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【平凡少年の場合】

 そう、それはありふれた日常の夜だった。いつものようにベッドに入った俺に異常が起こったのは。

 いつも通りのルーチンをこなし、いつものように疲れた体でベッドにダイブした。そして、これまたいつも通りに妄想を始める。

 別にいかがわしい妄想じゃないぞ? あれだ、ある日学校の帰路に着いていた俺を、急に現れた魔法陣が包み込んだかと思うと、いつの間にか豪華なお城の一室にいて、目の前には美人な姫様と周りにいる騎士達。

 そこで俺は姫様にこう言われるんだ。「この世界を救って下さい、勇者様!」って。それで選ばれし聖剣を引き抜いたりして、姫様と恋に落ちたり、魔王と戦ったり…………くぅーっ! やっぱ良いな!

 因みに学校の友人にこれを話したら、クールな筈のアイツがいきなり大爆笑を始めたんだよ。ほんと失礼だな。

 更に付いたあだ名が「ドリーマー」。叶わない夢を見ている純情少年だから、らしい。

 ……いや、まあその話しは良い。んで、俺は心の底から願ったわけよ。

 神様、何でも良いから俺を非日常に連れていってくれ!! って。

 その願いが通じたのかは解らないけど、急激に俺の意識は薄れていった。







 ――声が聞こえる。意識は無い筈なのに、声だけが聞こえる。

「……には……」

 その聞こえてくる声は、老人のようでいて、幼い少女のよう。若い男のようでいて、妙齢の女性のよう。

 そんな変な声を聞けば気持ちが悪くなる筈なのに、何故か俺は圧倒的な安心感に包まれていた。

 ずっとその声に全神経を注いでいたおかげか、俺の耳は明瞭に声を聞き取る事が出来るようになった。

「……そうだな。このままじゃコイツは直ぐに野垂れ死ぬな」

 野垂れ死ぬって誰がだよ。まさか俺じゃ無いだろうな。

「んーと、前の身体は……可もなく不可もない顔に、中々の身体能力で微妙な頭」

 ……し、失礼な! 普通とか言うなよ! それ言われて傷付くんだぞ!

「んじゃ、容姿が少しばかりランクダウンして、身体能力大幅アップで良いか。事前知識は殆ど無し、と。これで死なんだろう」

 ほお。それは俺がボーナスを貰うのか? ……出来ればランクダウンは止めて欲しいなぁ。

「これで良いか。んじゃ、精々愉しませろよ、我の木偶人形よ」

 その声が聞こえると共に、自分の身体が何処かへ引っ張られて行く。俺の胸には、未知への不安と、未知への期待が渦巻いていた。

 多分だけど、神様が非日常をくれたんだ。目一杯楽しまなきゃな。

 そう思い、この流れに身を任せるのだった。










 ――無い。無い無い無い。意識が戻った俺がまず感じたのは、凄まじい喪失感と寂寥感だった。

 とりあえず目を開くと、どうやら俺は何処かの石畳の上で眠っているようだ。って石畳ってどういう状況だよ。

 身体を一通り見回し、そして、俺は違和感の正体に気付いた。

 無いのだ、あれが。聖剣エクスなんとか、或いはマイサン、或いはビッグスティック、或いはキャノン砲。

 ――そう。漢の象徴たるあれが消失していた。

「なん……だと!?」

 解ってくれるか、俺の気持ち。大切なものはいつだってそう、――失ってから気付くんだ。

 ……ってちょっと待て。なんで相棒が無くなってんだよ有り得ないじゃないかおい。しかも声がなんか高くなってるし美声だし。

 えーと、さ。まあ俺は、変わる事の無い日常からの脱却を願ったよ? 確かに。

 でもさ……。

「女になりたいとか言ってないじゃないですかーーーッ!!」

 思いの丈をぶちまけると、横にある家の天井から驚いたのか、カラスみたいな鳥が飛び去った。

 ……それよりも。ここは何処か、それを調べなければ大変だ。日本は論外だとして、果たしてここは地球なのか? ……いや、地球じゃないな。

 俺がそう確信したのは、辺りを煌々と照らす天空の星。つまりは月を見たんだが、それだ。

 俺が居た世界に、月は六つも無かった。……六つって随分と多いな!

 ……くそ、情報が圧倒的に足りない。そもそもこんな年齢の女の子がこんな時間に居たら危ないだろうに。とりあえず移動するか。

「よっ……ととっ!?」

 ちょっと待て、何で立ち上がれない。これはあれか? 俺の内に秘めたる力が渦巻いて動けないとか?(※急に身体が変わったので動かせないだけです)

 くそ、歩けるようになるまでリハビリ? でもするとするか。

 ――……俺は努力したさ。それはそれは血の滲むような厳しい努力をな。何度倒れても再び立ち上がる、七転八起不屈の精神で。

 そして、俺は遂に……。

「立った! ク○ラが立ったー!」

 あの名言を口にするほどにはテンションが上がっていた。

 そう、努力は必ず勝つのだ! ……さて、安全な寝床を確保しなければ。

 移動のついでに町並みを観察して行くか。 歩いて行く度に俺のテンションは急上昇。

 だってあれだよ? これぞファンタジーって町並みだよ?

 これぞ俺の求めていた非日常! って感じだ。

 ……ん? あそこなら大丈夫じゃないか?

 俺が目を付けたのは、小川に架かっている石橋だ。その両端にある根元にある影になっている所って言えば解るかな。

 そこならバレる心配も無いし安眠出来る。

 そそくさと倒れ込むように寝転がる。今夜だけで色々とあったからか、直ぐに瞼は重くなっていった。

誤字脱字誤用等ありましたら、報告お願いします。

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