片思い通信
体育棟と呼ばれている建物は古びていて、至る所に亀裂が入っている。
いかにも何かが出そうなこの風貌に加え、来月取り壊しが決まっているとなれば、近づこうなどという生徒は誰もいない。
屋上に続く階段の上から二段目。床が剥がれている場所がある。
「恰好の隠し場所だな」
この場所を指定してきた彼女とは、同じ委員会というだけで、ほかに接点はなかった。
大事な話があるからと言われて来てみれば、可愛らしいノートが階段に挟まっていた。
内容は、先輩に言い寄られている、とのこと。
俺にどうしろと?
あまり話したこともない俺に打ち明けるような内容か?
もしかして俺に気があって試されているとか?などという邪な気持ちもよぎったが、その先輩と俺は割りと仲がいい。
なんだ、そういうことか。
たしか先輩は他の学校に彼女がいたはずだ。
上手くいってないからって、ちょっと好みの彼女にちょっかいをかけているのだろう。
もちろん、あわよくばを狙っているのは明白だが。
君が、先輩に好意を持っていたらごめん
せっかく頼りにしてくれたのだから、俺の知っているありのままを伝えるよ。
そう宣言した上で事のなりゆきを綴った。
好意があるなら二番手になる覚悟をしろ。そうでないなら、何か言われてもそっけなくしてろ。
作文は苦手だったが、わりとすらすらと書けた。
書き終えたノートは元の場所に隠しておいた。
その後、彼女を意識して見るようになった。
まとわり付いていた先輩は、反応を見せない彼女の態度に飽きたのか、最近はあまり寄り付かなくなっていた。
「あれでよかったのかな」
人の役に立ったような気がして、少し、優越感だった。
その後、彼女と親密になることもなく、今までと変わらない委員会で少し会話する程度の関係が続いた。
体育棟の取り壊し日がやってきた。
そういえば、とノートの存在を思い出した。
あの日限りのやりとりだと思っていた。問題は多分解決したからだ。
だけど、少し興味に駆られた。
もし、もし返事が来ていたら?
そんなことありっこないと思いながらも、足は屋上へと続く階段へと向かっていた。
はたしてそこにノートはあった。
もしかして読まれていないのかもしれないと思った。
階段の隙間からノートを取り出すと、新たな一ページが追加されていた。
【先輩と仲がいいみたいだったので、思わず相談してしまいました】
【委員会が一緒なだけで、あまり会話もしたことない私の悩みを聞いてくれて、本当にありがとう】
【好意があったわけではないので、できるだけそっけなくしてみました。そしたらね、あまり相手してこなくなったの。ほっとしたけど、ちょっと酷いよね。】
【もし、またこのノートを見てくれたなら交換日記、っていうのかな。続けたいな、と思いました】