第7話:未知との遭遇(?)
朝、目が覚めた瞬間から、違和感はあった。
「……重い」
体が、鉛のようにだるい。
寝不足でも、風邪でもない。
なのに、起き上がるだけで息が上がった。
「……なんだ、これ」
洗面所へ向かい、鏡を見る。
目の下に、くっきりとした隈。
顔色も、明らかに悪い。
「昨日、そんな無理したか……?」
記憶を辿るが、心当たりはない。
仕事中も、集中できなかった。
立っているだけで、時々視界が揺れる。
「……っ」
一瞬、世界が砂嵐に包まれた。
ほんの数秒。
だが、確実に。
「……気のせいじゃ、ないよな」
背中を冷たい汗が伝う。
帰宅後、翔はすぐにベッドへ倒れ込んだ。
「……寝れば、治る」
そう自分に言い聞かせ、
目を閉じる。
――だが。
眠りに落ちかけた、その瞬間。
ジジッ……
「……?」
耳障りなノイズ。
聞き覚えのある音。
翔は、はっとして飛び起きた。
机の上。
置いたままのはずの装置が、勝手に起動していた。
「……は?」
画面には、激しい砂嵐。
触れていない。
スイッチも、入れていない。
「おい……」
次の瞬間。
ノイズの向こうに、
人影ではない“何か”が映し出された。
細長い輪郭。
大きな黒い目。
人間とは、明らかに違う。
『……やっと、繋がったか』
「…………は?」
翔の喉から、間の抜けた声が漏れた。
「……誰、だよ」
沈黙。
そして。
『この装置の、本来の持ち主だ』
「…………は?」
理解が、追いつかない。
宇宙人。
その単語が、頭をよぎる。
だが、現実感がなさすぎて、
冗談のようにしか思えなかった。
『驚くのは当然だ。
だが、時間がない』
「……時間?」
『お前の“使用状況”が、想定より早い』
翔の背筋に、ぞくりと悪寒が走る。
「……何の話だ」
『その装置は、旧型だ』
「……旧型?」
『本来、回収する予定だったが――
まあ、釣り上げたなら仕方ない』
あまりにも軽い口調。
現実感が、さらに遠のく。
「……なあ」
翔は、震える声で言った。
「それ、何なんだよ。
この装置……」
一瞬、ノイズが走る。
宇宙人は、じっと翔を見つめた。
『……時間を、削る』
「…………は?」
『交信した時間分だけ、
お前の寿命が、な』
頭が、真っ白になる。
「……冗談、だろ」
『事実だ』
淡々とした声。
『だから言った。
旧型だ、と』
心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
「……俺は、どれくらい……」
宇宙人は、少し間を置いて答えた。
『すでに――
1ヶ月ほど失っている』
「…………」
言葉が、出なかった。
頭の中で、
今までの出来事が、一気に繋がる。
視界のノイズ。
異常な倦怠感。
未来の自分の沈黙。
『だが、安心しろ』
宇宙人は、あっさり続けた。
『お前の使い方は、
まだ“可愛い”部類だ』
「……可愛い?」
『本当に危険なのは、
これからだ』
画面が、大きく歪む。
『選択は、癖になる』
『そして人間は、
一度得た力を、手放せない』
ノイズが、急激に強くなる。
『――せいぜい、足掻け』
その言葉を最後に、
画面は、完全な砂嵐に変わった。
そして、沈黙。
翔は、しばらく動けなかった。
「……寿命、削る……?」
喉が、からからに渇いている。
笑おうとした。
だが、口角が、ぴくりとも動かなかった。
机の上で、
装置が、静かに沈黙している。
「……ふざけんなよ」
誰に向けた言葉かも分からないまま、
翔は、そう呟いた。
だが。
胸の奥に芽生えた感情は、
恐怖よりも、後悔よりも――欲望だった。
――それでも、使ってしまう。
そんな確信だけが、
はっきりと、そこにあった。




