチャティスは彼の意図を察し馬車へと駆けた。

 きっと、ダニエルを救うつもりなのだろう。

 ふふん、と機嫌を良くしたチャティスが馬車の積み荷を漁っていると、後ろでチャティスを守護するシャルが声を掛けてくる。


「どうしたの、チャティス」

「クリスがさ……人を、狂戦士を殺さないで済むのがうれしいんだよ」


 チャティスは覚えている。クリスが敵を殺す時のあの悲しそうな顔を。

 じっと見つめなければわからない、ほんの僅かな哀愁を。

 だが、あの花があれば万事解決する。戦う意志のない狂戦士を殺さないで済む。

 それだけでも、自分がクリスについて来た価値はある。無論、最終的には全ての狂戦士が狂化しないで済むような理想の薬を創り上げるつもりだ。

 だがその第一歩を踏みしめられて……チャティスは少しはしゃいでいた。


「やっぱり奇妙なひと」

「シャル?」

「早く行こう」

「うん、そうだね」


 シャルの独り言に首を傾げつつも、チャティスは花と治療用の道具を持ってクリスの元へと急いだ。


「持ってきたよ、クリス!」


 山賊たちは狂戦士同士の闘争に跳び上がり、一人残らず逃げている。

 いくら不幸な天災チャティスと言えども、馬車からクリスのところまでの間に奇襲を受けるなどということはなかった。

 クリスはダニエルの方へと顔を向けているため、表情はわからない。

 恐らく予期せぬアクシデントが起こらないようにと警戒しているのだろう。チャティスが知るクリスはどんな時も冷静でいつも仮面のように無表情で、それでいて人よりも人らしい優しさと悲しみを兼ね備えた狂戦士にんげんだった。


「とりあえずこのひとを治して――え」


 倒れるダニエルの横についたチャティスは、クリスの顔へと目線を上げて――気付いた。

 クリスが頭部に損傷を負っている。頭突きをした部分からたくさんの血が流れていた。


「く、クリス!?」

「どうした? 早くダニエルを治療しろ」


 平然と応じるクリス。だが、チャティスはもう気が気でなかった。

 薬師としての表面を見せると大声で訊き返す。


「大丈夫!?」

「問題ない」

「問題しかない!! シャル、クリスを横に寝かせて! 傷口を見るから!」

「う、うん」


 あまりの剣幕にシャルが驚きながらも言われた通りにする。クリスの方も仕方なし、といった様子で草原に寝そべった。

 草のベッドは衛生面であまりいいものではないが、緊急時には致し方ない。

 浄化用聖水で血を洗い流し、傷口を状態を一目見る。

 見たところ、傷口はそんなに深くない。痛々しいぐらいに割れてはいるものの、手元にある塗り薬でどうにかできそうだ。

 しかし、大事に大事を取るべきである。


「クリス、前渡した薬があったでしょ。どんな傷も一瞬で治す希少薬。あれはどこ?」

「……それはもうない」

「嘘つかないでよ。今まで使うべき状況は何回もあったのに、結局使ってないでしょ?」


 表情としては無であるはずなのに、チャティスはクリスの嘘を即座に見抜いた。

 しかし、と反論するクリスに対し、チャティスはすらすらと使うべき理由を述べていく。


「頭は人にとって一番重要な部分だよ。薬だろうと治療魔術だろうと頭が損なわれてしまったら治せない。他の部位は何とかなるけど、頭だけはダメ。もしここで大丈夫だからと安易に放置していたら、予期しない病気に罹ったりしちゃうかもしれない。病気や怪我は治すのではなく防ぐのが基本なんだよ」

「だが」

「クリス、あなたは私を守ってくれている。だから、今度は私にあなたを守らせて」


 今こそ恩を返す時。そう覚悟する薬師の顔。

 有無を言わせぬチャティスの気迫に、歴戦の狂戦士も従う他なかった。



 クリスの治療を終えて、ダニエルにも処置をして早数刻。うう、という人のうめき声を上げながら、狂戦士だった狂戦士ハンターは目を覚ました。

 薬の効果で瞬く間に傷が完治し、頭の包帯を取ったクリスが呆けるダニエルに話しかける。


「目を覚ましたか」

「ああ……コイツは傑作だ」


 両手に目を落としながら、自嘲気味な笑みをみせたダニエルが呟く。


「まさか俺が……俺自身がバーサーカーだったとは」

「……運よく狂化しないでいたのだろう」

「一騎当千の化け物、か」


 ダニエルは深いため息を吐いた。

 既にダニエルは理解している。他ならぬ自分自身が狂戦士であることを。一度目はただの夢で片付けられた出来事も、二度目とあらば現実だ。

 自分が狂戦士だったと気付いた時一体どのような気持ちになるのか。あくまでも人であるチャティスには推し量れない。

 ただ、今の世界を見るにあまりいい気持ちはしないのだろうな、と思う。誰もかれも、狂戦士を忌むべき害悪だと信じている世界では。


「くそっ、くそ、くそ! とんだくそったれだ!」


 自暴自棄になったダニエルが暴言を吐く。頭を抱え、騒ぎ出す。


「ふざけるなよ! 俺が化け物だって? どこが! 俺はれっきとした人間だ!」

「いや、お前は間違いなくバーサーカーだ。お前自身がよくわかっているはずだ」

「く、くそ!」


 図星だったのかダニエルは反論せずに毒づいた。

 自分が狂戦士だったという事実に押しつぶされそうになっているダニエルを、チャティスはどうにかして励まそうと口を開く。


「あ、あの」

「黙れ! お前にだけは言われたくない!」

「う」


 間髪入れずに放たれた怒声にチャティスは口を閉ざす。

 ダニエルに言われた通りだ。ここで人間はチャティスだけであり、狂戦士の抱える問題というものを客観視でしか理解できない。

 黙れ、と言われて何か言い返せる資格はチャティスにはない。

 チャティスはそう思っていたが、横に立つ狂戦士たちは違かった。


「いや、チャティスには口を出す資格がある」

「うん」


 クリスの言葉にシャルが同意する。

 なんでだ!? と冷静さを失っているダニエルに、クリスはいきなりピストルの銃口を突きつけた。


「な、なにっ!?」


 唐突に放たれる人殺しの咆哮。撃ち穿たれた弾丸はダニエルの真横をかすめ通り地面へと陥没した。

 一瞬固まったダニエルだが、すぐに震える声で取り乱す。


「きょ、狂化する!? くそ、くそ……! あ、あれ」


 しばし狂乱していたダニエルだが、自分の身体に異変がないことに気付く。

 なぜ……? と瞠目するダニエルに、クリスが近くに置いてあった青い花を手渡した。


「……狂化を抑制する効果のある花、これが原因だ」

「な……そんな花があるはずは」

「あったんだよ。誰もバーサーカーを救おうとしなかったから、気付かなかったけど」


 クリスの話を引き継いで、チャティスが応える。

 バカな、と狼狽するダニエルだが、実際に目の当たりにしてしまった事実は覆らない。

 困惑しながらも、その花の効果を受け入れた。

 不思議がって訊ねてくる。


「この花……は」

「その花は私の家の近くに群生していたの。でも、それで狂化を止めようと思ったのはチャティスだけ。……チャティスは、私たちバーサーカーの希望」


 面と向かってシャルに褒められて、チャティスはいつものナルシシズムを発現しながらふんぞり返る。


「私は天才だからね! ……だから、そんなに悲観に暮れなくてもいいよ。私がどうにかするから」

「な、なぜだ……? そんなことをするメリットは」


 ダニエルの問いに、チャティスは少しさびしそうな笑みをみせた。


「だって、放っておけないからね」

「放って、おけない……だと」


 あまりにアレな動機にダニエルはぽかんと口を開けて……大声で笑いだした。


「何だそりゃ? ハハッ! そんなバカバカしい理由で、国を……人を敵に回すのか?」

「む! バカって言った方がバカなんだよ! その点私は天才って言ってるから天才だよね! あなたには理解できないでしょうけどね!」


 チャティスはバカにされるのが大嫌いだ。ふん! と鼻息を鳴らし腕を組んでふんぞり返る。

 憮然としたその態度を見て、ダニエルは笑い止み、いやすまんと謝った。


「正直、さっきの俺はどうかしてた。自暴自棄になってたんだ。バーサーカーハンターなんていう異名が泣いちまうな」

「結局あなたはハンターじゃなかったんだから、最初から泣いてると思うよ」


 無邪気に告げるシャルにダニエルは違いないと首肯する。


「俺は……一度生き方を考えるべきだな。人としてではなく狂戦士としてどう生きるべきか」

「すぐにそんな必要はなくなるけどね!」


 口を挟んだチャティスにまたダニエルは頷き返す。


「違いないな。希望か……妙に惹かれるお嬢さんだと思っていたが」

「……まさかあなたも狼なんじゃあ」

「冗談言うな。まだまだガキじゃないか」

「……っ! ふん!!」


 チャティスはそっぽを向いた。襲われるのは御免こうむりたいが、かといって子ども扱いされるのは嫌いである。

 気難しい自称天才少女にダニエルは苦笑しつつ、もう一度感謝を述べた。


「正直、俺はまだ混乱している。何が何だかわからない。だが不思議とアンタは信頼できる。感謝するよチャティス。……天才のお嬢さん?」


 きざったらしさを取り戻したダニエルは、少し血で汚れているハットを被る。

 天才と言われ機嫌を取り戻したチャティスは、つーんとした態度をみせながらも、


「まぁ、当然の感謝なんだけどね!」


 と少しというかあからさまに喜んだ。




「じゃあ、手筈通りに」

「……問題ないんだな?」


 クリスの問いかけに馬に跨ったダニエルが頷く。世界が黄昏に染まった頃、ダニエルはすっかり元通りのきざで飄々とした性格に戻っていた。


「アンタらには借りがあるし、何とかして誤魔化すさ。……だが、目立つなって言っても無理そうだな」


 全員の視線がチャティスに集中する。う? と戸惑うチャティスを横目に眺めながらクリスが応えた。


「今まで以上に警戒はするつもりでいるが」

「ぶっちゃけ無理だろ。チャームって言ったか? その効果は凄まじい。上手くちょろまかした後、俺も逃げるさ。自分が優れていると勘違いしてる騎士サマの鼻の穴を開かしてやる」


 いたずらっ子のように笑ったダニエルは今一度クリスに向き直り、


「しかし、気を付けろよ。アンタは敵を作りやすい。アンタが敵を殺せば殺すほど敵は増えていく。人は愚かだからな。世界を手にできると錯覚したら最後、敵国全てを滅ぼす勢いで争いかねん」

「野心に囚われた人間は厄介だ」

「あの騎士サマの厄介さときたら相当だ。秘薬を失ってひっそりと暮らしていたアサシンたちすら投入した」

「アサシンたち?」


 チャティスの疑問にダニエルが回答する。


「おうとも。伝説のアサシンは知ってるよな。俺のようなパチモンではなく、正真正銘のバーサーカー殺しをしたっていう。ソイツの子孫らしいんだが、随分可哀想な扱いを受けている」


 説明し終わったダニエルは馬を進行方向へと向けた。


「いいか、今アンタらを狙っているのは騎士リベルテ。この山を越えた先、オイール平原の向こうある帝国エドヲンの領主だ。近国のフストじゃないから間違うなよ?」

「わかった。……よろしく頼む」

「任された。じゃあな」


 ダニエルは唯一壊れなかったマスケット銃を背中に掛けて、馬を走らせた。

 その姿が少々様になっていてチャティスが羨ましがる。

 マスケット銃でも買っておけば良かったかな。

 如何に自分を格好良く魅せるか思案していたチャティスは、クリスに声を掛けられ向き直る。


「なに、クリス」

「……いや、止まっている暇はない。すぐに出るぞ」

「ん、そだね。……じゃ行こう?」

「うん、チャティス」


 チャティスはシャルに呼び掛け、山道で役目を待ち焦がれていた馬の横を通り馬車の中へと入る。

 クリスはチャティスが中に入るまで見つめ、小さく独り言を漏らした。


「このままでいいのか……?」


 自問しても、クリスは答えを導き出せない。

 クリスは御者席に乗り込むと、周囲に目を光らせながら馬車を走らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ