プロローグ
ある場所に、それはそれは平凡を絵に描いたような少年が居ました。
普通に優しい両親に、普通に優しい妹。これまた普通な自分自身。
学校に通い、勉強で疲れた後は部活動に精を出す。家に帰ると家族皆で一緒に晩御飯。
そんな普通でいてそして恵まれた生活を送っていましたがしかし、少年はこの日常と言う素晴らしき日々に不満を感じていました。
諸行無常のこの世の中で、自分の周りだけはさして何も変わらずに、ただ漫然と日常を過ごす。そんな事に少年は焦りやら不安やらを覚えたようです。まあ、中学二年生で誰もが罹る病を、未だに患っていたのでした。
それも仕方の無い事。幸せと気付かない時こそが幸せなのです。そしてそれに気付くのは、老成した人生の先達か、些か不幸な生い立ちで、人生の理不尽さに揉まれた特殊な人間くらいなもの。
少年は、その当たり前と言う幸せを享受する事を良しとしませんでした。
――そう、少年は願ったのです、非日常を。
そしてその想いはとても強く、遂には神様にまでも届くのでした。
所変わって少年とは遥か遠い、決して交わる事の無い筈の場所に、とある王女様が居ました。
彼女は王様と妃様の間の四人目の女の子。つまり、彼女は第四王女となります。
王族に生まれ、豪華絢爛な物に囲まれながら、彼女はすくすくと育っていきました。
10歳を迎える頃には、既に彼女はその才覚を発揮していました。そう、彼女は凄まじく頭が良かったのです。皮肉にも、姉達よりも遥かに。
そしてその頭の良さ故に気付いてしまいました。第四の王女たる自分が、第一、第二、第三を差し置いて頭の良さを発揮して、親である王に気に入られると、姉達からは疎まれ、周りには媚びを売る腐った貴族共で溢れる事に。 こうして彼女は本当の自分を隠し、手のかかる頭の悪い我が儘な王女として振る舞っていく事にしたのです。
ですが、彼女はその加減を間違えてしまったのです。
余りの我が儘さに、姉達は愛想を尽かし、親である王様にさえも見限られました。
これでは政略結婚にさえも使えないとなり、実力主義のきらいがあった王様は、あっさりと第四王女を捨てる決意をしました。
ある日、着の身着のまま王宮から放り出された第四王女。こんな事をしては噂になるはずと周りの人に聞いて回れば、第四王女は重い病気を患ってしまい、その治療と隔離の為に離宮に住んでいる、となっていたのでした。
それを聞いた元第四王女様は、心の中で叫びました。
――私は、普通の生活が送りたかっただけだ! と。
その心からの渇望は、偶然にも神様まで届いたのです。
そんな少年の願いと王女の願いを受け取った神様は、少しの逡巡の後、名案を思い付いたのです。
非日常を望む少年、日常を望む王女、この二人の魂を入れ替えれば良いじゃないか、と。
そんな神の思い付きにより、決して交わる事の無い異なる世界の魂は、一瞬にして神が見遣る中で入れ替わったのです。
――さて、この人間達は、どんな滑稽な舞台を踊ってくれるのか。と、神はいつまでも嘲笑っているのでした……。