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雪の花   作者: 春野天使
3/3

雪の花 後編

 エリーとリアはすぐにゼルダの指導を受け、『雪の花』の肥料作りに取りかかった。ゼルダは起きあがることが出来ないので、ベッドの傍らでゼルダの説明を聞き、リアはこれからのためにも書き留めておくため、せっせとペンを走らせた。

 魔法の力でなんとか目覚めているゼルダは、しばらくするとすぐに眠りそうになるが、ずっと側にダリルがついているお陰で眠りに落ちることはなかった。ゼルダはすっかりダリルが気に入ったようだ。

 肥料の材料集めや手伝いは、村人達も協力して行ってくれた。もう12月になり、クリスマスも後わずか。村人達はなんとしても雪のクリスマスを迎えたかった。


 肥料作りを初めて7日目。ようやく肥料は出来上がり、後は乾燥させるだけとなった。

「明日には『雪の花』に肥料を与えられそうね」

 広間の暖炉の前に並べた肥料を見ながら、エリーは言った。

「上手く肥料が効いてくれるといいがね」

「ゼルダさんを一人にして大丈夫?一時もあなたを放したくないみたいよ」

 エリーはダリルを見て、フフッと笑った。

「魔法が効いているせいもあるが、彼女はよく持ち堪えているよ。どうやら、彼女は僕に恋をしたみたいだね」

「あら、そうなの?」

「ダリル!きて、ゼルダさんがよんでるよ!」

 奥の部屋からサムの声がする。今日はサムもカラスとネコを連れて、ゼルダの元に来ていた。

「恋の力は魔法より強いらしい」

 ウィンクしてゼルダの元に行くダリルを、エリーは微笑んで見送った。


 ダリルがゼルダの元に行くと、ゼルダは穏やかな顔をして窓の外に目を向けていた。

「ゼルダ、お呼びですか?」

 ダリルは胸に手をあてて、軽くお辞儀をした。ゼルダはにこやかな顔をダリルに向ける。

「雪は降るかねぇ?」

「ええ、きっと。あなたが教えてくれた肥料のお陰で、明日にでも降り始めますよ」

「そうじゃな、あのエリーという小娘もリアと一緒によくやってくれた。私は、毎年真っ白な雪を見るのが楽しみなんじゃ。私が手がけた『雪の花』が 咲いて、空から雪が降ってくれることが、何よりの幸せじゃ」

 ゼルダは子供のように、顔を輝かせる。

「おばあちゃん、ぼくもゆきをみてみたい」

 サムはゼルダの口元を見ながら、声を出して微笑んだ。

「そうじゃ……お前たち若い男に『雪の花』の伝説の話をしておこう」

「『雪の花』の伝説?」

 ダリルは軽く眉をつり上げて、ゼルダに目を向ける。

「私は昔、伝説のお陰で素晴らしい愛を授かったのじゃよ。お前達に愛する人が出来たなら、ぜひ試してみるといい……」

 ゼルダはダリルの手を握ると、ニッコリと笑った。


 翌日の朝早く。

 エリーとダリルは肥料のたくさん詰まった袋を抱え、箒に乗って『雪の花』の丘にやってきた。一面に咲き誇る『雪の花』は、以前と同じように白く堅いつぼみのままだった。

「ゼルダにかけた魔法の力がきれるのも時間の問題だ。急いで花を咲かせないと」

 ダリルはゼルダが目覚めているうちに、ゼルダに雪を見せたいと思った。

「肥料をかけてすぐに花が咲くかしら?」

 眼下に広がる『雪の花』を見て、エリーは少し不安になる。

「本当なら、2、3ヶ月の期間が必要よ」

「時間を早めることくらい、魔法の力を借りれば簡単さ。雪の花は咲く。君が作った肥料に問題がなけりゃね」

 ダリルはフッと笑うと、箒に乗って移動しながら肥料の袋を上からばらまいていく。エリーも箒の上から肥料をまいていった。一通りまき終わると、ダリルは呪文を唱え『雪の花』に向かって杖を振りかざした。箒で移動しながら、それを何度も繰り返した。

 エリーは箒から丘の上に降り立ち、花の様子を観察する。ダリルが呪文を唱えるたびに、肥料は土の中に吸い込まれるように入っていった。

 しばらくして、ダリルもエリーの元に降りてきた。

「これくらいでいいだろう。効き目の時間は最高速度に早めておいた」

「早すぎて、雪の花に影響はないかしら?」

 まだ何の変化もない『雪の花』を見つめながら、心配そうにエリーが言う。

「僕の魔法の力を信じないのかい?偉大な魔法使いダリルの魔法に狂いがあるはずないだろう」

「そうだといいけど……」

 エリーはしゃがんで、そっと『雪の花』に触れてみた。

「あ……なんだか温かいわ」

 手に触れた『雪の花』から、エリーはわずかな温もりを感じた。

「そろそろ効いてきたかな?」

 ダリルは口元を弛める。

 やがて、丘の上一面に咲く『雪の花』達が、微かに揺れ始めた。白く堅いつぼみが徐々に頭を上げ、ゆっくりゆっくり花びらを開き始める。そして、何万本と植えてある『雪の花』がいっせいに花開き、丘を白一色に変えていく。

 その美しい光景に、エリーとダリルもしばし言葉を失い見とれていた。

「本当に雪のよう……」

 咲き誇った『雪の花』が白く輝き始めた頃、ひとひらの雪が空から舞い降りてきて、エリーの肩に落ちた。

「雪?」

 エリーが空を見上げると、厚い雲に覆われた空から次々に雪が舞い降りてきた。

「本物の雪のようだな」

 ダリルは手をかざし雪を受けとめる。エリーとダリルの体は、あっという間に白く覆われていった。だが、温かな『雪の花』の上に降る雪は、すぐに溶けていき積もらなかった。

「雪の花をずっと観ていたいが、そろそろ帰ろうか。2人とも雪だるまになってしまう」

 ダリルはフフッと笑うと、エリーの肩に積もった雪をそっと手で払った。

「あっ……ダリル」

 箒に乗ろうとするダリルにエリーは声をかけた。

「何だい?君は雪だるまになりたいのか?」

「いいえ。その……伝説の話」

 エリーはダリルが話した伝説の話を思い出す。満開になった雪の花の丘に降り立った男女は愛し合い結ばれるという……ダリルに心を読まれないよう注意するエリーだが、自然と頬が赤くなる。

「あの伝説の話?君は信じているのかい?」

「ウソだったの?」

 とぼけた顔をして笑うダリルをエリーは睨む。

「君が僕と愛し合いたいと思ってくれるとは、光栄だな」

「……ウソで良かったわ!」

 エリーはサッと箒にまたがると、ダリルを置いて雪の降る空に飛び立った。次第に遠のいていくエリーの姿をダリルは目で追う。

「少しからかい過ぎたかな……」

 エリーはまだまだ感情のコントロールが出来ないとダリルは思う。あれでは、他の魔法使いにすぐに心を読まれてしまう。ダリルは微笑むと、一輪の『雪の花』をそっと摘み取った。

「ま、その方がこっちは動きやすい」

 手の中に微かな温もりを感じながら、ダリルは『雪の花』を見つめた。


 村は、雪で真っ白に染まっていた。

 木々、家々、道、次から次へと降り続く雪のため、全ては雪に埋もれていく。

 部屋のベットの上から、ゼルダは嬉しそうに窓から見える雪を見つめていた。

「あぁ、雪じゃ……今年も村に雪が降る。私の『雪の花』が咲いたんじゃな」

 ゼルダは夢見心地で、安堵の吐息を吐いた。

「あのエリーという小娘もなかなかやるわ……後はリア達に任せたらいいな」

 ゼルダは眠そうな目でそう言うと、瞳を閉じてコックリコックリとし始めた。

「……ダリルは良い男じゃった……」

 ゼルダは夢の中に吸い込まれるように、眠っていった。

「ゼルダおばあちゃん?眠っているの?」

 ゼルダの部屋に入って来たリアは、幸せそうな顔をして目を閉じているゼルダに目を向けた。

「おばあちゃん?」

 リアが軽くゼルダの体を揺すっても、ゼルダはもう目覚めなかった。

 ゼルダは永遠の眠りの中へと落ちていった。しかし、それはとても安らかな眠りだった。


 エリー達は、雪のスノーヴィレッジでクリスマスを迎えた。初めての雪のクリスマス。小さな村の温かな人々達と楽しいクリスマスのひとときを過ごした。そこにはもうゼルダの姿はなかったが、ゼルダが残した『雪の花』は丘一面に咲き誇り、これからもずっと咲き続けていくことだろう。


 そして、雪が止み青空の見えたある日の朝。

 ダリルとエリーとサムは、カラスとネコと共に、スノーヴィレッジを旅立った。

(僕、この村すごく気に入ったよ!来年の冬もう一度来たいなぁ)

 サムは真っ白な雪の道を、キュッキュッと踏みしめていく。

(また来ましょう、リアさんとも約束したから。来年は魔法の力なしで『雪の花』が咲くところを観たいわ)

 エリーはサムと心の声で話ながら、並んで歩く。まだ誰も歩いていない雪道に、2人の足跡がついていく。

(ダリルは?)

 サムは後ろを振り返るが、ダリルの姿はまだ見えなかった。

(さっき、お店の若い女の人と話していたわ。そのうち来るでしょ)

 エリーはそっけなくそう言うと、足を早めた。

 しばらくすると、カラスがエリーの元に飛んできた。エリーとサムが上空を見上げると、カラスはカァカァと鳴き、空の上から口に加えていた何かを落とした。それは、ゆっくりとエリーの手元に落ちてくる。

「何?」

 エリーの手の中に、リボンで飾られた紙包みがちょこんとおさまる。

(きっと、ダリルからのクリスマスプレゼントだよ!)

「……」

 エリーはゆっくりとリボンをほどき、紙包みを開けた。

「あ?」

 それは金色のペンダントだった。丸いペンダントトップには白い花びらが埋め込まれていた。

(この花びら、もしかして『雪の花』?)

「エリー、プレゼントは気に入ってくれたかな?」

 声のする方を見上げると、箒に乗ったダリルが浮かんでいた。

「君たちは歩くのが速すぎる。危うく置いて行かれるとこだった」

 ダリルはフフッと笑うと、箒を降りた。

「ありがとう……でも、勝手に『雪の花』を摘み取るなんて」

「貸してごらん」

 ダリルはエリーの手からペンダントを受け取り、エリーの首にかけた。

「何万もの『雪の花』の一本くらい良いだろう。花を咲かせた褒美くらいもらっても良いはずだ」

「エリー、とてもにあってるよ!」

 サムはペンダントを見つめながら、声に出して言った。『雪の花』のペンダントはエリーの胸元でキラキラと白く光っている。

「そのペンダントはなくさないように。さて、長居が過ぎたようだから、旅の遅れを取り戻さないと」

 ダリルは雪の道を歩き始めた。

(あっ、エリー『雪の花』の伝説って知ってる?)

 サムは思い出したように、エリーの心に問いかけた。

(……伝説の話はもういいわ。ダリルから聞いたんでしょ)

 エリーはため息をつく。

(違うよ、ゼルダおばあちゃんに聞いたんだ)

(ゼルダさんに?)

(うん。あのね、『雪の花』は、一番大切な人への贈り物なんだって。プレゼントされた『雪の花』をずっと大切にしていると、2人の間は永遠に愛で結ばれるんだって。だから、もし僕達に愛する人が出来たら『雪の花』をプレゼントしなさいってゼルダおばあちゃんが言ってた)

「……」

 エリーはペンダントを見つめる。

(ダリルはエリーを愛してるってこと?!)

 エリーの胸の鼓動が高まる。

「!……サム、黙ってなさい」

 笑顔で見つめるサムの手を掴み、エリーは先を歩くダリルを追う。ダリルは2人の気配を感じると振り返り、微笑んでウィンクした。

「では、参りましょうか?」

 そう言ってダリルは、そっとエリーの片方の手を取った。エリーは顔を赤らめ、微笑みを返す。胸元のペンダントが太陽の日に反射してキラリと光った。

(ダリル、僕にも愛する人が出来たら、『雪の花』をプレゼントするよ!)

 サムはエリーの向こう側から顔を上げ、ダリルにウィンクした。

 ダリルとエリーとサムは、手をつなぎ並んで雪道を歩き出す。三人と一匹と一羽の新しい旅が、また始まる……




読んで下さってありがとうございました。

約1年ぶりに「魔法使いのいない国」の続編を書くことが出来ました!久々のキャラとの再会が嬉しかったです。(^^)またいつか続編を書くかもしれません。

「魔法使いのいない国」第一部、第二部をまだ読んでいない方は、ぜひ読んでみて下さいね。(長いですが…)

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