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パラノイズ〜人生の選択〜  作者: ムーンキャット


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30/38

第30話「却下された選択」

残り1日の夜

部屋の空気は、まだ張りつめたままだった。

一週間の猶予。

その言葉だけが、時計の秒針より重く響いている。

沈黙を破ったのは、綾華だった。

「……ねえ」

翔を見る。

迷いは、もうなかった。

「だったら」

まっすぐな声。

「私の嗅覚を差し出す」

翔の目が見開かれる。

「なに言って……!」

「だって」

綾華は、一歩も引かない。

「あなたはもう嗅覚を失ってる。次は触覚でしょ?」

「それ以上失ったら、絵も描けなくなる」

「生きる意味まで奪われる」

息を吸う。

「だったら、私が――」

「ダメだ!」

翔が叫ぶ。

「そんなの、選択じゃない!」

その瞬間だった。

――ノイズ。

空間が、ざらつく。

壁も、床も、天井も、輪郭を失う。

『無意味だ』

宇宙人の声が、冷たく響いた。

『成立しない』

綾華が、声の方向を睨む。

「どうして?」

『契約とは、選択と代償が一致して初めて意味を持つ』

『彼女が差し出すのは、自己犠牲ではない』

一拍。

『ただの代替だ』

翔の背筋が、凍る。

「……じゃあ」

綾華が、声を震わせながら言う。

「それは、何になるの?」

『逃避だ』

即答だった。

『選んだ未来を、他人に支払わせる行為』

『それでは“選択する未来”にはならない』

綾華の唇が、きゅっと結ばれる。

「……そんなの」

「残酷すぎる」

『世界は、優しさで回っていない』

ノイズが、低く唸る。

『帳尻は、必ず選択者に戻る』

『それが、この世界の仕様だ』

翔は、拳を握りしめた。

「……俺が」

「俺が全部、背負えってことか」

『理解が早くて助かる』

その言葉に、怒りが湧く。

綾華が、翔の腕を掴んだ。

「翔……」

声が、かすれている。

「ごめん」

「何もできない」

翔は、首を振った。

「違う」

「それでいい」

綾華を見つめる。

「それが……俺の選択だ」

『では、再確認する』

宇宙人の声が、淡々と告げる。

『次に差し出すのは、触覚か?』

『猶予は、残り1日』

『それまでに拒否すれば――』

一拍。

『世界が、強制的に回収する』

「……分かった」

翔は、低く答えた。

『覚えておけ』

『代償を払う覚悟のない選択は、最初から選択ではない』

ノイズが、引いていく。

静寂が戻った。

綾華は、俯いたままだった。

「……私」

小さな声。

「あなたの代わりになれないんだね」

翔は、そっと彼女を抱き寄せた。

「なれなくていい」

「俺が選んだ未来だ」

綾華の肩が、震える。

「……嫌だよ」

「失われていくのを見るの」

「止められないのも」

翔は、彼女の髪に顔を埋めた。

「だから」

「最後まで、見ててくれ」

それが、

守れる唯一の方法だった。

その夜。

翔は、眠れなかった。

指先を、何度も確かめる。

まだ、感じる。

(次は……ここか)

触れるという行為が、

期限付きの贅沢になった夜だった。


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