第4話:少しだけ、調子に乗った
財布の中身を確認して、翔はもう一度ため息をついた。
「……マジで増えてる」
減るはずだった金が、減っていない。
それどころか、しっかり増えている。
銀行口座の数字。
競馬の払い戻し。
そして、部屋に鎮座する巨大テレビ。
「……使っても、いいよな」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
翔はその日の夕方、街に出た。
いつもなら素通りする店に、今日は足が止まる。
「ラーメン……千円超えか」
一瞬だけ迷って、入った。
トッピング全部乗せ。
餃子とチャーハンも付ける。
「……うまっ」
味がどうこうより、
値段を気にせず頼めたことが、妙に嬉しかった。
その勢いのまま、服屋に寄る。
普段なら見るだけのマネキン。
「……これ、ください」
店員の「ありがとうございます」に、少しだけ背筋が伸びた。
夜。
帰宅した翔は、箱からテレビを出した。
「……でっか」
電源を入れると、部屋が一気に明るくなる。
映画の予告映像が、壁いっぱいに広がった。
「勝ち組じゃん、俺」
ソファに寝転び、笑う。
――その時。
「……?」
画面の端が、ほんの一瞬だけ乱れた。
砂嵐。
ほんの一コマ分。
「……気のせいか」
テレビはすぐに正常に戻る。
映像も、音も、問題ない。
だが、翔の胸に、
小さな引っかかりだけが残った。
机の上に置かれた、あの装置。
トランシーバー型のそれが、
誰にも触れられていないのに、微かにノイズを漏らす。
「……使いすぎ、か?」
冗談めかして言ってみるが、
笑いは、自然と消えた。
――小金持ち。
確かに、悪くない。
でも。
「……これ、どこまで続くんだ?」
翔は、答えのない問いを、
誰もいない部屋で呟いた。




